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ヴァンパイア・モス:シベリアで発見された吸血するガ

 研究者の指から血を吸っているガを見ると、けっこうショックを受けます。苦手な人は画像をクリックしないでください!
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 ソースはナショナル・ジオグラフィック・ニュースですが、まさにハロウィーンの季節にうってつけのホラーと感じる方もおられるかもしれません。

 一般的にこの手の科学ニュースは、どこかの科学雑誌に出た論文のプレス・リリースとして出てくるものが多いのですが、これに関してはまだ論文発表がないようです。それというのも、この研究はナショナル・ジオグラフィックが研究費を提供して行われた研究なのです。

 この動画で、指にガをとまらせて血を吸わせているのはゲインズビルにあるフロリダ大学の女性研究者です。たとえ吸血性のものでも可愛がっている様子が伝わってきますが、これは同じ動物学者としては気持は良くわかります。もちろん、私はやりませんが(笑)。(それに、ちょっと病気の心配も覚えます。)

 カやアブ、ブユ、サシガメなど血を吸う昆虫はたくさんいますので、ガやチョウにも吸血性のものがいても不思議はないのでしょうが、動物学を専攻した私ではありますが恥ずかしながら初耳でした。今回発見されたものも、今まで吸血性のものが報告されているものと同じエグリバ類のCalyptra属のようです。形態的にはヨーロッパに分布する果物の果汁を吸うCalyptra thalictriに非常に良く似ているそうで、他の種では果物に突き刺すために使っているのと同じ形態のクチバシ(吻)をヒトの皮膚に突き刺して血を吸います。

 果物を突き刺すための口を持っているガやチョウが、吸血性へと進化するのを想像することはそれほど難しいことではないのですが、実際にそれが起こったことが証明されるととてもおもしろい発見になると思います。

 不思議なことにこのガは雄だけが吸血するそうです。カなどは産卵のために雌だけが血を吸うことが知られていますが、雄だけが血を吸うということはどういう意味があるのでしょうか。多くのガでは、交尾の時の雄が栄養をたっぷり含んだ精包の中にはいった精子を雌に渡すのだそうで、その栄養を使って卵が成長し成熟するということがあるそうです。このガで雄だけが吸血するというのは、精包を通じて雌に渡すための栄養源として利用しているのではないかと想像されているようですが、それが証明されることも楽しみです。

 こういう血を吸う昆虫では、血液凝固を阻止する物質を持っているものなので、このガもそういう意味ではすでに製薬会社が目をつけているはずですが、そういう応用的なことはさておきヴァンパイア・モスが発見されたということだけでも充分楽しいニュースでした。
Commented by がいすと at 2008-10-29 12:27 x
はじめまして。がいすとといいます。
このシベリアの吸血性蛾については、昨年一報の論文が出ています:
J. M. Zaspel & V. S. Kononenko & P. Z. Goldstein (2007)
Journal of Insect Behaviour 20:437–451.
DOI 10.1007/s10905-007-9090-3
Calyptra thalictriはヨーロッパでも吸血性を示すことが知られているようです。日本にも同種がいますし(和名ウスエグリバ)、珍しい種でもないのですが、吸われたこともそういう経験をした人もいませんね。
Commented by stochinai at 2008-10-29 13:02
 そうでしたか。教えていただき、ありがとうございます。まさかヒトが基本的ホストということはないでしょうか、野外ではどんな動物の血を吸っているのでしょうね。
by stochinai | 2008-10-28 22:19 | 生物学 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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