5号館を出て

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大麻は若者の骨を溶かすが年寄りの骨粗鬆症を防ぐ

 覚醒剤は風邪薬にはいっている重要な成分ですし、麻薬も末期がんなどにおける疼痛緩和に大きな効果を発するために医学的には重要な物質です。ただし、いずれも脳などの中枢神経を中心に劇的な効果を持っていますので、使い方を誤ると(あるいは意図的に神経細胞への作用を図ると)強い習慣性とともに重大な副作用があることから、多くの国で法的に強い使用制限がされています。

 ヒトも動物の一種にすぎませんので、知性以前のレベルで中枢神経を介した快楽が得られるケースに遭遇すると、なかなかそれに抵抗するのは難しいと思われ、覚醒剤や麻薬に関する知識がある医師や科学者といえども、しばしば薬物依存になってしまうという意味で恐ろしい存在です。

 時として命を落としたり、病気になったりする原因になることがわかっていたとしても、短期的に得られる快楽を得ることに抵抗できずに麻薬や覚醒剤を止められなくなるのは、命を失う恐れがあるにもかかわらず危険な登山に挑み続ける冒険家などと同じ精神構造なのかもしれません。それにもかかわらず、冒険を法律で禁止しているという例はあまり聞くことはありませんが、覚醒剤や麻薬が法律で禁止されるのは、危険の大きさに対してそれにアクセスするまでの障壁があまりにも低すぎるということが理由なのだと思われます。たとえば、中学生や高校生がエベレストに登ろうとしても、麓にたどりつくもとさえほとんど不可能でしょうが、今の日本ではほんのちょっとした「不良行動」をするだけで、誰でも簡単に麻薬や覚醒剤を手に入れられる状況になっていることが恐ろしいのだと思います。

 一方、大麻取締法によって日本では麻薬と覚醒剤と同じような扱いをされている大麻は、実はそれほどの習慣性も神経作用の強さもないようですが、その主要成分であるカンナビノイドには、いろいろと「おもしろい」薬理作用があることが次々と見出されています。

 Wikipediaにはこう書いてあります。
カンナビノイドは、大麻に含まれる化学物質の総称。

60種類を超える成分が大麻草特有のものとして分離されており、主なものに、THC(テトラヒドロカンナビノール)、 CBN(カンナビノール)、CBC(カンナビクロメン)、CBD(カンナビジオール)、CBE(カンナビエルソイン)、CBG(カンナビゲロール)、 CBDG(カンナビジバリン)などがある。特にTHC、CBN、CBDはカンナビノイドの三大主成分として知られる。なお、陶酔作用がある成分はこの中でもTHCのみとされるが、他のカンナビノイドとの含有比率によって効用には違いが生じる。
 覚醒剤で、「歯や骨がボロボロになる」という話は良く聞くところですが、どうやら若者が大麻を吸うと骨がもろくなるということがあるようです。ところが、同じ大麻を骨粗鬆症になりそうな年齢のヒトが用いると、それを防ぐ効果があるらしいという論文が発表されました。

 まずは、BBSの解説記事です。

Cannabis may prevent osteoporosis

 大麻が骨粗鬆症を防ぐかもしれない


 この記事は、次の論文を解説したものです。

Cell Mebabolism Volume 10, Issue 2, 6 August 2009, Pages 139-147
Cannabinoid Receptor Type 1 Protects against Age- Related Osteoporosis by Regulating Osteoblast and Adipocyte Differentiation in Marrow Stromal Cells

 タイプ1カンナビノイド受容体は、骨の基質細胞が造骨細胞になるか脂肪細胞になるかをコントロールすることで加齢による骨粗鬆症を防止する


 残念ながらこの論文はオープンアクセスになっておらず要旨しか読めませんので、BBCの解説をお読みください。

 論文の内容は簡単です。骨というものは子どもでも大人でもいつも壊されては作り直されている「再生系の組織」です。それで、たとえ骨折しても動かないように固定しておくだけで滑らかにつながることができるのです。その骨の再生を担っているのが、骨を溶かす「破骨細胞」と骨を作る「造骨細胞」です。大麻の成分であるカンナビノイドは、若者ではこの破骨細胞を活性化して骨を溶かす方にバランスを移動するのに対して、お年寄りでは造骨細胞を刺激して骨を作る方にバランスをシフトさせるということが(マウスで)わかったということです。

 このことから、おそらくヒトでも年をとってから大麻成分を与えると骨粗鬆症を防ぐ効果があるだろうということです。

 そのうちに、60歳を越えたヒトには年金と同時に国が大麻を配布するということになるかもしれませんね(笑)。
Commented by hamamatsunohito at 2009-08-23 15:04 x
最近の脳科学研究は人の精神作用がかなり単純であり、ほとんどが化学物質によって支配されてきていることが明らかになってきています。快感が性的なものと学習の達成感、スポーツでの高揚感もほとんど脳の報酬系の活性を伴うものであることから、その実態がどうも区別できないようだということが分かってきている。恐ろしいことともいえるが、人の行動の実態の真実はやはりきわめて動物的であるということでしょうか。
Commented by qp at 2009-08-24 10:03 x
研究というのはものごとを単純化して考えることなので、単純に見えるのは当たり前です。また、動物の行動も実際にはそう単純ではありません。
Commented by にゃはは at 2009-08-25 01:18 x
数年たてば、色々な因子が同定されて複雑なシステムだとわかってくるよ。
Commented by うんも at 2010-02-15 22:35 x
単純なものの組み合わせで複雑な仕組みにはなっているのだろうけど、要はそれらは化学反応の結果として出て来る「現象」であり、それを知覚する人間が勝手に意味づけして「精神」と呼んでいるだけですよ。精神は化学反応が生み出す幻。
by stochinai | 2009-08-13 22:47 | 医療・健康 | Comments(4)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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