5号館を出て

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香り米はジャポニカ種で酵素遺伝子が壊れて生まれた

 米の研究なのに、著者が日本人ではないところにまず惹かれました。

 The origin and evolution of fragrance in rice (Oryza sativa L.)

 PNAS Early Edition| August 17, 2009


 「米の香りの起源と進化」という論文ですが、ここでいう米の香りというのは我々が日々かいでいる炊きたてのご飯の香りと同じものかどうかは不明です。タイ米などには「香り米」という、とても強い香りを持った米があるのだそうで、その「香り」遺伝子をつきとめたという論文です。

 米にはジャポニカとインディカという系統があることは私でも知っていましたが、遺伝子を解析して詳しく分けると5つの系統に分かれるのだそうです。
香り米はジャポニカ種で酵素遺伝子が壊れて生まれた_c0025115_19254311.jpg
 この系統の中で、強い香りを持っている種類はいずれのグループにも存在しているのですが、グループが違っても同じ遺伝子変異を持っているものが見つかったというのが論文の主旨です。

 Wikipediaには、「香り米の有力な香気成分は2-アセチル-1-ピロリンである」と書いてありますが、普通の米ではこの物質の前駆物質のガンマ・アミノブチルアルデヒドという物質を酸化するBADH2(ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼ)という酵素が働くので、アセチルピロリンもアミノブチルアルデヒドもほとんどないのですが、香り米ではこの酵素の遺伝子が壊れている結果、香りのもととなるアセチルピロリンがたくさん作られてたまるということが見いだされました。

 このタンパク質を作るBADH2遺伝子の一部が欠けていたり、DNAの一部が置き換わっているために、タンパク質が合成途中で切れた働きのないタンパク質が作られるものと考えられます。
香り米はジャポニカ種で酵素遺伝子が壊れて生まれた_c0025115_1942697.jpg

 これと同じ壊れ方をした遺伝子はbadh2.1と名付けられました。いろいろな系統の米でこれと同じ変異遺伝子を持つものは、同じ先祖から遺伝子を受け継いだものと考えられます。そして、遺伝子の由来をたどってみると、それがジャポニカ種に由来することが明らかになったということです。

 badh2.1変異は、同じ先祖に由来することがわかりましたが、BADH2遺伝子が働きを失えばその米は「香り米」になるわけで、BADH2遺伝子の中で異なる場所に異常を起こした香り米がいろいろあることもわかりました。
香り米はジャポニカ種で酵素遺伝子が壊れて生まれた_c0025115_19493948.jpg
 これを見るとトロピカル・ジャポニカにたくさんの異なる変異が見られることもわかります。

 「香り米」の原因遺伝子がわかったということは、我々が普段食べている米でもこの遺伝子を破壊することで「香り米」にすることができるということになりそうです。あるいは、遺伝子操作がいやならば交配によって壊れた遺伝子を導入した米を作ることもできそうです。

 我々の「主食」である米の重要な論文が、(謝辞には、日本の方の名前が見えますが、)外国人研究者によって行われたのはちょっと残念な気がした論文でした。
by stochinai | 2009-08-18 20:00 | 生物学 | Comments(0)

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