5号館を出て

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地震を予知したように思えるカエルの行動を記録した論文

 日本では昔から地震の前にはナマズが騒ぐなどと言われていますが、これほど地震の多い日本ですら、生物学者によって地震の前に動物が異常な行動をとると確認された例はきわめて少ないと思います。ましてや、きちんとした学術論文になったものなどは皆無ではないでしょうか。

 昨日のtwitterでお知らせしたように、イギリスのオープン・ユニバーシティのポスドクのRachel Grantさんが昨年イタリアでカエル(日本のガマと同じBufo bufo)の繁殖行動の観察をしていた時に、たまたま地震に遭遇し、その時に記録されたガマの不思議な行動が論文として発表され、欧米ではかなりの話題を呼んでいます。

 昨日はまだサイトに出ていなかったのですが、今日は見られるようになっていました。

Journal of Zoology
Early View (Articles online in advance of print)
Published Online: 31 Mar 2010

Predicting the unpredictable; evidence of pre-seismic anticipatory behaviour in the common toad (予測できないものを予測する: ガマが地震の前にそれを予測した行動をとった証拠)
R. A. Grant & T. Halliday


 彼女が昨年の4月、イタリアのあるところで、29日間にわたってガマガエルの繁殖行動を観察していた時、観察10日目にそこから74km離れたアキラ(あるいはラキラ L'Aquila)というところで大きな地震が起こったそうです。それにもかかわらず、彼女の観察した湖では地震の起こる5日前からカエルが異常と思える行動を取り始め、産卵行動を放棄したというのです。地震の後、しばらくたつと産卵行動が復活しました。また、これは単なる偶然かもしれませんが、カエルの異常行動が見られた時期が地震の前に観測された超長波の電磁波(very low frequency (VLF) radio sounding)によって検出された電離層の乱れの時期に一致するとも書いてありました。

 この推論はともかく、地震が起こる前からカエルの繁殖行動を観察していた生物学者が、明らかな異常として記録したカエルの行動記録は貴重だと思います。

 今までに報告された地震の前の動物の異常行動のほとんどは、地震の起こるほんの少し前に到達する微細なP波を感知して起こるものであり、それは「予知」ではなく地震そのものを「感知」したものに過ぎません。サカナやネズミ、オオカミ、ヘビが中国河北省の唐山で1976年の7月28日に起こったマグニチュード7.8の地震の2ヶ月くらい前からおかしな行動を示したとという報告もあるようですが、今までに報告のある動物の異常行動は震源地のごく近辺で地震の1日か2日まえに見られたものが多いそうです。

 イントロの最後に、日本を中心に研究されているという電離層の変化についての言及がありますが、これに関しては私はコメントできませんので、原文のまま引用しておきます。どなたかコメントをいただけると幸いです。
In recent years perturbations in the ionosphere have been linked with large EQs. Very low frequency (VLF) and low frequency (LF) electromagnetic signals can be used for detecting ionospheric perturbations caused by seismicity. Data from a LF transmitter in Japan showed statistically significant correlations between EQs with a magnitude of more than 5.5, and ionospheric perturbations identified using subionospheric VLF/LF propagation (Rozhnoi et al., 2004). Superimposed epoch analysis has established that the ionosphere is disturbed a few days to a week before EQs (M>6) (Maekawa et al., 2006).. Also it has been shown that shallow EQs disturb the ionosphere to a much greater extent than ones that are deeper (>30 km) (Kasahara et al., 2008). In this study, we recorded the activity of breeding amphibians before, during and after a strong shallow EQ. We compare this with perturbations in the ionosphere noticed before the EQ, detected by VLF sounding.
 というわけで、ガマの異常行動に絞って読んでいきます。

 地震は2009年4月6日01:32:39 GMT (03:32:39 現地時間の未明)に、イタリアのアブラッソというところにあるアキラ(あるいはラキラ L'Aquila)というところでおこったもので、マグニチュードは6.3で、震源の深さはわずかに8.8kmでした。彼女がカエルの観察をしていた湖は震源(震央)から74.29 kmも離れたところにあります。(図で震源の北の方にAと書いてある場所です。)
地震を予知したように思えるカエルの行動を記録した論文_c0025115_21341273.jpg
 地震の後、何回も余震が起こっているのですが、この論文では本震からマグニチュードが4.5以上の余震が続いた4月5日から4月13日までを「地震期間」としています。もっともマグニチュード4.3の本震の前触れとなる地震が3月30日にも起こっています。

 電磁波のデータはさておき、カエルの数の変化です。
地震を予知したように思えるカエルの行動を記録した論文_c0025115_2194352.jpg
 実線が繁殖地に集まったオスの数で、薄い線は最高と最低の温度です。Aポイントで本震がおき、Bポイントは満月です。明らかに本震の前にカエルが「消えてしまって」います。不思議なことに前触れ地震の起こった3月30日にはたくさんのカエルが見つかっています。

 また、実は去年の夏頃にここで書いたのですが、このガマの繁殖行動は満月にピークに達することがわかったという話もRachel Grant さんの研究によるものだったのですが、それはさておき本当ならばもっとも活発に産卵行動をする満月の夜でさえカエルがそれほど戻ってきていないところが不思議だと言います。温度や湿度の変化に関しては、カエルの数の増減とまったく対応していません(というか、それほど変化していません)。

 こちらは産卵中でオスがメスにしがみついたペアの数です。メスは全期間を通じてかなり少ないことがわかりますが、オスがほとんどいなくなった3月31日から4月2日にもペアができていることを考えると、その時に逃げ出さなかったオスはかなり高い確率でメスを獲得できたということになりますね(笑)。
地震を予知したように思えるカエルの行動を記録した論文_c0025115_21323686.jpg
 というわけで、電離層の乱れを示すデータが多くてちょっと興ざめだったのと、3月30日の地震をどう解釈するかというところに疑問も残りましたが、こういうデータをきちんと論文の形で残しておくことは後々に価値が出てくるという気がしました。

 それにしても、カエルの異常行動と電離層の乱れですか・・・。
Commented by 通りすがり at 2010-04-07 10:14 x
電離層の解析はRozhnoiらの仕事です。
http://www.nat-hazards-earth-syst-sci.net/9/1727/2009/nhess-9-1727-2009.html

参考:地震に伴うVLF/LF帯電波伝搬異常
http://seismo.ee.uec.ac.jp/eq/vlf/Research/VLFanomaly.html
Commented by stochinai at 2010-04-07 12:42
 情報ありがとうございました。難しいですが・・・(^^;)。
Commented by ふぁーまー at 2013-05-09 06:44 x
田圃の代掻きをしたのですがトノサマガエルの卵が今年は全くありません。40年以上代掻きをしていますが初めてで驚きです。
Commented by stochinai at 2013-05-09 12:17
 それはなんかイヤな感じですね。
by stochinai | 2010-04-01 21:41 | 生物学 | Comments(4)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai