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ある種の大腸がんでは診断された後でもアスピリンで死亡率が半減する

 アメリカの消化器系学の医師・研究者があつまる研究集会である、消化器系疾患ウィーク(Digestive Disease Week: DDW2009)がシカゴで開かれています。
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 そこで行われた招待講演の中でマサチューセッツ総合病院のAndrew T.Chan博士が衝撃的な発表をしたようです。

 大腸癌診断後にアスピリンを定期服用すると死亡率が半減する可能性

 博士らは以前に、アスピリンを常用していると、大腸がんのうちCOX-2という遺伝子が強く発現しているものについては、予防的効果が認められるという論文を発表しています。

 Aspirin and the Risk of Colorectal Cancer in Relation to the Expression of COX-2: The New England Journal of Medicine Volume 356 May 24, 2007 Number 21,

 ありがたいことに、この論文の日本語抄訳がこちらにあります。
COX-2 を過剰発現する癌の年齢調整罹患率は,アスピリン常用者で 10 万人年当り 37 であったのに対し,アスピリンを常用していない被験者では 56 であった.
 「常用」というアスピリンの量は、毎日2錠くらいだそうですが、この量の服用を続けると副作用の起こる人も出るようなので、あまりおすすめはできない感じです。
 アスピリンは、炎症や腫瘍(しゅよう)の成長を助ける酵素の働きを止める作用があるが、大量に服用(1日2錠以上)すると消化管出血などを起こす。試算では、大量服用で1~2人の大腸がんが予防できた場合、8人に深刻な消化管出血が起きる可能性があるという。(2005年9月5日 読売新聞
 しかし、今回の発表はすでにがんと診断された患者さんについてのデータですので、気になります。
大腸癌と診断された後でアスピリンを定期的に服用すると、服用していない場合に比べ、大腸癌による死亡率が29%も有意に低下した(95%CI:0.53-0.95、p=0.02)。全死亡率についても有意に改善した(p=0.03)。
 不思議なのは、がんと診断される前にアスピリンを使っていなかったヒトはさらに死亡率が下がっていることです。
 特に、大腸癌と診断される前にアスピリンを服用していなかった患者719人については、診断後にアスピリンを服用しなかった536人に比べ、診断後にアスピリンを服用し始めた183人では大腸癌による死亡率が47%低下(95%CI:0.33-0.86)と、ほぼ半減した。
 この後には、ちょっと矛盾したことが書いてあるので引用しませんが、やはりCOX-2が発現するがんに対する効果が大きいようです。

 今回の結果は、副作用を心配しながら今までのように見えないがんに対する予防という観点からではなく、アスピリンにがんに対する治療効果があるというデータを示しているという点で反響が大きいかもしれません。

 まだ、データの数が少ない予備的発表とはいうものの、アスピリンは値段も安いので、もしも期待できるならばうれしいニュースだと思います。
by stochinai | 2009-06-03 21:03 | 医療・健康 | Comments(0)

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