2009年 03月 15日
科学技術コミュニケーション: 解説から批評へ
昨日のCoSTEP終了式に行われたミニ・シンポジウムははななだ不完全燃焼だったとぶつぶつ書きましたが、その分逆にたくさんのインスピレーションをもらうことができました。その中でも特にワコールアートセンターのチーフプランナーという肩書きをお持ちの松田朋春さんにはかなり刺激されました。
さすがにデザイナーという仕事柄からか、質問に対して一言で答えることの呼吸がとても心地よく、科学技術コミュニケーターを「理系の語り部」と呼んだり、これからの科学技術コミュニケーター教育に求められるべきこととして「批評」というキーワードを出された時には、おもわず膝を打ってしまいました。
今の時代、批評家あるいは評論家という職業が氾濫しています。テレビのニュース関連のワイドショーにはありとあらゆる評論家が登場してくるので、世の中にはいろんな評論家があふれかえっていると錯覚してしまいますが、実はそんなにいないのかもしれません。
Wikipediaに挙げられている評論家の種類は意外なほど少なくこれだけです。
* 映画評論家
* オーディオ評論家
* 音楽評論家
* 株式評論家
* 軍事評論家
* 経済評論家
* 芸能評論家
* 競馬評論家
* 建築評論家
* 航空評論家
* 自動車評論家
* 写真評論家
* 政治評論家
* 美術評論家
* 風俗評論家
* 文芸評論家
* 野球評論家
* 航空評論家
* 鉄道評論家
「科学評論家」や「科学技術評論家」が見あたりません。一方で、「毎年のように新しい肩書きの評論家が登場してくる」とか、「評論家はフリーランスジャーナリストなどのライターが自称する場合が多い」とか書かれてているので、批評家や評論家というものはなんでもありのはずなのに、科学評論家とか科学技術批評家といわれるあるいは自称する人が意外と少ないというのが現実なのでしょう。
こういう状況は、科学技術コミュニケーターにとっての大きなチャンスなのではないかと思えてきました。
そして松田さんは、今の日本には科学技術を客観的に批評できる人材が不足しており、科学技術コミュニケーター養成ユニットからはそういうことのできる人材を出して欲しいという意味で、「批評」というキーワードを出されたと、私は受け取りました。
これだけ科学技術が我々の生活に深く関わっているにも関わらず、そのことについて広く深く批評あるいは評論することのできる人がいないということは、どう考えても我々の社会における陥穽だと思えます。その穴がふさがれない限り、大多数の人々の科学技術リテラシーを育てていくことなどもできないでしょう。
今我々に必要なのは、人々に科学技術の素晴らしさを理解させる「理解増進」でも、科学技術の危険性を一方的に訴える「科学批判」でもなく、冷静に科学技術を評価しコメントすることのできる批評家あるいは評論家なのだということを改めて気づかされた思いがしました。
そういう目で今まで我々が考えていた科学技術コミュニケーターを捉え直してみると、「難しい科学技術をわかりやすく人々に伝える」ということは、単なる「解説」であり無味乾燥な翻訳(インタープリテーション)にすぎなかったという反省を感じます。
人々が求めている科学技術リテラシーとは、その科学技術的な「説明」だけではなく、それが持つ危険性や安全性を含めた「意味」なのです。
そういう観点かが考えると、科学技術コミュニケーターがやるべきことは単なる解説ではなく、まさに批評・評論でなければなりません。
これからの指針が見えてきた気がします。
同士を求めます。
さすがにデザイナーという仕事柄からか、質問に対して一言で答えることの呼吸がとても心地よく、科学技術コミュニケーターを「理系の語り部」と呼んだり、これからの科学技術コミュニケーター教育に求められるべきこととして「批評」というキーワードを出された時には、おもわず膝を打ってしまいました。
今の時代、批評家あるいは評論家という職業が氾濫しています。テレビのニュース関連のワイドショーにはありとあらゆる評論家が登場してくるので、世の中にはいろんな評論家があふれかえっていると錯覚してしまいますが、実はそんなにいないのかもしれません。
Wikipediaに挙げられている評論家の種類は意外なほど少なくこれだけです。
* 映画評論家
* オーディオ評論家
* 音楽評論家
* 株式評論家
* 軍事評論家
* 経済評論家
* 芸能評論家
* 競馬評論家
* 建築評論家
* 航空評論家
* 自動車評論家
* 写真評論家
* 政治評論家
* 美術評論家
* 風俗評論家
* 文芸評論家
* 野球評論家
* 航空評論家
* 鉄道評論家
「科学評論家」や「科学技術評論家」が見あたりません。一方で、「毎年のように新しい肩書きの評論家が登場してくる」とか、「評論家はフリーランスジャーナリストなどのライターが自称する場合が多い」とか書かれてているので、批評家や評論家というものはなんでもありのはずなのに、科学評論家とか科学技術批評家といわれるあるいは自称する人が意外と少ないというのが現実なのでしょう。
こういう状況は、科学技術コミュニケーターにとっての大きなチャンスなのではないかと思えてきました。
そして松田さんは、今の日本には科学技術を客観的に批評できる人材が不足しており、科学技術コミュニケーター養成ユニットからはそういうことのできる人材を出して欲しいという意味で、「批評」というキーワードを出されたと、私は受け取りました。
これだけ科学技術が我々の生活に深く関わっているにも関わらず、そのことについて広く深く批評あるいは評論することのできる人がいないということは、どう考えても我々の社会における陥穽だと思えます。その穴がふさがれない限り、大多数の人々の科学技術リテラシーを育てていくことなどもできないでしょう。
今我々に必要なのは、人々に科学技術の素晴らしさを理解させる「理解増進」でも、科学技術の危険性を一方的に訴える「科学批判」でもなく、冷静に科学技術を評価しコメントすることのできる批評家あるいは評論家なのだということを改めて気づかされた思いがしました。
そういう目で今まで我々が考えていた科学技術コミュニケーターを捉え直してみると、「難しい科学技術をわかりやすく人々に伝える」ということは、単なる「解説」であり無味乾燥な翻訳(インタープリテーション)にすぎなかったという反省を感じます。
人々が求めている科学技術リテラシーとは、その科学技術的な「説明」だけではなく、それが持つ危険性や安全性を含めた「意味」なのです。
そういう観点かが考えると、科学技術コミュニケーターがやるべきことは単なる解説ではなく、まさに批評・評論でなければなりません。
これからの指針が見えてきた気がします。
同士を求めます。
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K_Tachibana
at 2009-03-16 23:32
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なぎのねどこでも書かれていましたけれど,名乗っていないだけで科学批評を実践してきた人は少なからずいるでしょう.
●科学批評家(なぎのねどこ)
※スパムコメントに指定されてしまうので,URLにリンクを埋め込みました.
私も科学礼賛ではなく,一緒に科学と社会の課題について考えませんかという立ち位置でサイエンスカフェを企画していますし.科学技術リテラシーをつけるために必要なことは,自分でモノを考えることが重要だと気づくことだと思います.
●科学批評家(なぎのねどこ)
※スパムコメントに指定されてしまうので,URLにリンクを埋め込みました.
私も科学礼賛ではなく,一緒に科学と社会の課題について考えませんかという立ち位置でサイエンスカフェを企画していますし.科学技術リテラシーをつけるために必要なことは,自分でモノを考えることが重要だと気づくことだと思います.
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stochinai at 2009-03-16 23:39
すでに昔からいるとか、私が先だとか言いたい気持ちはとても良くわかるのですが、どんなことでも広まらない限り「無いのと同じ」というのが現実の難しさだと思いませんか。
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あすてろいど
at 2009-03-17 08:17
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「どんなことでも広まらない限り「無いのと同じ」」 これが現実です。科学コミュニケーションやサイエンスカフェ的催し物もそうだと思います・・・そうでないかもしれませんが。
先行的な試みは色々あったはずですが、あたかも2005年にスタートした東大・早稲田・北大の動きが最初のように思われがちです(一般人にとってという意味)。成功した理由は色々あるでしょうが、「広める努力」をしたことはとても大きいと思います。
「科学批評の仕方を学ぶ」というコースができて、そこで学べば「批評する人」として認定されるという状況を想像してみました。・・・
先行的な試みは色々あったはずですが、あたかも2005年にスタートした東大・早稲田・北大の動きが最初のように思われがちです(一般人にとってという意味)。成功した理由は色々あるでしょうが、「広める努力」をしたことはとても大きいと思います。
「科学批評の仕方を学ぶ」というコースができて、そこで学べば「批評する人」として認定されるという状況を想像してみました。・・・
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「技術」寄りかもしれませんが
at 2009-03-17 08:41
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たとえば松浦晋也さんのような方をイメージすればよいのでしょうか?
smatsu.air-nifty.com
smatsu.air-nifty.com
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stochinai at 2009-03-17 08:53
イメージとしてはまさにこういう感じです。ただ、テーマとしてもっとずっと「普通の人々の日常生活」の近くにある科学を幅広く扱う必要を感じますので、そのためにはたくさんの批評家が必要なのだと思います。
今日は、sivadです。おっしゃるように、ボトムアップで科学技術に意見を出していくことが日本では少なすぎると思います。
そこで、科学技術基本計画にツッコミを入れていこうという試みをちょうど始めたところです。
ぜひご意見アイデア等よろしくお願いいたします。
ttp://d.hatena.ne.jp/hakasenetwork/
そこで、科学技術基本計画にツッコミを入れていこうという試みをちょうど始めたところです。
ぜひご意見アイデア等よろしくお願いいたします。
ttp://d.hatena.ne.jp/hakasenetwork/
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stochinai at 2009-03-18 13:00
おもしろい企画を立ち上げましたね。多方面から、「楽しみながら」攻めていけるといいですね。
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K_Tachibana
at 2009-03-21 12:38
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しばらくまとまった時間がとれなかったのでまともにResが書けなかったのですが,科学批評に認定制度があったほうがよいということですか?
「認定」科学批評家という存在が,私にはにわかに想像できないのですが.
「認定」科学批評家という存在が,私にはにわかに想像できないのですが.
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stochinai at 2009-03-21 13:38
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stochinai at 2009-03-21 13:40
蛇足ですが、科学技術コミュニケーターだって国の認定など必要ないと思っています。どんな資格を持っているかではなく、何ができるかだけが重要です。
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K_Tachibana
at 2009-03-21 14:30
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コメントに対する返信をいただきありがとうございます.
私のブログにTBいただいた,なぎさんの言及されているのは,4日前のコメントにあった「「科学批評の仕方を学ぶ」というコースができて、そこで学べば「批評する人」として認定される」ということを指しているのだと理解しました.さらに「それに対する修正意見が出ないのにも呆れた」というのは,私がコメントをしなかったことに対する意見ではないか,と.
「サイエンスコミュニケータ」が科博認定であることは,科博関係者からお聞きしました.「サイエンスコミュニケータ」であれ「科学技術コミュニケーター」であれ,「科学技術インタープリター」であれ,資格としてではなく,何ができるかだけが重要である旨,私も首肯します.
さらに,なにを名乗るにせよ,批評精神は重要ということについても.
私のブログにTBいただいた,なぎさんの言及されているのは,4日前のコメントにあった「「科学批評の仕方を学ぶ」というコースができて、そこで学べば「批評する人」として認定される」ということを指しているのだと理解しました.さらに「それに対する修正意見が出ないのにも呆れた」というのは,私がコメントをしなかったことに対する意見ではないか,と.
「サイエンスコミュニケータ」が科博認定であることは,科博関係者からお聞きしました.「サイエンスコミュニケータ」であれ「科学技術コミュニケーター」であれ,「科学技術インタープリター」であれ,資格としてではなく,何ができるかだけが重要である旨,私も首肯します.
さらに,なにを名乗るにせよ,批評精神は重要ということについても.
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stochinai at 2009-03-21 14:39
なんとなく了解しました。また、最後の2点は同感です。
以下の記事をTBさせて頂きましたが、届いていないようですので、念のため、お知らせします。
「科学評論家」が不要な社会に
ttp://blogs.dion.ne.jp/hiroichiblg/archives/8207722.html
「科学評論家」が不要な社会に
ttp://blogs.dion.ne.jp/hiroichiblg/archives/8207722.html
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stochinai at 2009-03-23 00:28
ここへのTBはしばしば失敗して、ご迷惑をおかけしております。TBしていただいたエントリーに対してはいろいろとインスパイアーされることが多かったので、改めてこちらにも書いてみたいと思います。ありがとうございました。
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あすてろいど
at 2009-03-25 00:29
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しばらく見ていなかったのでスミマセン。「認定」と書いたのは反語のつもりです。認定なんて状況を想像したら・・・ゾッとしませんか?「科学技術コミュニケーターだって国の認定など必要ないと思っています」というstochinaiさんの言葉に同感です。
by stochinai
| 2009-03-15 23:51
| つぶやき
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Comments(15)