5号館を出て

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壮大な予行演習としてのブタフルエンザ騒動

 まだ予断は許されないというものの、ニュースから読みとれる情報は、初期段階の報道にあったような恐怖を煽られるものではなくなっています。

 例えば、毎日jpのまとめ記事「クローズアップ2009:新型インフル、公表から1週間 実態解明、徐々に」を見てみましょう。
  メキシコ政府は一時、感染疑い例を2500人以上、疑われる死者数を176人としていた。しかし4月28日に検査態勢を強化。2日現在の感染確認者数は443人、うち死亡者16人と、大きく下回った。最終段階の検査に回されたのは1105検体で、約4割が陽性だった計算だ。

 メキシコでは毎年3~4月に1500~1800人が肺炎で死亡するとされ、検査態勢が整わないうちは、肺炎患者もカウントせざるを得なかった事情がある。

 感染実態は少しずつ明らかになっている。感染確認患者・死亡者の特徴は、首都圏のメキシコ市・州に集中している点だ。1日現在、同市・州だけで感染者330人、死者14人。死者16人のうち12人が女性で、9人が21~40歳だ。感染ルートは不明だが、4月29日時点の感染状況を分析した米疾病対策センター(CDC)の報告書では、3月17日に発症した患者が最初の確認例だ。

 新型インフルエンザの感染拡大は「あまり不吉なものではない」。AP通信は2日、こう報じた。CDCがウイルスの毒性を「(スペイン風邪を起こした)1918年ほどではない」と公表し、感染速度も「季節性インフルエンザより速いことはない」としたからだ。
 ここ数年、WHOを含め世界がトリフルエンザのパンデミックに対する警戒を強めていたところへ、たとえブタフルエンザという予期せぬ相手ではあっても、それと同じくらい致死率の高いインフルエンザが発生したという衝撃が世界を駆け抜けてしまったのだと思います。

 私の個人的感触としてはこれは明らかにミスジャッジによる暴走だと感じていますが、それはインターネットを初めとして情報の伝搬速度が異常に速くなったことと、WHOなどを初めとして世界レベルで新型インフルエンザパンデミックに備える体制ができあがっていたことによる、いわば不可避のスイッチオンだと思います。

 これによって、各国はおそらく想像を絶するくらいのコストをかけて対応に追われていると思いますが、実際に強毒型のインフルエンザパンデミックが起こって、人的被害が拡大することに比べると、それは許される程度の「誤診」だと、私は思っています。

 それよりも、今回の「事件」によって、リアルタイムでインフルエンザの拡大が観測されているということの科学的意味を評価したいと思います。感染拡大とともに死者が続々と増えていくというような状況だとしたら、そんな呑気なことは言っていられないとは思いますが、幸いにして感染は拡大してはいるものの、多くのケースにおいて深刻な症状はそれほど報告されていないようです。その一方で、精密な遺伝子解析で、どこでどこからどのようにウイルスの感染が広がっているのかということについて、精密な追跡が可能になっています。

 そのデータがまとまってくれば、インフルエンザというものがどのように感染を拡大していくのかということについて、かつてないほど精密な世界規模での結果が得られることになるでしょう。

 これが、最初からA型インフルエンザの亜型が出現したということであったならば、これほどの世界レベルでの精密な解析が行われることはなかったのではないでしょうか。もちろん、そうした研究をやりたいと思っている科学者・医師はたくさんいると思いますが、もしもやろうとしても誰がそのコストを負担するのかというような議論が先行して、結局できないのが現実だと思います。

 そういう意味では、ここまできてしまったのですから、たとえ今後に想像を絶するような危険は想定されないという結論になったとしても、安易に幕引きを急ぐのではなく、人類共通の貴重な世界的実験を最後まで遂行して、いつ起こってもおかしくないと言われる強毒性のインフルエンザパンデミック対策のための基礎データ(インフルエンザというものが、どのように発生し、どのように世界に拡がって行くのか)の収集へと重心を移していっても良いのではないでしょうか。

 今、我々が経験している壮大な予行演習の中で、政府は往々にして国民の恐怖を煽るような言動を取ることもわかりましたし、マスコミも拙速にいい加減な情報を垂れ流すことも良くわかりました。今後は、こうしたことも教訓にしながら、来るべきパンデミックに備えて、国民として賢い行動を選択できるようになりたいものです。
by stochinai | 2009-05-03 23:40 | 医療・健康 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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