5号館を出て

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 Natureという雑誌は進化の話題が好きで、しょっちゅう取り上げるのですが、新しい研究成果は話題性を狙いがちになることが多いものなので、時間がたってみると反論や否定する説が出てしまうこともまた多いということになります。
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 2008年には、私もこのブログで取り上げたのですが、もっとも原始的な多細胞生物とされることが多いカイメンよりも、2本の触手を持って左右相称動物の先祖と思われるようなクシクラゲ(上の写真参照:これは一般に「海のグースベリー」と呼ばれるクシクラゲ)がより原始的なグループであるという論文が出ています。
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 しかし、残念ながらその翌年にはCell Pressから出ているCurrent Biologyにやっぱりカイメンのほうがクシクラゲよりも原始的だという反論の論文が出ています。そして、ここではクシクラゲはクラゲと同等のカイメンの後に出現した動物という位置に落ち着いています。
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 いずれも遺伝子や遺伝子の転写産物を調べて比較しているという意味では分子系統と呼ばれる研究分野の成果なのですが、とりあえず現時点までを考えると後に出た論文の方がさらに反論を受けていない限り、より広く受け入れられていると考えてまず良いのだと思います。

 一方、2011年には5億8千万年前の化石が中国から出てきて、それを見ると当時すでに出現していたクシクラゲの先祖は、2本の触手を持った左右相称ではなく、今のクラゲよりもさらに原始的な形態をしているように見えるため、クシクラゲはカイメンよりも後に出現したかもしれないけれども、同じくらい古くからいて、クラゲよりは原始的と考えられるという説も出てきました。
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 こういう論争に最後の決着をつけると考えられているのは、動物の持つすべての遺伝子(全ゲノム)を調べあげ、そのすべてを比較することだという「風潮」があるのですが、クシクラゲにもついにその日がやってきたようです。
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 これまたNature Newsで、Natureとしてはカイメンよりもクシクラゲが多細胞動物のご先祖様であって欲しいのかと勘ぐる人もいるかもしれません、(私も、少々そう思ってはおります・・・笑)。

 今回のニュースは実はまだ論文になっていない学会発表の段階での報道なので、その分は学問的信頼度は差し引いて考えておいたほうがいいかもしれません。

 それにしても、Natureが取り上げているのですから、引用する価値はあると思います。

 シアトルのワシントン大学のBillie Swalla達は一番上に写真で出ているグースベリー・クシクラゲのゲノムを解析して、1月3日から7日までサンフランシスコで開かれていたSociety for Integrative and Comparative Biologyの年会で発表したのは、クシクラゲはカイメンよりも原始的なグループなのだということだったのです。フロリダ大学のグループは下のほうに出ているクシクラゲMnemiopsis leidyiのゲノムを解析し、クシクラゲはカイメンよりも原始的であるか、あるいは同等に原始的だと結論しています。

 結局、今生きているカイメンとクシクラゲを比較すると明らかにクシクラゲの方が複雑な体制をしているので、後に進化してきたように見えるかもしれないけれども、両者の先祖がどういう形態をしていたかなどということは今行きている子孫をいくら見比べてもわからない。だからゲノムの結果のほうが信頼できるというのが、彼らの主張です。

 最近注目を集めているmicroRNAという遺伝子産物があって、あらゆる動物で広く重要な働きをしていることがわかっているのですが、クシクラゲはmicroRNAを作るために必要な酵素を持たない唯一の動物だということです。さらに、クシクラゲやカイメンは他の動物がみんな持っている遺伝子ファミリーのうち持っていないものがあるのだとも言っています。もしカイメンがクシクラゲよりも後に進化してきた動物だとしたら、その後に「退化」したと考えられます。あるいはカイメンは我々がまだ知らないユニークな性質を持っているかもしれません。

 彼らの報告が論文になるのを楽しみにしたいと思いますが、カイメンとクシクラゲのどっちが原始的なのかという論争はまだしばらく続きそうな感じがします。

 傍で見ているだけでも楽しい動物の起源論争です。
# by stochinai | 2013-01-11 20:38 | 生物学 | Comments(0)

1月10日のtwitter

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【訂正: Gcogle play でした。】みんな気をつけろ! ニセ「Google Play」がウイルスを散布中 : ギズモード・ジャパン http://t.co/RTld6qt8


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【記録づくしの冬】36年ぶり 札幌で10日連続の真冬日に HBC NEWSi http://t.co/sz1mJJ7x 「10日の予想最高気温は、氷点下5度(実際は3.6℃)と、10日連続の真冬日になる見込みで、1月上旬としては、36年ぶりのこととなります。」


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【祝・就航】スカイマーク 新千歳―仙台線4月就航 HBC NEWSi http://t.co/QGUazV2o 「4月20日から1日3往復・ボーイング737・運賃は2月中に公表・新千歳―関西線から3月で撤退・スカイマークが仙台空港に就航・初めて・同じ・日に・福岡―仙台線にも就航」


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【高い時は我慢!】野菜の価格、なぜこんなに高い?HBC NEWSi http://t.co/U6mXGsbh 「キャベツは、1玉298円。白菜は、半分で248円。レタスは1玉398円・主な産地となる関東を寒波が襲ったため、12月中旬ごろから価格の高騰・もうしばらく続く見通し」


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【死者は順調に減っている】戦後の交通事故・負傷者・死亡者をグラフ化してみる(2013年1月更新版):http://t.co/VMme8fEc http://t.co/m5LGumVo 「減少・2001年以来12年連続・「第一次交通戦争」・1970年の1万6765人の3割足らず」


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【気になる本】平野啓一郎「私とは何か 『個人』から『分人』へ」|ihayato.news http://t.co/uhHuDUv6 「かなり面白いです。救われる人が多そうな一冊。読書メモ」アマゾン・キンドルはこちら http://t.co/tg5S26ug


posted at 14:07:33


【クシクラゲの逆襲】2008年にクシクラゲがカイメンより祖先型だという系統樹が出て、翌年それを否定する論文が出た。先日の学会で2種類のクシクラゲ・ゲノム解析結果発表。やはりカイメンより系統樹の根本に Scientific American http://t.co/iFRkDhv9


posted at 14:03:56


【貴重なデータ】まきこみ計画:各メーカー主要ビールの糖質、カロリー、プリン体含有量のまとめ(2013/1/8版) http://t.co/xy3yDluI ご自分で作ったもののようです。データはこちら http://t.co/ycd6ZMaK


posted at 13:59:51


【知りませんでした】HLA適合血小板献血:KORO's place in Urawa http://t.co/ATFz1fuk 「医臓器移植や何度も血小板輸血を受けた人へは、一般の血小板輸血では効果がなく、HLA型の適合した血小板の輸血が必要になる・患者ごとの専任の血液提供者」?


posted at 13:57:18


[exblog] 1月9日のtwitter http://t.co/RZJWaWuE


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# by stochinai | 2013-01-11 07:27 | コンピューター・ネット | Comments(0)

氷の世界

 今年になってから、まだプラスになったことはありません。とうとう記録を達成してしまったようです。

 36年ぶりの連続真冬日(HBC Newsi)
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 何回か書いているように、実は北海道人の我々は寒さにはそれほど参っておりません。慣れてきているのですが、こんな毎日だとやっぱり井上陽水の「氷の世界」を聞きたくなるものです。これを読んでいる皆さんにも聞いてもらいたいと思って探してみたら、意外なお宝ライブっぽい映像が出てきました。



 データがないので良くはわからないのですが、演奏者の中にミスター・チルドレンのメンバーなども出ているみたいです。実はすごい幻のライブなのかも?

 まあ、半袖の皆さんには違和感を感じながらも、やはり吹雪の中ではこれだよね、と。

 で、これを聞くとどうしても「帰れない二人」を聞きたくなるのです。ありました、旭川出身の安全地帯とのライブです。



 「氷の世界」というLPは、私は日本のポピュラー音楽史上最高の作品だと確信しています。一曲目から最後」というまで、すべてが超の付く名曲で構成されています。

1.あかずの踏切り
2.はじまり
3.帰れない二人
4.チエちゃん
5.氷の世界
6.白い一日
7.自己嫌悪
8.心もよう
9.待ちぼうけ
10.桜三月散歩道
11.Fun
12.小春おばさん
13.おやすみ

 私の持っている、CDボックスの中の「氷の世界」にはこのLPの前にボーナスとして、「夢の中へ」と「いつの間にか少女は」というこれまた超々有名曲が入っています。ところがそこには7曲目にあるはずの「自己嫌悪」が入っていません。「めくら」という言葉が使われていたため、先日の紅白歌合戦で丸山明宏(美輪明宏)が歌った「ヨイトマケの歌」と同じように日本の音楽界では長らく封印されていたものです。

 そうなってくると、その曲も載せておきたくなりました。探してみたらかなり良くできたカバー・バージョンがありました。一度聞いてみてください。



 いつか、紅白歌合戦で井上陽水がこれを歌ってくれることを祈りつつ・・・。
# by stochinai | 2013-01-10 18:37 | 札幌・北海道 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai