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漁業が大西洋タラの急速な進化を促した

ScienceDaily Science News
Did The North Atlantic Fisheries Collapse Due To Fisheries-induced Evolution?
北大西洋における漁業崩壊は漁業が引き起こした進化によるものか?
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© PhotoXpress.com

 大西洋のタラは何世紀にもわたって主な魚種として漁をされてきましたが、今や北アメリカのタラ漁は壊滅的な打撃を受けているそうです。

 論文はこちらです。

PLoS ONE 4(5): e5529. doi:10.1371/journal.pone.0005529
Árnason E, Hernandez UB, Kristinsson K (2009)
Intense Habitat-Specific Fisheries-Induced Selection at the Molecular Pan I Locus Predicts Imminent Collapse of a Major Cod Fishery


 タラには浅いところに住む性質を持ったものと深いところに住む性質を持ったものが共存しており、驚いたことにその性質は Pan I という遺伝子に支配されており、A という型のものを持っている個体は浅い海に分布して、B型を持ったものが深い海にいる傾向があります。AB型はどちらかというとA型に近く、浅い海を好むようです。
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 この図でいうと、浅いところにはAをホモで持つAA型とヘテロで持つAB型が共存するようですが、深さが150mを越えるとA型の遺伝子を持った個体は激減します。この傾向は特に春に顕著で、秋になるとA型遺伝子を持つものはやはり浅いところを好むものの深いところにも分布します。

 タラ漁では主に浅いところにいるサカナを獲りますので、A型遺伝子を持つ個体が選択的に獲られてしまうことになります。つまり、漁の結果A型を持ったタラが選択的に除去される「人為選択」が起こり、A型遺伝子を持った個体が減るという「進化」が急速に起こったということのようです。

 研究者の計算では毎年8%のA型遺伝子がタラの世界から失われているといいます。つまり、浅い海に住むタラが急速に減り、タラ漁が崩壊しているのは、人為選択による進化の結果というわけです。その様子をシミュレーションしたグラフの一つをご覧ください。
漁業が大西洋タラの急速な進化を促した_c0025115_19532621.jpg
 ほんの数世代、20年くらいで集団の持つ遺伝子組成ががらりと変わるのがわかります。

 とは言え、この結果があってもなくても、漁を回復するためには禁漁が一番ということですが、漁業にも進化論の考え方が入ってきたというところが新鮮に思えました。

 ダーウィン医学、ダーウィン農業に続いて、ダーウィン漁業というところでしょうか。

#あまり得意でない「集団遺伝」の領域に手を出してしまいましたので、どこかに錯誤がある可能性があります。その場合は、ご指摘いただければ幸いです。
Commented by ぜのぱす at 2009-05-28 06:16 x
ニシンはどうなんだろうと思ってしまいました。
アレは単に採り過ぎだ結果?
by stochinai | 2009-05-27 20:03 | 生物学 | Comments(1)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai