5号館を出て

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毒性の弱いインフルエンザにかかったウズラの殺処分は適切か

 愛知県豊橋市でウズラに感染が確認されたトリインフルエンザはH7型という弱毒性のものであることがわかったにもかかわらず、ウイルスが検出されたウズラと同じ飼育舎にいた25万9000羽のすべてを殺処分にしたとのことです。

 感染性が強いということで、一気に拡がるということはあるのかもしれませんが、インフルエンザになったからといって死んだウズラは一羽も確認されていないにもかかわらず、そこまでする必要があったのでしょうか。もちろん、ヒトへの感染はほぼ完全に否定されています。

 ウズラにもちゃんとした免疫システムがありますので、こうした毒性の低いインフルエンザの場合だと、確実に抗体が作られて免疫が成立します。しばらく様子をみても良かったのではないでしょうか。感染したウズラをすべて殺してしまったのでは、再びなんらかのルートで新たなウイルスがやって来た時、免疫の出来ていない新しいウズラはまたすべてがあっさりと感染してしまいます。一方、今回の感染を乗り越えたウズラには免疫がありますので、次にウイルスがやってきたとしても感染は拡がることはありません。つまり、集団でワクチン摂取したのと同じ効果が期待されるわけです。

 インフルエンザという名前があれば、パンデミックが恐れられている新型インフルエンザも、毎冬に恒例行事のようにはやる香港型やソ連型のインフルエンザも、ヒトへの感染のおそれが危惧されるH5型のトリインフルエンザも、今回のようにほとんど危険があるとは思われないH7型のトリインフルエンザも、すべて最大級の危険度のものと同じ対応をするということは、とても科学的対応とは思われません。ミソもクソも一緒です。

 科学技術のレベルが極めて高いと考えられる日本という国の対応としては、あまりに非科学的だと感じます。

 非科学的対応のまずいところは、常に最高のコストがかかり続けることです。

 本日、また新たに別のウズラ農家でもインフルエンザの陽性反応が出たと発表されました。毒性は弱いとしても、感染力が強いものでしたら今後も次々と陽性のトリが発見される可能性は高いはずです。今後も、無駄で非人道的な大量殺戮を続けることになるでしょう。

 農林水産省と県は「卵や肉を食べて鳥インフルエンザに感染したという報告は世界的にない」と発表する一方で、学校給食ではウズラ卵の使用を中止するという素早い対応をしています。万が一ということを心配しているというのはわからないではないのですが、「万が一」というようなことがあったとしたら、たとえそれが起こったとしても交通事故が起こったのと同じと考えることができるはずですので、たとえ責任を取ることになったとしても、それは「運が悪かった」というレベルの責任になるでしょう。

 そうした責任を取るくらいの気迫を持った行政側の人間はいないのでしょうか。

 確かに、最近は何かが起こるとマスコミが先頭になってバッシングをするという風潮がありますから、行政側も必要以上に恐れているということもあるのかもしれませんが、そんな臆病な行政のせいで何十万羽のウズラが意味もなく殺されていくのを見るのは、本当に心が痛みます。

 「俺が責任を取るから無駄な殺生はするな」と、農水大臣や厚労大臣は大見得を切ってみてくれないでしょうか。死に体になっている今の総理の次の、総理の椅子が約束されると思いますが・・・。
Commented by mittyu at 2009-03-02 20:29 x
たとえ毒性が弱いとしても、感染力が弱いとは限りません。野鳥に感染し、被害を把握できないものにしてしまう可能性があります。
また、うずらに対してはほぼ無症状だったとの報道を目にしましたが、これが鶏に入ったらどうなるか分かりません。家畜・家禽にとって健康不良は即、売り物にならなくなる(又は安値になる)ことを意味し、農家にとっては死活問題です。
他動物への感染はさらに金銭的被害を増やしかねないですし、その可能性を考えると、迅速なオールアウトは妥当な対応ではないでしょうか。
Commented by stochinai at 2009-03-02 20:38
 コメントありがとうございました。獣医学というのは、ヒトひとりひとりの命を考える医療とは基本的な発想が違うのでしょうか。そう考えると、ペットの獣医と農畜産業の獣医は、随分と立場が異なりそうですね。
Commented by at 2009-03-02 21:42 x
全ての家畜は事故のような例外でもなければ最終的には「必ず」殺すので、オールアウトは特に非人道的というわけではないですね。病気が発生しなくても結局殺しますので。ようは殺されるのが早まるだけで、その辺は普段家畜の運命を考えていない人とは発想が違うかもしれませんね。
Commented by mittyu at 2009-03-02 22:07 x
>>stochinaiさん
おっしゃる通りです。
口はばったいですが、獣医学では、動物を守ることと共に、人を守ることも目的とされています。
畜産動物は全くジレンマを誘うのですが、病気になったりケガをした場合の主な選択肢は殺処分や出荷です。畜主の金銭的な利益を最優先させることが「人を守る」こととなります。
飼育施設が完全に隔離されて人や他生物の出入りもないなら、耐過を待つのも一つの戦略ではあります。しかし畜産動物の命のサイクルは長くはなく、常に新しいものが入ってきて、出ていくものがいるという状態です(そうしないと多くの農家では利益が出ません)。一度完全にクリーンにしてしまわないと、いつまでも清浄化できないのです。
家畜への獣医療は、畜主の利益を守る側面と、地域の衛生を保つという二面性があり、担当する獣医も異なります。さまざまな立場の最大公約数的なものとして、対策の妥当性を感じていただけたら嬉しいです。
Commented by stochinai at 2009-03-02 23:36
 医学もですが、ヒトの経済活動などが考慮にはいると、生物学的に理路整然とした因果関係や今後の展開の予想とは別の論理が働くということを理解することはできます。ただ、わかることと納得できることとはまた違ったりもしますし、こういうケースを見た子ども達への教育はどうしたらよいのかなどということも考えてしまいます。
 家畜とはどういう存在なのか、命を食べるということはどういうことなのかという食育にも通ずる重要な問題が横たわっている領域だと思いますので、今後も考え続けていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
Commented by トホ at 2009-03-03 11:46 x
はじめまして。
全くの素人ですが、「今回の感染を乗り越えたウズラには免疫がありますので、次にウイルスがやってきたとしても感染は拡がることはありません。」と読んで、びっくりしました。鶉の飼育期間や、他の動物への感染の可能性などから、今回の待ったなしの殺処分が妥当なのかもしれませんが、インフルエンザに感染した動物には免疫ができる、という発想からの対策を考えた説は読んだことも聞いたこともなかったので、目からうろこ、の気分です。
一般市民にとっては恐怖を煽られるような要素もある、感染=殺処分以外の可能性の提示は貴重なものだと感じました。
Commented by 123 at 2009-03-03 12:11 x
私は、病原性がどの分子に由来するか、そして弱毒から強毒に変われるか、それとも変われないようなものかが気になりました。その辺がはっきりすれば、対応も変えてもいいと思いました。昔、流行した、あるインフルエンザ株では、その毒性はそれが持つのHA分子が原因であったという説明を、その道の河岡先生がしてるのを聞いたことがありますが、今回はH7でもちろんタイプが違いますけど、(中略)、どうなんでしょうね。
Commented by stochinai at 2009-03-03 12:57
 トホさん。ニュースでも報道されているのですが、近隣で飼育されていたもので、抗体を持っていてウイルスを持っていないウズラが見つかっており、ウイルスを自分の免疫の力で追い出して感染から回復したものと考えられています。

 123さん。ヒトの場合には、細かい研究をしていろいろなことがわかってきていますが、トリの場合には処分してしまうことが優先されると、どうしても研究が後回しになってしまうのかもしれません。また、トリに対するワクチン接種に否定的な姿勢にも疑問を感じています。
by stochinai | 2009-03-02 20:06 | 医療・健康 | Comments(8)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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