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がんにならないハダカデバネズミの秘密の遺伝子

 思わせぶりなタイトルを書きましたが、解説記事のタイトルもそうなっているので、ご容赦を。

Secrets of a cancer-free rodent がんの恐怖から解き放されたネズミの秘密

 もう一つはこちらです。

Scientists Discover Gene That 'Cancer-proofs' Naked Mole Rat's Cells 科学者がハダカデバネズミでがんを防止する遺伝子を発見

 ハダカデバネズミって、日本でもかなり有名になったので、ご存じの方も多いと思いますが、砂漠の地下に住む社会性(生殖しない個体がいるので「真社会性」と言うのだそうです)ネズミです。こちらにRochester大学提供の写真があります。(Credit: Image courtesy of University of Rochester via Science Daily)
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 原著はオープンアクセスではなさそうですが、要旨はこちらで読めます。

published online before print October 26, 2009, doi: 10.1073/pnas.0905252106

Hypersensitivity to contact inhibition provides a clue to cancer resistance of naked mole-rat ハダカデバネズミは細胞のコンタクト・インヒビション(接触阻害)がとても強いことでがんに対する抵抗性を得ている

Liu et al.


 ネズミの類はだいたい短命なものが多いのですが、このハダカデバネズミは28年以上というネズミ類としては破格の長命を誇っていることでも有名です。さらに、だいたいがんにかかりやすい種が多いネズミの類の中でこれまた破格にがんにかかりにくいことでも有名で、なんとがんというものが見つかったことがないというほどです。研究者たちが、ほかのネズミの細胞ならばあっさりとがんになってしまうような条件でがんウイルスを投与しても、細胞をがん化させることができなかったそうです。

 細胞のレベルでこんなにがんになりにくいのだったら、そこに何かがんにならない秘密があるだろうというところから、この研究が始まりました。

 細胞を試験管(実際はプラスチック皿)の中で培養すると、正常な細胞はガラスやプラスチックの表面に1層に拡がりながら動き回りますが、どんどん細胞の数が増えて他の細胞と接触すると動きがとまり、さらに細胞分裂も止まるという性質があり、これを接触阻害(コンタクト・インヒビション)といいます。細胞ががん化すると、この接触阻害の性質が失われ、他の細胞の上をどんどん歩き回ったり、どんどん増殖して何層にもなった細胞の固まりを作ります。この性質が体内ではがん腫を作ると考えられています。

 ハダカデバネズミの細胞は、試験管の中で他のネズミの細胞よりもずっと低密度のうちから接触阻害を示しますが、それががんになりにくいことと関係があるだろうと研究者たちは考えています。

 試験管の中における早期の接触阻害では、p53とpRbと呼ばれる遺伝子が働き、ヒトやマウスの細胞では、その働きによってp27Kip1という遺伝子が活性化されます。ハダカデバネズミではp27Kip1の代わりにp16lnk4aという遺伝子も働いていることがわかりました。さらにハダカデバネズミでは早期の接触阻害がp16lnk4aで、そしていわゆる接触阻害がp27Kip1でコントロールされていました。ここは、ヒトや他のネズミとはちがうところです。

 この結果から、もしもヒトでもp16lnk4a遺伝子を活性化することができれば、細胞ががんになることが阻止されるかもしれないという期待があるということのようです。

 遺伝子の話が出てこなければ、ハダカデバネズミの細胞はとても培養しにくくて増えにくいのでがん化しにくいというだけではないかという感じもしたのですが、役者が出てくれば結果の当否は世界中の科学者の追試を受けることができますので、単にがんになりにくい不思議な動物がいるという話から、一気に世界的ニュースになりました。

 素人が考えても、ハダカデバネズミでこのp16lnk4aの働きを抑えるとがんになりやすいかどうかをすぐに調べて欲しくなります。

 いずれにせよ、続編が楽しみな論文です。
by stochinai | 2009-10-27 22:55 | 生物学 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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