2009年 01月 06日
宇宙ではうまく再生できない?
NewScientist のサイトにおもしろい記事を発見しました。
Space experiment has a sting in the tail for newts
カリフォルニアにある NASA の Ames Research Center とカリフォルニア大学の研究者が、16匹のイモリ (Pleurodeles waltl) の尾を切ってから宇宙に送り出して再生の様子を観察してみたところ、地上に比べると半分くらいしか再生しなかったという記事です。下の写真がWikipediaからお借りした実験に使われたイモリの写真です。日本のイモリに似ていますし、同じように再生力が強いことで有名です。ワルトリ・イモリという和名を聞いたことがありますが、あまり使われることはありません。

さて、NewScientist の記事は、本当の記事の要約でほとんどこれだけのことと、「もしヒトがイモリと同じならば、宇宙ではヒトはうまく成長できないかもしれない」としか書いてありませんでした。購読していればオンラインで全文読めるらしいのですが、年間267ドルもするのでちょっと手が出ません。
本文には、この結果が先頃サンフランシスコで行われた American Society for Cell Biology meeting で発表されたと書いてあったので、そちらのサイトを探してみたところ、要旨集が公開されていました。件の発表も簡単に見つかりました。

要旨もあるのですが、これではちょっと読めませんね。

興味のある方は、こちらからダウンロードしてください。
48th Annual Meeting of The American Society for Cell Biology
そのうち、本論文が出るのかもしれませんが、要するに再生の時に作られる再生芽と呼ばれる組織の内部の細胞分裂が宇宙では阻害されており、尾の形もおかしくなるということのようです。
実は私も宇宙で、アフリカツメガエルの再生実験をやってみたいと思ったのですが、日本からではそう簡単にスペースシャトルや宇宙ステーションを使った実験ができないので、断念しておりました。もし機会があったら、やってみたいと思っていたのですが、今回の結果とは逆の仮説を立てていました。
アフリカツメガエルでは、オタマジャクシの時には脳を含めさまざまな器官がとても良く再生しますが、変態してカエルになったとたんにガクッと再生能力が落ちます。うちの研究室で博士号を取ったY君の研究によると脳が再生しなくなる大きな理由にひとつは、カエルになると幹細胞を含めた脳細胞が動けなくなることだということになりました。
そこで、無重力の宇宙空間に持っていけば、細胞が自由に動けるようになって再生しないはずのカエルの脳も再生するかもしれないというアイディアです。
ところが、今回の尾の再生の研究では、大人になってもどんどん再生するはずのイモリの尾が宇宙では再生しににくなるという結果になり、その原因が細胞分裂が少なくなることと、尾の形を作る時に「重力」があったほうが良いらしいということです。
カエルの脳も再生する時には細胞分裂が必要です。再生しないカエルの脳でも傷をつけると細胞分裂が起こるのですが、無重力で分裂能力が落ちてしまうとしたら、ちょっと難しいかもしれません。しかし、イモリの実験では、皮膚の細胞分裂は落ちていないという結果もあるので、脳細胞の分裂は落ちないかもしれず、そうなるとまだ希望は捨てなくても良いかもしれません。
いずれにせよ、地球上で進化した動物は地球の重力下での生活に最適化されていることは間違いないので、宇宙へ行くとさまざまな不都合が生じる可能性はあり、宇宙植民などということもそう安易に成功しないのかもしれません。
いずれにしても、今まで誰もやったことのない実験の結果というものはおもしろいものです。
Space experiment has a sting in the tail for newts
カリフォルニアにある NASA の Ames Research Center とカリフォルニア大学の研究者が、16匹のイモリ (Pleurodeles waltl) の尾を切ってから宇宙に送り出して再生の様子を観察してみたところ、地上に比べると半分くらいしか再生しなかったという記事です。下の写真がWikipediaからお借りした実験に使われたイモリの写真です。日本のイモリに似ていますし、同じように再生力が強いことで有名です。ワルトリ・イモリという和名を聞いたことがありますが、あまり使われることはありません。

本文には、この結果が先頃サンフランシスコで行われた American Society for Cell Biology meeting で発表されたと書いてあったので、そちらのサイトを探してみたところ、要旨集が公開されていました。件の発表も簡単に見つかりました。


48th Annual Meeting of The American Society for Cell Biology
そのうち、本論文が出るのかもしれませんが、要するに再生の時に作られる再生芽と呼ばれる組織の内部の細胞分裂が宇宙では阻害されており、尾の形もおかしくなるということのようです。
実は私も宇宙で、アフリカツメガエルの再生実験をやってみたいと思ったのですが、日本からではそう簡単にスペースシャトルや宇宙ステーションを使った実験ができないので、断念しておりました。もし機会があったら、やってみたいと思っていたのですが、今回の結果とは逆の仮説を立てていました。
アフリカツメガエルでは、オタマジャクシの時には脳を含めさまざまな器官がとても良く再生しますが、変態してカエルになったとたんにガクッと再生能力が落ちます。うちの研究室で博士号を取ったY君の研究によると脳が再生しなくなる大きな理由にひとつは、カエルになると幹細胞を含めた脳細胞が動けなくなることだということになりました。
そこで、無重力の宇宙空間に持っていけば、細胞が自由に動けるようになって再生しないはずのカエルの脳も再生するかもしれないというアイディアです。
ところが、今回の尾の再生の研究では、大人になってもどんどん再生するはずのイモリの尾が宇宙では再生しににくなるという結果になり、その原因が細胞分裂が少なくなることと、尾の形を作る時に「重力」があったほうが良いらしいということです。
カエルの脳も再生する時には細胞分裂が必要です。再生しないカエルの脳でも傷をつけると細胞分裂が起こるのですが、無重力で分裂能力が落ちてしまうとしたら、ちょっと難しいかもしれません。しかし、イモリの実験では、皮膚の細胞分裂は落ちていないという結果もあるので、脳細胞の分裂は落ちないかもしれず、そうなるとまだ希望は捨てなくても良いかもしれません。
いずれにせよ、地球上で進化した動物は地球の重力下での生活に最適化されていることは間違いないので、宇宙へ行くとさまざまな不都合が生じる可能性はあり、宇宙植民などということもそう安易に成功しないのかもしれません。
いずれにしても、今まで誰もやったことのない実験の結果というものはおもしろいものです。

宇宙線(放射線)の影響はないのでしょうか
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ヒトが乗る宇宙船の中には、生物に影響がでないように宇宙線の防御は完璧になされているはずです。その証拠に、皮膚の細胞分裂は影響を受けていません。
また、本当に重力の影響だけでこうしたことが起こっているかどうかは、地上でもクリノスタットというぐるぐる回る装置で微小重力環境を作って再現実験をやってみれば確認することができます。
また、本当に重力の影響だけでこうしたことが起こっているかどうかは、地上でもクリノスタットというぐるぐる回る装置で微小重力環境を作って再現実験をやってみれば確認することができます。

素人の直感ですが、再生に関わる分泌性のシグナリング分子が拡散に依って広がるならば、無重力状態では、その拡散性に影響が出るような気がします。
私もそのあたりのことは良くわからないのですが、そういうことを研究するには物理化学者との協働作業も必要になりますね。

分子の拡散には重力は影響しないと思うのですが、凝集したりしてサイズが大きくなると重力沈降が効いてくると教わったような。軽いものが浮いて重いものが沈まなくなるので、対流が変わる?細胞で対流ってある?
「微小重力、ブラウン運動、拡散」などで検索するとたくさん出てきますね。細胞外なら対流の存在は充分考えられますし、細胞の位置関係にも関係する可能性がありそうには思えます。

『シグナリング分子』と云う云い方は間違いですね。BMP、HH、FGF等のシグナリング・タンパク質のつもりでしたが、そうだと可成り大きいんじゃないでしょうか。

これらのmorphogensは発生で必須な役割を果たしていることから、そのシグナルに異常があると正常に発生しないと思うのですが、影響がでているのは再生だけなのでしょうか。また、単純拡散だけでなくproteoglycansなどに保持されることにより濃度勾配が生じていると思うのですが、どうなのでしょう。
カエルやサカナの初期胚は宇宙空間でも、ほぼ正常に発生することが確かめられておりますが、ほ乳類の胚などがある程度以上のサイズになると発生に影響が出てくることは十分考えられます。そういう意味で、今回の結果は、胚の初期発生よりはある程度大きくなってからの胚(胎児)の「成長」に影響が出ることが考えられるということを示唆する重要なものだと思います。
おっしゃるように細胞外基質がmorphogensの拡散(濃度購買形成)などに大きな影響を持っていると思いますが、そうしたものが無重力下でどうなるかなどの研究はほとんど行われていないと思います。
おっしゃるように細胞外基質がmorphogensの拡散(濃度購買形成)などに大きな影響を持っていると思いますが、そうしたものが無重力下でどうなるかなどの研究はほとんど行われていないと思います。
二文字訂正しました(笑)。
カエルやサカナの初期胚は宇宙空間でも、ほぼ正常に発生することが確かめられておりますが、ほ乳類の胚などがある程度以上のサイズになると発生に影響が出てくることは十分考えられます。そういう意味で、今回の結果は、胚の初期発生よりはある程度大きくなってからの胚(胎児)の「成長」に影響が出ることが考えられるということを示唆する重要なものだと思います。
おっしゃるように細胞外基質がmorphogensの拡散(濃度勾配形成)などに大きな影響を持っていると思いますが、そうしたものが無重力下でどうなるかなどの研究はほとんど行われていないと思います。
カエルやサカナの初期胚は宇宙空間でも、ほぼ正常に発生することが確かめられておりますが、ほ乳類の胚などがある程度以上のサイズになると発生に影響が出てくることは十分考えられます。そういう意味で、今回の結果は、胚の初期発生よりはある程度大きくなってからの胚(胎児)の「成長」に影響が出ることが考えられるということを示唆する重要なものだと思います。
おっしゃるように細胞外基質がmorphogensの拡散(濃度勾配形成)などに大きな影響を持っていると思いますが、そうしたものが無重力下でどうなるかなどの研究はほとんど行われていないと思います。
by stochinai
| 2009-01-06 17:31
| 生物学
|
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