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クジラの新しい系統樹:カバとちょっと遠くなった

 私はそれほど(ほとんど?)哺乳類の系統進化には詳しくないのですが、クジラの系統の話にはいつも引きつけられます。特に、クジラがカバと近縁だという話を聞いてからは、クジラの進化の話題になるとアンテナがついつい動いてしまいます。

 今日のScienceDailyニュースに、それがありました。

Getting A Leg Up On Whale And Dolphin Evolution: New Comprehensive Analysis Sheds Light On The Origin Of Cetaceans
新しい研究が、クジラの起源に光をあてた


 なんのことかわからないかもしれませんが、この紹介記事を読んでからオープン・アクセスの原著論文を読むと、そこにはきれいなイラスト入りの系統樹の図がたくさん載っていて、パッと視覚的にわかる気がします。

 原著論文 PLoS One

Spaulding M, O'Leary MA, Gatesy J (2009) Relationships of Cetacea (Artiodactyla) Among Mammals: Increased Taxon Sampling Alters Interpretations of Key Fossils and Character Evolution. PLoS ONE 4(9): e7062. doi:10.1371/journal.pone.0007062

 もともと哺乳類の分類や系統進化は骨を中心とする形による分類が主流でした。その方式で解析すると、クジラの系統樹はこんなふうになります。
クジラの新しい系統樹:カバとちょっと遠くなった_c0025115_175223100.jpg
 それに、遺伝子の比較を組み合わせると、こんなふうになります。
クジラの新しい系統樹:カバとちょっと遠くなった_c0025115_17535545.jpg
 この解析で、カバとクジラがかなり近いということになったのが衝撃的でしたので、新しい教科書にはかなり載っているようです。

 さらに、詳しくした図がこれと言えるでしょうか。
クジラの新しい系統樹:カバとちょっと遠くなった_c0025115_17552255.jpg
 現在までの最新の系統樹では、カバとクジラがきわめて近縁で、それらを含めてブタやシカ、ラクダまでも含めた大きな偶蹄類のグループが形成されています。

 今回の論文では、Indohyus と Mesonychia という化石の詳しい解析を取り入れて系統解析をし直してみたところ、なんとかばとクジラがちょっと離れるというまたまた劇的な系統樹ができあがりました。
クジラの新しい系統樹:カバとちょっと遠くなった_c0025115_17583884.jpg
 この系統樹によれば、クジラの先祖は、オオカミなどの肉食獣と草食獣が別れた時には草食獣のグループにいて、その後すぐに草食獣の先祖がクジラのグループと偶蹄類のグループに分かれた後で、今日は2つの大きな別々の哺乳類グループとして考えるべきだというのです。

 まあ、これでまた論争に火がつくという感じになると思いますので、結論というわけではないかもしれませんが、とてもおもしろい論文だと思いました。

 また、学問としては本質的な話ではないですが最近の原著論文は図がイラスト化されたわかりやすいものが多くなっていると思います。特に、PLoSOneのようなオープンアクセスの論文は、今までのように専門家だけを対象にして図がまったくないというものと違って、明らかに私のような「アマチュア」でも楽しく読めるように工夫されているのではないかと感じます。これならば、専門家でない人も読む気になりますよね。

 オープン・アクセスは論文のスタイルも変えてくるという例になるかもしれません。
by stochinai | 2009-09-25 18:06 | 生物学 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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