5号館を出て

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ダウン症のヒトが「がん」にかかりにくいことの原因遺伝子解明

 21番染色体が3本になることによって引き起こされるダウン症では、白血病などの血液性のものを除くと多くの固形がんの発症が有意に低くなることが大規模な疫学的調査から証明されています。他に糖尿病性網膜症やアテローム性動脈硬化などの血管関係の病気が少ないことも知られています。

 21番染色体上には231個の遺伝子があることが明らかにされており、その中に原因遺伝子があると考えられます。例の本でも言及してありますが、マウスでヒトの21番染色体に相当する16番染色体を3本持ったマウスを使って実験したところ、不思議なことにEts2というがんを作らせる原因として知られているがん遺伝子(発がん遺伝子、がん原遺伝子)が、過剰に働くことによってがんが起こりにくくなるという、一見不思議な論文が去年の一月に出ています。

Nature 451, 73-75 (3 January 2008)
doi:10.1038/nature06446
Trisomy represses ApcMin-mediated tumours in mouse models of Down's syndrome


 おとといNatureのオンライン早版に掲載されたのは、それよりは明らかに明快で、がんの成長に必要な血管成長を阻害する遺伝子が、ダウン症に人でがんが少ないことの原因になっているという論文でした。

Nature advance online publication 20 May 2009
doi:10.1038/nature08062
Down's syndrome suppression of tumour growth and the role of the calcineurin inhibitor DSCR1


 この論文では、21番染色体上にある遺伝子から作られるDSCR1(またはRCAN1)というタンパク質が、血管細胞を増殖させる因子(VEGF)によって活性化されるカルシニューリンというタンパク質がかかわる反応経路を阻害して、血管の成長を妨げることを示しています。ダウン症ではDSCR1タンパク質が増えていることも示されています。

 染色体を3本にしなくても、Dscr1遺伝子を1つ導入されたマウスでもがんの成長が阻害されることが示されているのは、かなり強力な証拠だと思います。

 また、同じ21番染色体のDscr1遺伝子の近くにDyrk1aという遺伝子があるのですが、それがDscr1遺伝子と同時に働くと、血管の成長が大きく阻害されることも示されていますので、DSCR1とDYRK1Aタンパク質を同時に使うことで制がん効果が期待できるのではないかということで結ばれています。

 この論文の主な部分はマウスを使った実験なのですが、ちょっとうならせられたのはダウン症のヒトから細胞をもらってiPS細胞を作って行われた実験をやっているところです。正常なボランティアのヒトとダウン症のヒトからそれぞれiPS細胞を作り、それを免疫不全のマウス(Rag2-/- Il2rg-/-)の筋肉の中に注射すると、奇形種という良性の腫瘍ができます。できた腫瘍の中に、どのくらい血管が発達しているかを調べたところ、ダウン症のヒトから作ったiPS細胞でできた腫瘍の中には、正常なヒトから作ったiPS細胞でできた腫瘍に比べて血管の発達が悪かったというデータが示されています。
c0025115_20222150.jpg
 写真を見る限りは「劇的」と言えるほどの差はありませんが、評判になっている技術や細胞をタイムリーに使っていくというこの「姿勢」はさすが日夜競争にさらされているアメリカの研究者の論文だと思わされました。

 こうしたやり方には賛否両論あるかもしれませんが、研究の成果をいろいろな人に読んでもらい、次の研究費につなげていこうとするならば、見習うべき姿勢だと思います。

 山中先生が、iPSの研究は1勝10敗だとかおっしゃってましたが、こんなちょっとしたところにもその差の原因があるように感じられました。
Commented by クニ at 2009-05-23 09:06 x
ダウン症の方、活性酸素種のスーパーオキシドを過酸化水素に代謝するSODの働きが強い。

その加減かとおもっていますが、40代でアルツハイマー様の認知症が出やすく、GSK3βが活性化していて、またガンを促進するAKTのシグナルが弱いのではとおもいますが?
by stochinai | 2009-05-22 20:40 | 医療・健康 | Comments(1)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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