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パブリックドメインという「気高さ」を科学にも

 カレントアウェアネス・ポータルに「『Europeanaパブリックドメイン憲章』が公表される」というニュースが出ていました。

 パブリックドメインという言葉を始めて聞いたのは、誰でもが自由に使えるコンピューターのプログラムがPDS(パブリックドメインソフトウェア)と呼ばれていた関係からだったと記憶しています。最初は、料金を払わなくてすむのでなんと太っ腹なプログラマーがいるのだろうかと思ったものですが、パブリックドメインのプログラムは自由に複製したり配布したりすることができるので、無料だということ以上に自由に改変することができるということが大きなメリットになると言われていたものです。

 ソースも公開されていることが多いパブリックドメインのプログラムは改変されることによってさらに良いものへとバージョンアップされる可能性があります。改変された新しいバージョンもパブリックドメインとして流通し、さらに誰かの手によって改変されるということを繰り返していくという、バケツリレー式の「共同作業」によりどんどんと優れたプログラムへと進化していったものも多く、UNIXから派生したパブリックドメインのOSであるLinuxおよびその上で走るたくさんのソフトウェアはそのようにして作られたもののはずです。

 もちろん人の善意という意味もありますが、人類共通の財産としてよりよいものを作り出していくという「文化」の発展にはこのパブリックドメインという考え方がとても重要に思えます。

 著作権というと、文学や絵画、音楽などのように個人の力によって作られたものを守るという意味合いが強かったはずで、こうしたものは他人の手によって改変されることによってより良いものになったりするという可能性は少ないものです。しかし、「知的所有権」とか「知的財産権」という言葉で表されるようなものへとその権利が拡大解釈されてきているのが最近の傾向だと思いますが、そういう権利を認めることによって、我々の持つ文化の発展が阻害されてしまうというようなことになるなら、角を矯めて牛を殺すということになってしまいます。

 そういう観点から、知的所有権を保護するとともに人類共通の財産としての文化を守るためにも、パブリックドメインという考え方はとても重要だと思います。デジタル化された文化遺産への自由なアクセスにより知識の発展等に寄与することを目的として運営されている Europeana Foundation が出した「Europeanaパブリックドメイン憲章」(Europeana Public Domain Charter)は、その精神を簡潔明快に表現してくれています。
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 もちろん英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語で書かれた憲章の全文がpdfファイルで配布されています。

 カレントアウェアネスが概訳しているものがあまりにも素晴らしいので、全文引用させていただきます。
■健全なパブリックドメインのための原則

1.著作権による保護は一時的なものであり、保護期間終了後は作品はパブリックドメインとなる。有史以来の知識の大部分はパブリックドメインであり、著作権による保護は時限的な例外措置である。

2.パブリックドメイン作品はパブリックドメインにあり続けなければならず、再生産などの際に、排他的権利を主張したり、利用に制限を課すことはできない。アナログでパブリックドメインであったものは、デジタル化されてもパブリックドメインである。

3.パブリックドメイン作品のデジタルコピーの正当な利用者は、自由に利用・複製・改変ができるべきである。

■パブリックドメインの機能を維持するためのガイドライン

1.著作権による保護の範囲のいかなる変更も、パブリックドメインに与える影響を考慮して行う必要がある。

2.著作権以外の知的財産権を用いて、パブリックドメイン作品に対する排他的権利を主張してはならない。
 主に個人の力で作られた芸術作品などは、その個人および直近の近親者の生活を守るために保護されるのは適切なことだと思いますが、こうしたものと比べると、最初から過去の成果があって初めて成立しうる科学研究によって得られた成果などは、得られた最初からパブリックドメインにならなければ恥ずかしいような気がしてきます。

 科学研究に大きなお金が投入されるようになってくればくるほど、その成果から利益を回収しようとしう圧力も大きくなるようで、昨今の「役に立つ科学」というかけ声は「お金を稼げる成果」と表裏一体のものに聞こえてきます。

 もちろん個人や個々の組織や国だけで可能となることではないと思いますが、まちがいなく過去の遺産の上に築かれつつあるすべての科学の成果はパブリックドメインになるべきだと信じます。
Commented by 22010030 at 2010-04-15 23:04 x
はじめまして。
細かい点で恐縮なのですが、LinuxのGPLは著作権の放棄や再頒布の自由、販売不可を規定してはいないのでパブリックドメインとはやや異なるものだと思います。
バケツリレー方式の共同開発が安定して行われているのもコピーレフトという制限のおかげだと思われます(勿論PDのオープンソース開発も盛んに行われてはいますが)。

科学研究・科学技術の知的財産権というと大きなところでは特許権でしょうか。
確かに特許権の「研究開発に対するインセンティブを与えつつかつその成果を公共化する」という機能が現状うまく働いているかどうかは検討する必要がありそうですね。
Commented by stochinai at 2010-04-16 10:01
 「LinuxのGPLは著作権の放棄や再頒布の自由、販売不可を規定してはいないのでパブリックドメインとはやや異なる」というご指摘は、その通りだとは思いますが、精神としては共通する部分があるということには同意いただけるかと思います。

 コメント、ありがとうございました。
by stochinai | 2010-04-15 17:49 | コミュニケーション | Comments(2)

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