5号館を出て

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脳機能増強薬の合法化を促すNature論説

 日本の大学では学生の大麻使用が問題になっていますが、アメリカの大学では学生ばかりではなくかなりの数の研究者が、健康な人間への使用が禁止されている治療用の脳機能改善薬を「違法に」使用しているといいます。

 今年4月に発表されたNatureの調査では、学生の7%、研究者の20%がそうした「向精神薬」を使用していることが明らかになっています。

 Poll results: look who's doping(Nature)
 科学者の2割が向精神薬を使用:『Nature』の調査(ワイアード・ビジョン日本語記事)

 先週のNatureには、法律学者、精神医学者、倫理学者、医療政策研究者、心理学者、Nature編集者、神経科学者など7人が連名で、健康なヒトによるこうした薬物の利用を合法化すべしという論説が書かれました。

 彼らの結論は「脳機能を増強する新しいツールは個人や社会にとって有用なので、害を最小限のとどめ有効性を最大限にするように利用すべきだ」というものです。

 Towards responsible use of cognitive-enhancing drugs by the healthy(Nature)
 「脳を増強する薬」合法化を主張する『Nature』論説(ワイアード・ビジョン日本語記事)

 リタリンという薬は日本でも有名ですし、アデラールという薬の成分は日本では覚醒剤として厳しく取り締まられているアンフェタミンです。もともとADHD(注意欠陥多動性障害)の治療薬として用いられているものらしいのですが、覚醒剤ですので普通のヒトが眠気も醒め、長時間眠らずに作業が続けられるばかりではなく、記憶や集中力が向上するということで、大学生や科学者の一部で利用されているということのようです。

 私にはただの覚醒剤の使用にしか思えませんが、なぜそれを合法化せよと科学者たちが論文を書いたのか今ひとつ理解できません。

 彼らは、こうした向精神薬を安全に使いこなすことは、「牛乳を殺菌することや、歯科麻酔やセントラル・ヒーティングと同じテクノロジーのひとつにすぎない」と主張しているようです。

 彼らも薬の習慣性や副作用などについては認識しているいようなのですが、すでに幅広く使われている現状があるので、その人達を犯罪人にすべきでないという現状追認の姿勢や、「健康な」老人の記憶障害や若年者の認知障害へも利用を拡大すべきだというような理由で、明らかに危険が知られている薬を合法化せよというのは、私の理解を越えていると感じました。

 ワイアードの記事から薬の説明を引用させてもらいます。これを読む限りは、解禁などはとんでもないという気がします。
メチルフェニデート(リタリン)は難治性・遷延性鬱病や慢性疲労症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)などに使われる中枢神経刺激薬。約85%が米国で消費されているが、日本では2007年ころから「リタリン依存」が社会問題化。薬事法の改正で、通常の向精神薬よりも一段と厳しい管理が要求されるようになった。処方に従わずに規定量を逸脱した量を服用した場合、副作用や後遺症、薬物耐性による服用量の増大、依存などを引き起こす可能性が高い。

アンフェタミンは、合成覚醒剤の一種。ナルコレプシーやADHDなどの治療に用いられ、能率向上や娯楽目的での濫用は、ほとんどの国で違法とされる。密造と濫用がヨーロッパ諸国で横行。さらに米国などでは、処方されたアンフェタミンが横流しされ、高校や大学で最も頻繁に濫用される薬剤の1つとなっている。習慣性を生じやすく、依存症となった患者には、不穏状態、不安、うつ、不眠、自殺衝動といった症状があらわれる。
 どなたか彼らに賛同する方に、こういう薬を解禁することが善であるということの解説をお願いしたいところです。
Commented by たま at 2008-12-17 08:20 x
製薬会社と御用学者の企みでは?
Natureのスポンサーに製薬会社が入っているかも。
Commented by M姫 at 2008-12-18 00:01 x
ナイトカフェ第9夜「能」(I原先生がゲストで「エンハンスメント(能力増強)」がテーマでした)のなかで、「リタリン(スマートドラック)を健康な人が使用することについて賛成か?反対か?」について議論しました(宿題でした)。

M姫が予想した以上に「反対、使わない」とは言い切れない人が多かったです。正直M姫も、合法化されたら使うかもしれません(副作用が無い程度に)。どうしてもカフェインやドリンク剤、サプリメントの延長線上にみてしまいます。
薬を飲んでまで、脳の能力を増強することが求められる世の中って恐いですよね。でも、数十年後にはそれが当たり前になってしまうののではないかと想像し、恐れております。
そもそもADHDだって「それって病気なの?薬で治療しなければならないの?」と思うところがあります。少し前までは治療もされていなかったし、病気とされていなかったのではないでしょうか。
by stochinai | 2008-12-16 21:09 | 医療・健康 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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