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グレープフルーツを使って抗がん剤の使用量を減らす

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 今回は論文ではなく、シカゴ大学がホームページで発表しているものです。

Grapefruit juice boosts drug's anti-cancer effects April 20, 2009

 学会発表と同時のプレスリリースなので、ある種の「優先権」を確保しようという意図があるのかもしれません。もっとも、この「発見」は金儲けにはまったくつながりそうもありません。

 学会発表は以下のもので、ポスター発表で地味なのですが大学としては大々的に宣伝したい内容だったのでしょう。
AACR’s 100th Annual Meeting in Denver in a session on "Late-Breaking Research: Clinical Research 1: Phase I-III Clinical Trials," Poster Section 27, from 1 to 5 p.m. on Monday, April 20, 2009

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 よく、グレープフルーツジュースで薬を飲んではいけないと言われます。私は、その理由は薬の有効成分が壊れて効かなくなるせいだろうくらいに思っていたのですが、逆でした。グレープフルーツジュースには含まれるフラボノイドが薬物分解酵素の働きを妨げるために薬が効き過ぎるために禁止されていたのでした。無知を恥じております。たとえば、こちらをご覧ください。
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 これを読むと、薬が効きすぎるというのも恐ろしいものだということが良くわかります。

 さて、今回の発表の中身ですが、グレープフルーツのこの作用を逆手に取って、値段が高く副作用も強い抗がん剤のひとつであるラパマイシン(Rapamycin)の投与量を削減させ、同時に高い効果が得られる可能性もあるというものです。ラパマイシンはもともとサイクロスポリンやFK506と同じように免疫抑制剤として発見されたもので、臓器移植の時などに起こる拒絶反応を抑えるために使われていたものです。
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 いろいろな作用はあるようですが、ラパマイシンは主に細胞の増殖を抑える働きを持っているので、免疫細胞の増殖が抑えられると免疫抑制剤になり、がん細胞の増殖が抑えられると抗がん剤になるという理解でも大きな間違いはなさそうです。

 詳しい作用のしくみはさておき、このラパマイシンを抗がん剤として使うときには週に1回投与するようなのですが、シカゴ大学では28人の、他の治療法でほとんど効果のなかった患者に、週1回のラパマイシン投与を続けながら、2週目からは毎日グレープフルーツジュースを飲んでもらいました。

 そのうち25人の経過観察ができたということですが(3名は亡くなった?)、そのうち7名ではがんの増殖が見られず、1名ではがんが30%縮小したそうです。そして、この治療を継続してほぼ1年たったところで学会発表ということになったようなので、他の患者さんも存命中ということだと想像されます。

 ラパマイシンは高価なので治療に用いると毎月何千ドルもかかってしまう上に、経口投与した場合にはその15%位しか吸収されないのだそうです。グレープフルーツジュースの中に含まれるフラノクマリン(furanocoumarins)という物質の働きによって、その破壊が抑えられるのでグレープフルーツジュースを飲まないときに比べて血中濃度が2倍から4倍に保たれる結果、費用が約半分に抑えられるという効果も見逃せません。もちろん、薬の分解が抑制されることによる治療効果の持続も期待できるということなのでしょう。

 こういうのを発想の逆転というのですね。製薬業界からは歓迎されないでしょうが、患者さんにとっては福音だと思います。

 アルコールなんかも薬の分解を妨げると言われるので、意外と同じような働きがありそうではないか、などと酒飲みはすぐに思ってしまいます。
by stochinai | 2009-04-21 20:41 | 医療・健康 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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