5号館を出て

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戸籍で性別を変更した人にひどい差別をする法務省

 今朝の新聞に、法務省が目を疑うような差別をしているという記事が出ていました。

 性別変えた夫の子、妻出産でも婚外子扱い 法務省見解 (朝日ドットコム)
 心と体の性別が一致しない性同一性障害との診断を受け、女性から男性に戸籍上の性別を変更した夫が、第三者の精子を使って妻との間に人工授精でもうけた子を、法務省は「嫡出子(ちゃくしゅつし)とは認めない」との見解を示した。
 法務省と言えば、「日本の最高頭脳」が集まると言われている某大法学部出身者の巣窟とも言われているところであり、当然頭の良い人がたくさんいると思われるのですが、この判断を見る限り「頭が悪すぎる」と言わざるを得ません。あちこちで、論理が破綻しまくっていると思います。

 今の日本には、性同一障害の人の基本的人権を守るために、2003年に成立し2004年から施行された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というものがあります。この法律によって、「性同一性障害者のうち特定の要件を満たす者につき、家庭裁判所の審判により、法令上の性別の取扱いと、戸籍上の性別記載を変更できる」ようになり、「昨年3月までに戸籍上の性別を変更した男女は1468人」いるそうです。

 戸籍の変更を認められたということは、たとえ変更されたものだとしても法律上の性別として日本におけるその性を持つ個人としてのあらゆる権利を認められなければならないはずですが、朝日の記事が書いているように今回、法務省が示した見解は、法に基づいて性別変更した人をなお『別扱い』にする」という、官制差別として断固として糾弾されるべきものだと思います。

 私は、個人的にも法務省を問い詰めたいあるいは担当者と議論したいと思っていますが、朝日が行ってくれた良い取材があります。
 嫡出子と認めない理由について、法務省は朝日新聞の取材に「特例法は生物学的な性まで変更するものではなく、生物学的な親子関係の形成まで想定していない」と文書で回答。出生届を出す窓口で、戸籍から元は女性だったとわかるため、「遺伝的な父子関係がないのは明らか」(民事1課)と説明している。
 変更した後まで変更前の性別を引きずって差別されるのであれば、なんのための戸籍変更かわかりません。法務省は法律の意味を理解していないのでしょうか、あるいは法律があっても「そんなの関係ない」と、法律よりも法務省の運用のほうが優位だとでもいいたいのでしょうか。

 法について強くもない私ですので、法解釈の議論をするつもりはありませんが、ここでは朝日の取材に法務省が答えた「遺伝的な父子関係がないのが明らかならば、法的な嫡出子として認めない」というところを問題にしてみたいと思います。

 法務省が、今までもこのことを時代時代の最高水準の科学的判定技術を援用して徹底してきており、かつこれからも例外なくそうするということならば、生物学者としては引き下がらざるを得ないところなのですが、残念ながらそれは現実とはかけ離れた「建前論」と言わざるを得ません。遺伝子解析が進んだ今日では、遺伝子をちょっと調べるだけで、遺伝的な父湖関係があるかどうかは簡単に明らかにすることが可能です。

 お暇なら調べていただければ良いと思うのですが、たとえ法的に結婚している妻が出産した子だとしても、法的な夫の精子によって妊娠したものではない例は数え切れないほどあるはずです。もちろん、そのことを夫だけが知らない場合には今でも法的に嫡出子であることを拒否することはできますが、夫も承知して行われた第3者からの精子提供による人工授精は、公認された医療行為として日本では何十年も前から行われています。

 されに最近では、法的に結婚した妻が産んだことが確認された子ですら、その子が夫以外の第3者に由来する精子ばかりではなく、妻以外の第3者に由来する卵(卵子)による妊娠すらも可能になっているのです。そして、これらすべての場合には夫の不同意がない限り、すべて「夫と妻の子」として認定されてしまっているという現実があります。こうした状況を踏まえると、前時代的な民法の既定「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(772条)自体が破綻ししていることを認めるべきだと思います。

 そもそも「嫡出子」などという概念が存在すること自体が大問題だと思いますが、せっかく性同一障害者の人権を守るために戸籍を変更することを認めたのであれば、戸籍変更前のすべての個人情報はなかったものとして扱うのが法の精神だと思います。

 私は、「生みの親より育ての親」こそが尊いという立場を取りますので、嫡出子などという遺伝的父子関係を重視する封建制度は一日も早くなくなって欲しいと思うのですが、様々な生殖補助医療技術の発達によって、そうした遺伝的親子関係が実生活の親子関係と一致しない例も増えている今は「遺伝的親子より一緒に生活する親子」をこそ大切にすべきだと思いますし、相続などの法律にしても遺伝的関係ではなく、どのくらい一緒に生活したかを重視するように変えるべきだと強く思います。

 それでもなお法務省は嫡出子制度を守るというのならば、全国民に対して遺伝子による親子鑑定を義務づけてみてほしいと思います。そこまでする気がないのであれば、戸籍変更によって性別を変更した男女についてだけ、簡単にわかるからという理由で普通の男女から差別することをすぐさまやめるべきです。
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(C) photoXpress 写真はイメージであり、本分とは関係ありません。
Commented at 2010-01-11 08:29 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ななし at 2010-01-11 17:58 x
区別と差別は違うし、戸籍を疎かにすると言うことは家族の繋がりも軽視すると言うことですから、なんでも個人の自由にと言うのは間違っているのではないでしょうか。特に過去の戸籍を完全に抹消する/出来るようにすると言うことは、社会的にも大きな問題だと思います。
Commented by 甘すぎ at 2010-01-11 19:45 x
社会的弱者やマイノリティの権利保護が遅れる典型例ですね。
法務省からしたら、法務省所管法律の中で法改正すべき内容のうちどれくらいプライオリティが高いのかどうかが透けて見えるようですね。
またブログ主が後段で指摘している戸籍制度の問題は社会に広く関係する問題であり、こうした問題と絡んでいることも法務省が動かない理由でしょう。
科学的事実が民法772条の破綻を指摘しても社会の合意?同意?があれば法律は存在し続けるわけで、そういう意味からはより大きな声をあげて法律改正のプライオリティを上げるしかない。
Commented by ぢゅにあ at 2010-01-12 06:51 x
戸籍を疎かにすると、家族の繋がりが軽視されたことになる、というのは疑問です。
戸籍は法的手続き以外の何も意味を持たないと思ってます。
Commented by stochinai at 2010-01-12 12:38
 私はななしさんとは大きく意見が違います。戸籍がないとおろそかになる家族のつながりなんて、最初からないのと同じ幻想です。また、今生きている人の存在証明ならまだしも、過去の戸籍なんてなんの役に立つのですか?
Commented by stochinai at 2010-01-13 08:56
「性同一性障害者の子」救済検討 千葉法相が指示
 千葉景子法相は12日、救済策の検討を省内に指示した
 「(生物学的な父子関係がなくても)認めているケースがあるのに、片方だけ駄目とするのは、差別というか無理がある。改善すべき点がある」
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010011201000877.html
by stochinai | 2010-01-10 23:45 | 医療・健康 | Comments(6)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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