2010年 06月 23日
発生生物学会を終えて:若手研究者の望み
3日半にわたった日本発生生物学会年会(アジア・パシフィック・ネットワークとジョイント)が終わりました。基本的にすべてが英語で行われた大会ですが、発表する方も聞く方もそれほど違和感なく英語のミーティングを淡々とこなしているように見えました。ただ、若い研究者が多くの発表者になっていたポスターセッションでは、発表する側と聞く側が日本人同士の場合には、こちらも迷うことなく日本語で行われていました。オーストラリアやインドなどの英語がネイティブの参加者も多かったのですが、それ以外の東アジアの方々と我々日本人が共通言語としておたがいにつたない英語でやりとりをしているのも、ほほえましい光景でありますし、意外なほどスムーズに意見交換ができることを体験した人も多かったことだと思います。
今回は外国からの参加者がかなり多かったのですが、ある程度の数外国の方がおられると日本人同士でも英語でやりとりするのにそれほどのためらいがなくなるような気もしました。今後も発生生物学会は英語で通すということになっておりますので、毎回できるだけたくさん外国からのお客さんを引きつけることと、若い人が気楽に英語で発表できる雰囲気ややり方を工夫していく必要があるのだと思いました。
これは昨日撮った、会議場の庭の池でひなたぼっこするカメ(巨大化したミドリガメ=ミシシッピ・アカミミガメ)です。このカメはアメリカからわたってきたものですが、今や日本のカメと言ってもよいくらいに日本の環境になじんでしまっています。このカメは嫌われていますが、会議における英語もこのカメと同じくらいに日本の中に溶け込むのには何年くらいかかるでしょうか。
今回も発表された研究の多くがポスドクや大学院生によって行われたものでした。逆境におかれた彼らが、素晴らしい研究成果を出し続けていることに敬意を感じるとともに、彼らの未来を思って複雑な気持ちになったことも事実です。
昨日の学会総会の席で、数年前に組織されたポスドク問題を検討するワーキンググループが、これ以上活動を続けても意味のある成果が得られそうもないということで、とりあえずの活動休止宣言をしたという報告がありました。精力的に調査や提言構想の策定を行っていたようなのですが、同じような調査はいろいろなところで行われており、得られた結果も大同小異で特に新しいことも出てこず、提言にしても考えても考えてもいままでに様々な人や組織によって出されているものと類似のものにならざるを得ず、また提言を出したとしても実現される可能性がほとんど期待できないということには、その通りだろうと納得してしまいました。さらには、こうした活動をしているワーキング・グループのポスドクの方々も自分たちの明日を考えるという現実に追い立てられており、活動を続けることが彼らの将来にプラスになるとは思えないということも活動休止の要因だったようです。
まったく胸の痛む報告ですが、そのくらい事態は閉塞状況にあるのだと思います。
渦中にいるポスドクや時限雇用の助教・テニュアトラックの方々も、この先、事態が劇的に好転すると思っている人は皆無のようです。つまり、職を求めている全員が希望する研究職になれないということは覚悟しているのです。しかし逆に、それを納得するために必要な重大なポイントがあります。
それは、公平な人事です。
人事が公平であることを彼らに納得してもらうためには、誰がどのような経緯で採用されたのかという人事プロセスの透明化・公開が必要なのではないかと、私には思えています。
旧来、人事はプライバシーの尊重などを盾に秘密主義で行われてきているケースがほとんどだと思いますが、そのことが採用された人以外の人(応募した人もしなかった人も)に疑念を持たせてしまう理由のひとつにもなっているように思われます。公募して採用するという人事を行っているのであれば、応募人数だけではなく、候補者が採用されるに至った経緯を公開しても問題ないのではないでしょうか。また、そのことによって採用されなかった応募者がなぜ自分は採用されなかったのか、また採用された人が自分よりもどういったポイントが評価されたのかということがわかると、結果にも納得しやすいのではないでしょうか。
一人でも多くのポスドクや時限付き雇用の研究員がパーマネントの研究員になれることが理想ですが、それが絶対的に不可能なくらい研究者志望の予備軍を生み出してしまった国が責任を持って彼らを納得させることは義務だと思うのですが、どうでしょうか。
今回は外国からの参加者がかなり多かったのですが、ある程度の数外国の方がおられると日本人同士でも英語でやりとりするのにそれほどのためらいがなくなるような気もしました。今後も発生生物学会は英語で通すということになっておりますので、毎回できるだけたくさん外国からのお客さんを引きつけることと、若い人が気楽に英語で発表できる雰囲気ややり方を工夫していく必要があるのだと思いました。
今回も発表された研究の多くがポスドクや大学院生によって行われたものでした。逆境におかれた彼らが、素晴らしい研究成果を出し続けていることに敬意を感じるとともに、彼らの未来を思って複雑な気持ちになったことも事実です。
昨日の学会総会の席で、数年前に組織されたポスドク問題を検討するワーキンググループが、これ以上活動を続けても意味のある成果が得られそうもないということで、とりあえずの活動休止宣言をしたという報告がありました。精力的に調査や提言構想の策定を行っていたようなのですが、同じような調査はいろいろなところで行われており、得られた結果も大同小異で特に新しいことも出てこず、提言にしても考えても考えてもいままでに様々な人や組織によって出されているものと類似のものにならざるを得ず、また提言を出したとしても実現される可能性がほとんど期待できないということには、その通りだろうと納得してしまいました。さらには、こうした活動をしているワーキング・グループのポスドクの方々も自分たちの明日を考えるという現実に追い立てられており、活動を続けることが彼らの将来にプラスになるとは思えないということも活動休止の要因だったようです。
まったく胸の痛む報告ですが、そのくらい事態は閉塞状況にあるのだと思います。
渦中にいるポスドクや時限雇用の助教・テニュアトラックの方々も、この先、事態が劇的に好転すると思っている人は皆無のようです。つまり、職を求めている全員が希望する研究職になれないということは覚悟しているのです。しかし逆に、それを納得するために必要な重大なポイントがあります。
それは、公平な人事です。
人事が公平であることを彼らに納得してもらうためには、誰がどのような経緯で採用されたのかという人事プロセスの透明化・公開が必要なのではないかと、私には思えています。
旧来、人事はプライバシーの尊重などを盾に秘密主義で行われてきているケースがほとんどだと思いますが、そのことが採用された人以外の人(応募した人もしなかった人も)に疑念を持たせてしまう理由のひとつにもなっているように思われます。公募して採用するという人事を行っているのであれば、応募人数だけではなく、候補者が採用されるに至った経緯を公開しても問題ないのではないでしょうか。また、そのことによって採用されなかった応募者がなぜ自分は採用されなかったのか、また採用された人が自分よりもどういったポイントが評価されたのかということがわかると、結果にも納得しやすいのではないでしょうか。
一人でも多くのポスドクや時限付き雇用の研究員がパーマネントの研究員になれることが理想ですが、それが絶対的に不可能なくらい研究者志望の予備軍を生み出してしまった国が責任を持って彼らを納得させることは義務だと思うのですが、どうでしょうか。
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alchemist
at 2010-06-24 17:49
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そのためには、ヒトを認める(あるいは誉める)社会になる必要があるでしょうね。どこそこの大学の教授選考で最終選考まで残った偉い奴という評価になれば、公表しても害が無くなるでしょう。でも、内容と関係なく、あいつはあそこでも落ちたし、ここでも落ちたし、ウンヌンカンヌン・・・というネガテイブキャンペーンが有効な社会だと公開することにちょっと脅えます。日本ってどっちなんでしょう??
10年余り前は、間違いなく後者の世界でした。今、個人としては前者の世界に変わっていると言いたい部分はありますが、普遍化できる自信はありません。
10年余り前は、間違いなく後者の世界でした。今、個人としては前者の世界に変わっていると言いたい部分はありますが、普遍化できる自信はありません。
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stochinai at 2010-06-24 18:21
もちろん公開といっても、不採用になった方の名前が表に出るというようなことは避けるべきだと思います。少なくとも私が見聞きした範囲では、応募なさった方の「あの人事の基準は何なの?」という感想が多いことを憂いています。
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alchemist
at 2010-06-25 11:08
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何で?と思ってた被害者の立場から、何で?と思わせる加害者の立場に変わってかなりになりますが、非公式であればかなりな部分については説明可能です。最終選考に選ぶ過程も、その後、選挙する過程もかなり気を遣っています。最終選考で甲乙つけがたい場合は、その時の流れ(ご本人のプレゼンテーションを聞いてどう感じたか)になってしまいますが。
まあ、理学部のように百倍を超える応募者があるケースとは違いますけれど。
まあ、理学部のように百倍を超える応募者があるケースとは違いますけれど。
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stochinai at 2010-06-25 14:37
問い合わせがあれば、お答えするということであれば、あまり不満はひろがらないと思いますが、人事に関しては問い合わせても一切返答しないというケースも多いと聞きます。そして、業界全体に「噂」が拡がっていくというようなこともままあるようで、そうした現状が悪いスパイラルを生むことを憂慮している次第です。
100倍を越える応募があっても、最初の段階で10分の1くらいにふるい分けられる時にはかなり「機械的」な基準が適用されるでしょうから、基準を公開することは難しくないと思いますし、最後の段階でも「勝ち残った人」が他の人と比べてどのように優れていたのかとういことくらいは公開することは可能ではないかと感じています。
ただ、先日もある方に言われたのですが、大学の人事に口を出すと反発以外の何ものも出てこないということもあるらしいので、この提案は受け入れられそうもないと思っております(苦笑)。
100倍を越える応募があっても、最初の段階で10分の1くらいにふるい分けられる時にはかなり「機械的」な基準が適用されるでしょうから、基準を公開することは難しくないと思いますし、最後の段階でも「勝ち残った人」が他の人と比べてどのように優れていたのかとういことくらいは公開することは可能ではないかと感じています。
ただ、先日もある方に言われたのですが、大学の人事に口を出すと反発以外の何ものも出てこないということもあるらしいので、この提案は受け入れられそうもないと思っております(苦笑)。
by stochinai
| 2010-06-23 23:45
| ポスドク・博士
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Comments(4)