2008年 11月 24日
ダウン症を克服したイギリス社会
先日、母親の血液を調べるだけで胎児の遺伝子診断が簡単にできる新しい技術が開発されたという論文を紹介しました。
母親の血清中にあるDNA断片で胎児のダウン症診断
そこのコメント欄で、簡単に診断がつくようになったら、ダウン症の胎児は堕胎されるのではないかという危惧を感じるということを述べましたが、24日付のBBCNewsの記事を読んでみると、少なくともイギリスでは人々の叡知を信頼しても大丈夫だという結果が出ていることを知り、浅はかな私の推測を大いに反省しております。
Down's births rise despite tests
イギリスでは、ダウン症の出生前診断が始まった1989年には717人のダウン症児が誕生していたのだそうですが、それが2000年(? at the start of this decade)には、549人に減少して、堕胎が増えたことを示唆しています。ところが、最新の2006年のデータでは749人と診断開始前よりも増えていることが明らかになりました。
イギリスのダウン症協会(The Down's Syndrome Association)が、ダウン症の子を生んだ1000組の親にアンケートを取って、生む前にダウン症と知りながらどうして生んだのかを尋ねました。宗教的あるいは思想的理由で堕胎ができなかったという30%と、診断結果を信用しなかったという20%の回答を除くと、残りはダウン症の人を知っていたからとか、ダウン症でも暮らしやすい世の中になってきたからという、「ダウン症でも大丈夫」という答えだったということです。
出生前診断でダウン症がわかっても、家族や友達のサポートが期待されるという回答も多かった上に、ダウン症の子どもがそうではない子ども達と共学で通える学校が普通になってきたということが大きいようです。そうなってくると、ダウン症の子を育てることが、それほど大きな困難を伴わなくなってきたというのが、イギリス社会の現状のようです。
ダウン症協会の会長キャロル・ボーイズさんは、自分がダウン症の子どもを育てていたころの社会では、ダウン症の子は今とは全然違う扱いを受けており、その当時ならば生んで育てるのは大変だったけれども、社会が変化したことで子を持つ親の考えが大きく変わったと考えています。
なんと、今のイギリスではテレビドラマにダウン症の赤ちゃんが出演することがあったり、ダウン症の役者さえもいるということです。もちろん、スーパーで働いている人もたくさんいます。
イギリスでは出生前診断が非常に盛んで、妊婦の2/3が受けると言われていますが、そのイギリスでは診断によってダウン症とわかっても親は堕胎しないというニュースを読んで、私が危惧していた、出生前にわかったら堕胎する親が多くなるのではという考えは、愚かな偏見であることが証明されました。
イギリスの社会としての成熟ぶりには驚嘆させられました。完全に脱帽です。間違えてうれしいという経験もなかなか貴重でした。
翻って、日本ではどうなのでしょうか。出生前診断をして、ダウン症がわかっても安心してその子を生んで育てる社会になっているでしょうか。
とりあえず、ダウン症の子を普通のこと同じ小中学校へ入学させることができないと、教育後進国と言われても反論できないですね。そうなっていますか?
関連記事:'I can't imagine her any other way'
母親の血清中にあるDNA断片で胎児のダウン症診断
そこのコメント欄で、簡単に診断がつくようになったら、ダウン症の胎児は堕胎されるのではないかという危惧を感じるということを述べましたが、24日付のBBCNewsの記事を読んでみると、少なくともイギリスでは人々の叡知を信頼しても大丈夫だという結果が出ていることを知り、浅はかな私の推測を大いに反省しております。
Down's births rise despite tests
イギリスでは、ダウン症の出生前診断が始まった1989年には717人のダウン症児が誕生していたのだそうですが、それが2000年(? at the start of this decade)には、549人に減少して、堕胎が増えたことを示唆しています。ところが、最新の2006年のデータでは749人と診断開始前よりも増えていることが明らかになりました。
イギリスのダウン症協会(The Down's Syndrome Association)が、ダウン症の子を生んだ1000組の親にアンケートを取って、生む前にダウン症と知りながらどうして生んだのかを尋ねました。宗教的あるいは思想的理由で堕胎ができなかったという30%と、診断結果を信用しなかったという20%の回答を除くと、残りはダウン症の人を知っていたからとか、ダウン症でも暮らしやすい世の中になってきたからという、「ダウン症でも大丈夫」という答えだったということです。
出生前診断でダウン症がわかっても、家族や友達のサポートが期待されるという回答も多かった上に、ダウン症の子どもがそうではない子ども達と共学で通える学校が普通になってきたということが大きいようです。そうなってくると、ダウン症の子を育てることが、それほど大きな困難を伴わなくなってきたというのが、イギリス社会の現状のようです。
ダウン症協会の会長キャロル・ボーイズさんは、自分がダウン症の子どもを育てていたころの社会では、ダウン症の子は今とは全然違う扱いを受けており、その当時ならば生んで育てるのは大変だったけれども、社会が変化したことで子を持つ親の考えが大きく変わったと考えています。
なんと、今のイギリスではテレビドラマにダウン症の赤ちゃんが出演することがあったり、ダウン症の役者さえもいるということです。もちろん、スーパーで働いている人もたくさんいます。
イギリスでは出生前診断が非常に盛んで、妊婦の2/3が受けると言われていますが、そのイギリスでは診断によってダウン症とわかっても親は堕胎しないというニュースを読んで、私が危惧していた、出生前にわかったら堕胎する親が多くなるのではという考えは、愚かな偏見であることが証明されました。
イギリスの社会としての成熟ぶりには驚嘆させられました。完全に脱帽です。間違えてうれしいという経験もなかなか貴重でした。
翻って、日本ではどうなのでしょうか。出生前診断をして、ダウン症がわかっても安心してその子を生んで育てる社会になっているでしょうか。
とりあえず、ダウン症の子を普通のこと同じ小中学校へ入学させることができないと、教育後進国と言われても反論できないですね。そうなっていますか?
関連記事:'I can't imagine her any other way'
米国でもダウン症の子供が主役に近い子供向けドラマがあったはずです。それもずいぶん前から、、、
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stochinai at 2008-11-25 17:10
本文で引用していたドラマというのは、BBCのEastEndersです。
http://www.bbc.co.uk/eastenders/
アメリカの方は、Life Goes On ですね。
http://en.wikipedia.org/wiki/Life_Goes_On_(TV_series)
http://www.bbc.co.uk/eastenders/
アメリカの方は、Life Goes On ですね。
http://en.wikipedia.org/wiki/Life_Goes_On_(TV_series)
出生前診断については自分が羊水検査を受ける時に勉強しましたが、社会の受け入れ方によって親の判断も異なるだろうと考えていました。
「出生前診断」(NHK出版)によるとイギリスで出生前診断が進んだ理由は、障害のある子供に税金をかけるより診断に税金をかける方が安上がりだという判断だったからだそうです。
しかし並行して社会全体での手厚いケアを心がけてきたのなら素晴らしいことだと思います。
ただ、高齢出産によるダウン症発生率の増加分や、移民が検査を受けずに出産する増加分ではないか?と思うところもあります。
出生数より意識調査の方が現状を強く反映しているでしょうね。
「出生前診断」(NHK出版)によるとイギリスで出生前診断が進んだ理由は、障害のある子供に税金をかけるより診断に税金をかける方が安上がりだという判断だったからだそうです。
しかし並行して社会全体での手厚いケアを心がけてきたのなら素晴らしいことだと思います。
ただ、高齢出産によるダウン症発生率の増加分や、移民が検査を受けずに出産する増加分ではないか?と思うところもあります。
出生数より意識調査の方が現状を強く反映しているでしょうね。
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ゆー
at 2012-08-30 19:38
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ダウン症の子が増えて生産性が上がってこそ克服
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堕胎したら悪ではないでしょう
at 2012-08-31 02:57
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出生前診断の話を考えるなら、出生数でなく、堕胎率で考えないと余り意味が無いのでは。それに堕胎率が上がってたとしても、それはその家庭の問題であって、廻りがとやかくいう話ではないでしょう。
また、あえて同じ小中に入れるのが正しいとは思えません。もし同じ機会を・・・と考えるなら高校大学も受験勉強無しに、またはスポーツ推薦も無しにすべきってことになります。ですが、個々の能力を伸ばすことを考えるなら、「同じ小中」に入れないと教育後進国である思えません。アメリカのように「飛び級」制制度が一般化してない日本では、能力のある子どもから見れば重しになります。特殊学級のことを言ってるようでしたら、違う話かもしれませんが・・・
>>ダウン症の子を普通のこと同じ小中学校へ入学させることができないと、教育後進国と言われても反論できないですね。
また、あえて同じ小中に入れるのが正しいとは思えません。もし同じ機会を・・・と考えるなら高校大学も受験勉強無しに、またはスポーツ推薦も無しにすべきってことになります。ですが、個々の能力を伸ばすことを考えるなら、「同じ小中」に入れないと教育後進国である思えません。アメリカのように「飛び級」制制度が一般化してない日本では、能力のある子どもから見れば重しになります。特殊学級のことを言ってるようでしたら、違う話かもしれませんが・・・
>>ダウン症の子を普通のこと同じ小中学校へ入学させることができないと、教育後進国と言われても反論できないですね。
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stochinai at 2012-08-31 07:39
4年前のこの記事に、日本の「現実」が追いついてきたということでしょうか。さて、我々は新しい技術を前にどうすることになるのでしょう。
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at 2012-08-31 17:10
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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stochinai at 2012-09-01 12:25
非公開コメントをいただいたRさん。私のブログの文章・写真は基本的に転載・再掲自由です。直接リンクを貼っていただいても問題ありませんし、コピペで使っていただいてもかまいません。ただ、私の責任をはっきりさせるためにも、このブログからの引用であると明示していただいたほうが私としてはうれしいので、よろしくお願いします。
また、素敵なお母さんに恵まれたお腹の赤ちゃんの未来を祝福いたします。
また、素敵なお母さんに恵まれたお腹の赤ちゃんの未来を祝福いたします。
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at 2012-09-01 17:13
x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by stochinai
| 2008-11-24 22:30
| 医療・健康
|
Comments(9)