2009年 09月 03日
イヌの起源は揚子江の南にいた100匹ほどのオオカミから16000年ほど前に家畜化された
イヌの起源については、しばらく前から東アジアという説が有力ですが、つい最近、アフリカの土着犬を調べてみると東アジアのイヌと同じくらい遺伝的多様性が見られることから、必ずしも東アジア起源ということではないかもしれないという論文も出ていました。
Published online before print August 3, 2009, doi: 10.1073/pnas.0902129106
Complex population structure in African village dogs and its implications for inferring dog domestication history
Adam R. Boyko他多数
しかし、この論文でも東アジアが起源でないとしても、アフリカにはオオカミがいなかったので、アフリカもイヌの発祥の地というわけではなさそうだ、という弱気な結論になっていました。
(C)photoXpress
ミトコンドリアDNAの一部を比較して調べた今までの研究では、イヌが出現(オオカミから進化)した時期とその場所を特定するには至らなかったということで、169匹のイヌのミトコンドリアDNAの全ての塩基配列を比較するとともに、旧来と同じミトコンドリアの一部の比較ではあるものの1543匹という大量のサンプルを使った大規模な解析結果が論文になりました。(論文はオープンアクセスです!)
MBE Advance Access published online on September 1, 2009
Molecular Biology and Evolution, doi:10.1093/molbev/msp195
mtDNA Data Indicates a Single Origin for Dogs South of Yangtze River, less than 16,300 Years Ago, from Numerous Wolves
ミトコンドリアの解析結果は、世界中にいるすべてのイヌが揚子江の南で16300年より古くない時代に多数のオオカミから進化した(家畜化された)ことを示している
Jun-Feng Pang他多数
タイトルが論文の内容すべてを表しています。ミトコンドリアDNAの全塩基配列を調べた結果、10タイプの遺伝子型が見つかったのですが、10ともが見つかるのは中国の南東部のみであり、そこから遠ざかるにつれて型の種類が減り、中国中央部では7つ、北部では5つ、そしてヨーロッパでは4つしかみつからないという勾配が発見されたので、イヌの先祖は中国南東部で生まれたと結論されています。
配列を比較することで、イヌの先祖の遺伝子型ができた(イヌが進化した)のは、5400年から16300年前のどこかであり(ずいぶんとアバウトですね:笑)、少なくとも51匹の雌オオカミがイヌの先祖集団だということになりました。ミトコンドリアの遺伝子を調べたので、メスの先祖のことしかわらないのですが、メスが51匹いたら普通に考えるとオスも同じくらいの数がいただろうと考えると、イヌの先祖になったオオカミは100匹以上、おそらく数百匹ということになるようです。
実際にイヌの先祖に出会えるわけではないですが、こういう話は楽しいですね。
ところで、人類が食肉(とミルク)を得るために牧畜を始めたのが1万年くらい前ということですが、中国や朝鮮では今でもイヌの肉を食べていることを見ても、オオカミはアジア人の食料(肉)になるために家畜化されたのではないかと、論文の末尾に書いてありました。それは、欧米人の偏見ではないかという気もしたのですが、著者には中国人を含め多くのアジア人も入っているので、どうやらそうでもなさそうです。
また肉食のオオカミと違ってイヌは雑食です。もしもイヌが肉食だったら、イヌを食べるために肉を食べさせるというのは矛盾していますから、イヌの家畜化と雑食化はほぼ同時に起こったと考えるのが妥当でしょう。事実、イタリアのオオカミはスパゲッティを食べるそうですし、人家近くで残飯をあさるようになったオオカミが家畜化されたという考えは結構魅力的に聞こえます。
解説記事はこちらです。
ScienceDaily
Science News
Cradle And Birthday Of The Dog Identified: East Asia 16,000 years ago
イヌのゆりかごと誕生日が16000年前の東アジアだとわかった
Published online before print August 3, 2009, doi: 10.1073/pnas.0902129106
Complex population structure in African village dogs and its implications for inferring dog domestication history
Adam R. Boyko他多数
しかし、この論文でも東アジアが起源でないとしても、アフリカにはオオカミがいなかったので、アフリカもイヌの発祥の地というわけではなさそうだ、という弱気な結論になっていました。
ミトコンドリアDNAの一部を比較して調べた今までの研究では、イヌが出現(オオカミから進化)した時期とその場所を特定するには至らなかったということで、169匹のイヌのミトコンドリアDNAの全ての塩基配列を比較するとともに、旧来と同じミトコンドリアの一部の比較ではあるものの1543匹という大量のサンプルを使った大規模な解析結果が論文になりました。(論文はオープンアクセスです!)
MBE Advance Access published online on September 1, 2009
Molecular Biology and Evolution, doi:10.1093/molbev/msp195
mtDNA Data Indicates a Single Origin for Dogs South of Yangtze River, less than 16,300 Years Ago, from Numerous Wolves
ミトコンドリアの解析結果は、世界中にいるすべてのイヌが揚子江の南で16300年より古くない時代に多数のオオカミから進化した(家畜化された)ことを示している
Jun-Feng Pang他多数
タイトルが論文の内容すべてを表しています。ミトコンドリアDNAの全塩基配列を調べた結果、10タイプの遺伝子型が見つかったのですが、10ともが見つかるのは中国の南東部のみであり、そこから遠ざかるにつれて型の種類が減り、中国中央部では7つ、北部では5つ、そしてヨーロッパでは4つしかみつからないという勾配が発見されたので、イヌの先祖は中国南東部で生まれたと結論されています。
配列を比較することで、イヌの先祖の遺伝子型ができた(イヌが進化した)のは、5400年から16300年前のどこかであり(ずいぶんとアバウトですね:笑)、少なくとも51匹の雌オオカミがイヌの先祖集団だということになりました。ミトコンドリアの遺伝子を調べたので、メスの先祖のことしかわらないのですが、メスが51匹いたら普通に考えるとオスも同じくらいの数がいただろうと考えると、イヌの先祖になったオオカミは100匹以上、おそらく数百匹ということになるようです。
実際にイヌの先祖に出会えるわけではないですが、こういう話は楽しいですね。
ところで、人類が食肉(とミルク)を得るために牧畜を始めたのが1万年くらい前ということですが、中国や朝鮮では今でもイヌの肉を食べていることを見ても、オオカミはアジア人の食料(肉)になるために家畜化されたのではないかと、論文の末尾に書いてありました。それは、欧米人の偏見ではないかという気もしたのですが、著者には中国人を含め多くのアジア人も入っているので、どうやらそうでもなさそうです。
また肉食のオオカミと違ってイヌは雑食です。もしもイヌが肉食だったら、イヌを食べるために肉を食べさせるというのは矛盾していますから、イヌの家畜化と雑食化はほぼ同時に起こったと考えるのが妥当でしょう。事実、イタリアのオオカミはスパゲッティを食べるそうですし、人家近くで残飯をあさるようになったオオカミが家畜化されたという考えは結構魅力的に聞こえます。
解説記事はこちらです。
ScienceDaily
Science News
Cradle And Birthday Of The Dog Identified: East Asia 16,000 years ago
イヌのゆりかごと誕生日が16000年前の東アジアだとわかった
by stochinai
| 2009-09-03 20:39
| 生物学
|
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