5号館を出て

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卒業研究の研究室選び

 大学や学部によっては、もう3年生のうちから卒業研究が始まっているところもあるようですが、多くの大学ではそろそろ3年生が来年度の卒業研究の研究室を選ぶ時期ではないでしょうか。私は文系のことはまったくわからず、自分が所属するところと、見聞きすることのできる狭い範囲のことしか知らないことを承知の上でですが、研究室の選び方について、ひと言ぶってみたいと思います。

 かつて私は、卒研というものは大学院や就職とはまったく関係なく、ちょっと大型の学生実習程度の認識で、気軽に研究室を選んでおけば良いのではないかと考えていました。特に先生との相性や、大学院へ進学した時の研究との連携などもそれほど深刻に考えずに、やってみてうまくいかなかったら大学院進学のところであっさり方向転換すれば良いし、むしろその先の大学院とは違う経験をしておくことはベターなことではないかと思ってすらおりました。

 今でも、博士後期課程まで進学して研究者になることが第一希望だというのであれば、それで良いのかもしれません。しかし、最近の大学や社会の状況を考えると、最近はちょっと考え方が変わってきています。

 まず、理系の大学院の修士課程(博士前期課程)の進学率は極めて高くなっており、ほぼ全員が修士へ進学すると考えて良い状況になってきていることと、その一方で博士後期課程へ進学する人は激減していることがあります。あるいは、博士後期課程へ進学するのであれば、中央の設備と金と人脈の充実した大学院へと進むことを考える人が多くなってきたということをひしひしと感じます。つまり、そういうところへ行かなければ研究職へと進むことが難しいと考える人が増えてきたということでしょうか。実際には、そういうところへ行ったとしても、研究者になることの難しさはそれほど変わらないにもかかわらずです。

 つまり、今の理系の大学では、修士へと進学しそこからは博士課程へは進学せずに一般企業を含めたところへ就職するということがデフォルトになっているような気がします。そこでは、ごくごく一部が大学卒業とともに就職し、ごく一部が大学院博士課程に進学するということになっています。

 そして、読んではいませんが「就活のバカやロー」という本があるように、学部卒業で就職する人は3年生のうちから、そして修士卒業で就職する人は修士の1年生の秋くらいから就職活動をしなければならないという現実があります。

 つまり、学卒で就職しようと思ったら卒研などをやっている暇はないし、修士卒で就職しようと思ったら修士の研究は実質1年できるかどうかはなはだ怪しいのです。

 そういう現状を肯定するならば、学卒で就職しようという人は、卒研がまとまらなくても卒業させてくれる研究室を選ばなければなりませんし、あるいは必修でないのなら卒研自体を選択しないということが賢い選択といえるでしょう。

 そして、ここからが本日言いたいことの中心ですが、修士卒で就職しようと思ったら、卒研を合わせて修士までの3年間を一貫して研究が続けられるように、卒研の研究室で修士まで研究できるところを選ぶべきではないかと思うのです。そうすると、4年生と修士2年間の3年のうち、就活でたとえ1年以上取られたとしても、実質的な修士研究として2年近くの時間を確保することができます。これならば、ある程度厳しい審査があったとしても、なんとか修士論文を仕上げることができそうに思えます。

 もちろん、すごい優秀な研究能力を持った人ならば、半年か1年やれば他の人が2年かけてやったものにひけをとらない修士論文が書けるかもしれませんが、理系の多くの研究内容はやはり費やした時間に比例したものになるという厳粛な事実があることもまた否定できないと思います。

 というわけで、今から卒研の研究室を選ぼうと思っている3年生は、3年間を一貫して過ごす研究室を選ぶという意味で、いろいろなことを検討しながらじっくりと選択して欲しいと思います。もちろん、半年か1年やってみて、「しまった」と思ったら研究室は変わるべきでしょうが、それでもできるならば卒研の努力が無駄にならないような研究テーマをやらせてくれるところへ進学することを検討してみてください。

 社会や大学もどんどん動いています。10年前の常識はもう通じなくなっています。20年前の常識は化石です。30年前の常識などは宇宙人の言葉だと思って聞き流したほうがよいかもしれません。

 成人なのですから、自分のことは自分で決めましょう。
Commented by こーた at 2009-02-03 21:27
10年前~という項は大学の先生らしくないお言葉ですね。そのとおりだと思います。就職活動は人生勉強として絶対やった方がよいと思うのですが、1年半も先の人生を今決めないといけないなんてナンセンスと思いませんか?個々人としてはどうにもならないことですが。
Commented by 通りがかり at 2009-02-04 13:03
stochinaiさんの現実的なご提案には、全く共感いたします。と同時に、このような話を読むたびに、どうして日本では研究がほぼ一段落してから就職活動するという習慣が根付かないのか、と嘆いてしまいます。「履歴書に穴が開いてはいけない」「4月一斉採用」「新卒重視」などの旧態依然とした慣習を変えない限りダメだということは分かっていますが。
Commented by aa at 2009-02-04 22:31
文部科学省の「学校基本調査」によると,平成20年3月大学卒業者の進学者数と就職者数は,理学系で8,117人(進学)と9,027人(就職)だそうです。工学系だと31,352人(進学)と57,839人(就職)。農学系では4,402人(進学)と10,104人(就職)。
『理系の大学院の修士課程(博士前期課程)の進学率は極めて高くなっており、ほぼ全員が修士へ進学すると考えて良い状況になってきている』。ご卓見です。文部科学省の統計なんて嘘っぱちで信用できないですよね。
Commented by stochinai at 2009-02-04 23:12
 私は見聞きできる範囲での実感を述べただけなので、この統計を見ると「理系」と言ってもずいぶんと違うところがあるということを感じました。逆に、文科省の統計によって「理系」とくくることによって、見えなくなるものがある(あるいは見せたくないから隠す?)ということが良くわかりました。
Commented by magu at 2009-02-05 01:24
80年代後半ぐらいから、修士課程進学はほぼ全員が希望という時代が始まっていたと思います。ただし、希望者を全入に近い形で受け入れられる「国立大」と、受け入れられる人数に制限がある「私立大」とでは、実態はずいぶん違っているはずです。

「理系」とひとくくりにすることは、こういう実態を覆い隠す意図があるのではないかと勘ぐってしまいます。
Commented by qsat at 2009-02-05 22:10
「理系」の中でも建築の意匠設計を専攻し、設計事務所へ入ることを目指す学生の就職活動は、卒業研究や修士研究(論文ではなく設計図面や模型を製作する)を終えた春になってから始まる場合が多いです。このため彼らはたいてい就職内定の無いまま卒業していきます。私は他分野でも本来こうあるべきと思いますが、現実には、大学全体の「内定率」を下げてしまうため、入試で少しでもたくさん学生を集めたい大学当局から睨まれてしまいます。
Commented by ある at 2009-02-05 22:25
>卒研を合わせて修士までの3年間を一貫して研究が続けられるように、>卒研の研究室で修士まで研究できるところを選ぶべきではないかと

私は違う考えで、卒研と修士は違う研究室がいいと思います。若いうちは多様な経験を積んでおくことが後々の波乱万丈な人生に"耐性”を持たせることが出来ると思います。会社で同じテーマで一生過ごせる人はすくないはずですし、多様な経験は独自の発想力をつけるのに有意義と思います。アメリカは博士の後のポスドクの時期はテーマを別にすると聞きましたが、同じ理由と推察します。
Commented by stochinai at 2009-02-05 23:19
>卒研と修士は違う研究室がいい

 私自身がそうでしたし、少し前までは私もそう信じていたのですが・・・。
Commented by ある at 2009-02-05 23:23
> 私自身がそうでしたし、少し前までは私もそう信じていたのです
>が・・・。

考えが変わったのは「就活のバカやロー」が原因ですね。
Commented by いけ at 2009-02-15 00:11
> 建築の意匠設計を専攻し、設計事務所へ入ることを目指す学生の就職活動は、卒業研究や修士研究(論文ではなく設計図面や模型を製作する)を終えた春になってから始まる場合が多いです。このため彼らはたいてい就職内定の無いまま卒業していきます。

私は工学系建築学科の学部生です。
本論とはずれるかもしれませんが、
少なくとも私の周りでは、このようなことは聞いたことがありません。
qsatさんは、恐らく「設計事務所」の中でも、いわゆる「アトリエ系事務所」について述べられたのだと思います。
アトリエ系なら、確かに、卒業後(=新卒ではない)でも実力さえあれば就職できます。
しかし、それ以外の「組織設計事務所」や「ゼネコン」の採用活動は、他分野の企業と全く同じ(むしろ少し早い)スケジュールで行われます。卒業後に採用されることはまずないと思います。
失礼しました。
by stochinai | 2009-02-03 20:13 | Comments(10)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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