5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

哺乳類の再生力は大人のほうが強い!?

 ヒトでもピアス用に耳たぶに開けた穴は、ピアスをしていないとだんだんとふさがるのだそうで、それを考えるとハツカネズミ(マウス)の耳に開けた穴がふさがるなどということで大騒ぎする生物学者って変な奴らだと思われるかもしれません。

 そもそもヒトやマウスが属する哺乳類では、あまり再生が起こらないということになっていて、たとえば指が無くなったら、普通は再生することはありません。しかし、MRLと呼ばれる自己免疫疾患を持つマウスの系統では、例外的に耳に開けた穴が速やかに再生してふさがることが知られていました。(尾も伸びるんでしたっけ?)

 自己免疫病と再生にどんな関係があるのか、あまり良くわかっていないようですが、実は耳に開けた穴がふさがるという「再生」は、MRLだけではなく普通のマウスでも起こることがわかったという論文が出ていました。。
哺乳類の再生力は大人のほうが強い!?_c0025115_1935994.jpg
 (C)photoXpress

 なぜ、他のマウスでは再生が起こらないと思われていたかというと、MRLと同じ若い年齢(1ヶ月とか2ヶ月齢)だと普通のマウスは再生力が弱いのですが、十分に年をとって半年齢くらいになると再生力が高まることも同時にわかり、なぜいままでMRLだけが例外とされていたのかも明らかにされたのです。
哺乳類の再生力は大人のほうが強い!?_c0025115_19142263.jpg
 上の折れ線グラフは月齢ごとの穴のふさがり方を%で表したもので、下の散布図は横軸にマウスの月齢を、縦軸に穴のふさがる度合いをプロットしたものです。

 これは非常に意外な事実です。もともと再生力の弱い哺乳類でも胎児や子どものうちにはある程度の再生力があると信じられていたからです。それで、今までの実験もできるだけ若いマウスを使ってやろうとしていた研究者が多かったことが、この事実を見逃す原因の一つになっていたことが推測されます。

 老化とともに再生力が上がるというわけではないことは、マウスが1歳くらいになるとまた再生力が落ちることからわかります。そこで著者らはいろいろな系統のマウスで成体の体重と再生力の関係を調べてみたところ、比較的良い相関を示すことがわかりました。
哺乳類の再生力は大人のほうが強い!?_c0025115_19194839.jpg
 驚いたことに、脅威の再生力を示すと言われていたMRLは体重が最も重い系統でもありました。確かにMRLは(Murphy Roths Large)という名前が示す巨大マウスだったのです。

 この論文が出たのは昨年の3月で、雑誌のタイトルがちょっと怪しいRejuvenation Research(「若返り研究」)というものだったので、ご紹介するのをためらう気持ちもあったのですが、著者の一人が Polly Matzinger という免疫反応というものは自己・非自己の認識によって起こるのではなく、身体が危険を察知して起こるというデンジャー・モデルを提唱したNIAIDにいる有名な人だということもわかったので、これは彼女の新しい挑戦なのかもしれないと思い、取り上げてみました。

Unexpected Regeneration in Middle-Aged Mice

Brandon Reines, Lily I. Cheng, Polly Matzinger. Rejuvenation Research. February 2009, 12(1): 45-52. doi:10.1089/rej.2008.0792. オープンアクセス

Published in Volume: 12 Issue 1: March 10, 2009
Online Ahead of Print: February 18, 2009


 もちろん、1年も前のこの論文が最近ニュースになったとかそういうことではなく、たまたま昨日私のiPodの奥に録音されていたNIHのポッドキャスト(2009年8月7日のものでした)を聞いてびっくりし、いろいろと調べてこの論文にたどりついたというわけです。

 ポッドキャストはこちらです。

NIH Research Radio
Episode #0090 — August 7, 2009
Time: 00:19:10 | Size: 17.9 MB


 このポッドキャストはすべてテキストになって提供されていますので、お読みになりたい方はこちらをどうぞ。

 もちろん、耳に開けた穴がふさがる「再生」と、指や腕がまた生えてくるという再生にはずいぶんと距離があることですが、論文の中にはヒトでも子供のときにおった大怪我は傷跡になって残りやすく、大人になってからの怪我のほうがむしろ傷跡は小さくなるというようなことも書いてありましたので、我々が持っていた「若いほど再生力も強い」という「常識」は、一度捨て去って謙虚に研究をしなければいけないと反省しているところです。

 我々の知っていることなんて、まだまだほんの少しだけなのあります。
Commented by I研OB at 2010-02-24 06:24 x
本当にそう思います。
人もマウスも再生できないとかいう観念さえ白紙状態で再考してもよいのかもしれません。
Commented by ぜのぱす at 2010-02-24 08:25 x
つまり、自己免疫疾患は、直接的には関係なさそうだと云うことで良いんですかね。 Nude mouseだと、どうなんでしょう?
Commented by stochinai at 2010-02-24 09:07
 MRLの遺伝子特性は関係ないということのようなので、「免疫と再生」という関係は意識しなくても良いということに思えました。
 ちょっとだけ気になっているのは、この論文が出てから1年くらい経つのに追試も反響も見あたらないところなのです。どなたか、ご存じの方がいらっしゃったら、ぜひとも教えていただきたいと思っています。
by stochinai | 2010-02-23 19:45 | 生物学 | Comments(3)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai