2010年 05月 14日
専門書の間違いを発見してしまった
この本は出た時にというか出る前に予約して買ったものだと記憶しているのですが、私自身にとっては必要がなく学生のためにと思って買ったものなので、あまりまじめに中を見たことがありませんでした。すでに日本のアマゾンには在庫がなく、イギリスのAmazonでもなんと残りが1冊と貴重本になりつつあります。2003年出版のアフリカツメガエルの組織学図版集です。
Color Atlas of Xenopus laevis Histology
で、先ほどある方からメールをもらいました。
両生類の免疫やリンパ組織の研究者ならば知っていることなのですが、ヒトが風邪をひいたり、虫歯になった時に腫れる「リンパ節」というものは、両生類のカエル(無尾類)になって初めて進化してきたと考えられており、同じ両生類でもイモリやサンショウウオのような尾の長い有尾類にはありません。ところが、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)は無尾類なのですが、例外的にリンパ節がありません。
ところが、なんとこの本にはリンパ節(Lymph node)の組織が堂々と載っているのです。私にメールをくれた方はこれを見て、ツメガエルにはリンパ節はなかったはずじゃありませんか、というような疑問のメールをくれました。
研究室にはこの本があるのですが、上のような事情で私はまじめに目を通しておらず、メールをいただいてから見てみると、リンパ節というキャプションの入った写真があります。
しかし、残念ながらこれはリンパ節ではなく、成体になって退化中の胸腺なのです。私は大学院生の頃には、アフリカツメガエルの胸腺の発生を研究していましたので、これはひと目見てわかりました。しかし、いくら口で言っても写真に対抗するのは難しいので写真がないかと思って探したのですが、スライド以外はなかなか見つかりません。万事休すかというところで、なんと修士論文を見つけました。博士論文ならば、国会図書館にもありますし、北大の機関リポジトリHUSCAPでも公開されているのですが、残念ながらその中には良い写真はありませんが、修士論文の中にはなんとか使える写真がありましたので、ここに転載しておきたいと思います。
世界初公開の私が作って撮影した、アフリカツメガエル成体の胸腺の組織切片写真です。
上の本をお持ちの方は、この写真と見比べてください。本に掲載された「リンパ節」と間違って記載されている胸腺は、これよりは退化の度合いが激しいですが胸腺の髄質にあるさまざまな構造物などがそっくりだということに納得いただけると思います。
何十年ぶりに見た修士論文ですが、当時の写真は自分で現像し、文字や矢印などはレトラセットという会社の転写シールでゴシゴシと貼り付けてあるものです。写真の現像や製版などは、今となってはなんの役にも立たない技術ですが、当時はその技術がないと投稿論文用の図版も作れなかったのですから、研究者は必死にそうした技術を学んだものです。
それにしても、当時の生化学や黎明期の分子生物学的技術など、今ではまったく使い物になりませんが、組織学だけは不滅だということを実感できます。
それが、私の財産かもしれません。
Color Atlas of Xenopus laevis Histology
両生類の免疫やリンパ組織の研究者ならば知っていることなのですが、ヒトが風邪をひいたり、虫歯になった時に腫れる「リンパ節」というものは、両生類のカエル(無尾類)になって初めて進化してきたと考えられており、同じ両生類でもイモリやサンショウウオのような尾の長い有尾類にはありません。ところが、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)は無尾類なのですが、例外的にリンパ節がありません。
ところが、なんとこの本にはリンパ節(Lymph node)の組織が堂々と載っているのです。私にメールをくれた方はこれを見て、ツメガエルにはリンパ節はなかったはずじゃありませんか、というような疑問のメールをくれました。
研究室にはこの本があるのですが、上のような事情で私はまじめに目を通しておらず、メールをいただいてから見てみると、リンパ節というキャプションの入った写真があります。
しかし、残念ながらこれはリンパ節ではなく、成体になって退化中の胸腺なのです。私は大学院生の頃には、アフリカツメガエルの胸腺の発生を研究していましたので、これはひと目見てわかりました。しかし、いくら口で言っても写真に対抗するのは難しいので写真がないかと思って探したのですが、スライド以外はなかなか見つかりません。万事休すかというところで、なんと修士論文を見つけました。博士論文ならば、国会図書館にもありますし、北大の機関リポジトリHUSCAPでも公開されているのですが、残念ながらその中には良い写真はありませんが、修士論文の中にはなんとか使える写真がありましたので、ここに転載しておきたいと思います。
世界初公開の私が作って撮影した、アフリカツメガエル成体の胸腺の組織切片写真です。
何十年ぶりに見た修士論文ですが、当時の写真は自分で現像し、文字や矢印などはレトラセットという会社の転写シールでゴシゴシと貼り付けてあるものです。写真の現像や製版などは、今となってはなんの役にも立たない技術ですが、当時はその技術がないと投稿論文用の図版も作れなかったのですから、研究者は必死にそうした技術を学んだものです。
それにしても、当時の生化学や黎明期の分子生物学的技術など、今ではまったく使い物になりませんが、組織学だけは不滅だということを実感できます。
それが、私の財産かもしれません。
Commented
by
123
at 2010-05-15 12:03
x
せっかくですので、略字を教えて頂けないでしょうか?
F (fat), BV (blood vessel), C (cortex), M (medulla), T (?), CA (central artery?), E (epithel?), MY (?), ME (?), CY (?), V (?), BA (?), EO (?), 8a-cは何かの分裂像ですか?
F (fat), BV (blood vessel), C (cortex), M (medulla), T (?), CA (central artery?), E (epithel?), MY (?), ME (?), CY (?), V (?), BA (?), EO (?), 8a-cは何かの分裂像ですか?
0
Commented
by
stochinai at 2010-05-15 15:09
興味を持っていただき、ありがとうございます。胸腺の中には不思議な細胞がたくさんあることが知られており、「自己に対する寛容性の成立」に関係があるのかもしれないとも言われています。
略字はかなり正確にご指摘いただいていますが、修論に書かれている通り転記します。
F (fatty tissue)
BV (blood vessel)
C (cortex)
M (medulla)
T (trabecular invasion)
CA (capsule)
E (epithelial cell) 胸腺は上皮性組織にリンパ球が侵入してできる
MY (myoid cell)単細胞性の横紋筋細胞
ME (melanophore)
CY (cell possessing cystic space)
V (intra- or inter-cellular vacules)
BA (cell possessing basophilic granules)
EO (cell possessing eosinophilic granules)
他はすべてヘマトキシリン・エオシン染色なのですが、8a-cはPAS染色して多糖類を検出しています。顆粒や分泌物が染まっています。
略字はかなり正確にご指摘いただいていますが、修論に書かれている通り転記します。
F (fatty tissue)
BV (blood vessel)
C (cortex)
M (medulla)
T (trabecular invasion)
CA (capsule)
E (epithelial cell) 胸腺は上皮性組織にリンパ球が侵入してできる
MY (myoid cell)単細胞性の横紋筋細胞
ME (melanophore)
CY (cell possessing cystic space)
V (intra- or inter-cellular vacules)
BA (cell possessing basophilic granules)
EO (cell possessing eosinophilic granules)
他はすべてヘマトキシリン・エオシン染色なのですが、8a-cはPAS染色して多糖類を検出しています。顆粒や分泌物が染まっています。
by stochinai
| 2010-05-14 21:19
| 生物学
|
Comments(2)