5号館を出て

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ゴリラ由来のエイズウイルスが発見された

 今までに知られているエイズウイルス(HIV human immunodeficiency virus)には、HIV-1とHIV-2の2つの大きな系統が知られており、エイズの主な原因となっている前者はさらに3つの系統に分かれるものの、そのすべてがチンパンジーのウイルス(SIV simian immunodeficiency virus)が、20世紀初頭のコンゴ地域でヒトに感染したことが発端となり、その後さらに進化を続けながらヒトからヒトへの感染が広まったものと考えられています。HIV-2はマンガベーやアカゲザルのSIV由来のようです。

 サルからヒトへの最初の感染に関しては、ヒトがそれらのサルの肉を食べたことが原因だろうと推測されていますが、サルの免疫不全ウイルス(SIV)はさまざまな類人猿にいることがわかっており、ゴリラにもゴリラ特有のSIVがいることはわかっていましたが、ゴリラ由来のウイルスがヒトに感染している例は今まで一例も報告されていませんでした。

 BBCニュースによれば、この度パリに住む62歳のカメルーンの女性が、今までに知られているHIVとは明らかに系統が異なり、ゴリラのSIVに近縁なHIVに感染していることが確認されました。これが、ゴリラのSIVがヒトに感染していることが発見された最初のケースになります。また、実験的にこのSIVがヒトの細胞の中で増殖することも確認されています。つまりすでにこのウイルスはSIVからHIVへと進化していると判断されます。

Scientists find new strain of HIV

 ニュースではNature Medicineに載っていると書いてあるのですが見つかりませんので、とりあえずこのソースだけで書いておきます。

 この女性はパリに来る前にはカメルーンの田舎(準都市 semi-urban area)に住んでいて、ゴリラと接触したり、野生のゴリラの肉を食べたりというような経験はないので、このウイルスの起源はゴリラだとしても、現在はおそらくヒトからヒトへという感染能力を持つように進化しており、今回もこのルートで感染したものと考えられているようです。
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(c)photoXpress

 となると、このウイルスはすでにかなりたくさんのヒトに広がっている可能性もありそうです。あまり、はっきりとは書いてないのですが、おそらくこのウイルスでもエイズの症状を示すものと思われます。それでなければ、この患者からウイルスが見つかったということはなかなか考えにくいのです。というのは、この新しいHIVはいままでのHIV-1とはかなり異なるものなので、現在使われている抗体やHIVのDNA検査などでは検出されないため、この患者さんが今までに発見されたものとは異なるウイルスによるエイズだということが疑われて研究された結果、新しいウイルスが発見されたからです。

 ただし、このウイルスによる病気の症状はそれほど激しいものではないので、たとえそれが大規模に広がっていたとしてもパニックに陥る必要はなさそうですし、現在使われているエイズの治療薬も効果がありそうとのことです。

 しかしたとえそうだとしても、いずれウイルスが進化してエイズと同じような症状を示すようになる可能性はあるので注意は必要だというのが研究者の見解です。ヒトとヒトとの接触において直接血液や体液が混ざるというような行為を避けるという、一般的なHIVと同様の注意で感染は防げるものと思います。

 いずれにしても、野生動物の肉は危険ですので、食べる時には十分な知識が必要です。ちなみにSIVやHIVも熱で感染性を失いますので、野生のサルの肉を食べたとしても十分に調理されていれば感染は防げたのかもしれませんが、いったんヒトへ感染しヒトからヒトへの感染性を獲得した今となってはそんなことを言っても始まりません。

 インフルエンザも同じですが、ウイルス感染というのはヒト一人の問題ではなく、人類全体の問題に発展するところがコワイところです。

【追記】
 こちらに原著がありました。

Brief Communication

Nature Medicine
Published online: 2 August 2009 | doi:10.1038/nm.2016

A new human immunodeficiency virus derived from gorillas


ウイルスの系統樹(赤いところがゴリラのSIV)
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 HIV-1の新しいグループだと思われていたものが、実はゴリラ由来の新しいグループだったということでしょうか。
Commented by js at 2009-08-03 19:37 x
She currently has no signs of AIDSとありますので、発症がウイルス分離のきっかけでは無さそうです。ゴリラのウイルスに近縁のgroupOは病原性が弱く、感染の広がりも小さいという報告が以前ありますので、疫学的には深刻な事態にはならないかもしれません。おおもとのウイルスが様々な類人猿に広がったあと、それぞれ独立してヒトに入ったということかな?
Commented by stochinai at 2009-08-03 21:13
 ありがとうございます。そこは読んでおりませんでした(^^;)。
by stochinai | 2009-08-03 16:37 | 医療・健康 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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