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誰に向けた「国立大学法人32大学理学部長会議 緊急声明」

 本日、本学の理学研究院長から構成員にメールが届きました。
理学部・理学研究院の教員の皆様

7月10日に出されました国立大学法人32大学理学部長会議緊急声明:

 ”人財”養成と学術研究の中心である大学への支出は我が国の繁栄を実現するために必須

をお届けします。

この声明は追って、理学研究院ホームページにも掲載を予定しています。

山口佳三@理学研究院長
 添付されていたファイルは、東京大学大学院理学系研究科・理学部のホームページに出ているものとまったく同じものですので、そちらをお読みください。(画像を、クリックすると拡大されて、どうにか読めます。)
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 法人化以降、全国の国立大学で毎年運営費交付金が削減され続けてきた結果、すでに総額が830億円減額されてきたこと、さらに平成23年度から25年度の3年間、毎年8%ずつ削減され国立大学法人全体で927億円の減額となる可能性があると閣議決定されたことに対する国立大学法人32大学理学部長会議の共同声明です。

 これとまったく同じような声明をはるか前に見たような記憶があります。国立大学理学部長会議声明(平成11年11月10日)です。
危うし!日本の基礎科学
 - 国立大学の独立行政法人化の行方を憂う -
                  国立大学理学部長会議
 最後のところに、このような文章があります。
 大学における教育・研究活動は次の時代における発展をもたらす源泉である以上,それを涸らしてしまうような制度改革と大幅な定員削減は断じて避けるべきです.国立大学の設置形態及び適正な規模に関する論議は,国の行財政の効率化という観点のみからではなく,国家百年の計を策定する長期的な視野に立って行うべきであり,決断は論議を尽くした後になされるべきです.私達は,基礎科学の発展は今後の日本にとって絶対に必要であると信じ,そのためにもっとも理にかなった国の方針を国民各位とともに探ってゆきたいと考えています.私達のこの訴えに対して,国民各位のご支援を賜れば幸いです.
 この時は、自民党政権下であり、政権に向けて何を言ってもどうせ拒絶されるに違いないという雰囲気だったからでしょうか。国民の皆さまに向けた声明になっています。しかし、この声を聞いた「国民」は何人いらっしゃったでしょうか。この文章を読んだ人は何人いたでしょうか。おそらく、事実上皆無だったと思います。声明を出せば国民に届くと思うこと自体が恐るべき鈍感さではありますが、文章の内容および表現方法さらには国民の皆さんに届ける方法のどれ一つをとってもコミュニケーションが成立するとは思えない代物でした。

 その結果、抵抗など何もなかったかのように国立大学は粛々と法人化されました。

 そして11年後、また同じような状況の下で、同じようなことが繰り返されているように思えます。ただし、今回の声明の最後はちょっと違います。
我が国は「科学技術創造立国」を標榜しております。多くの事例を出すまでもなく、理学部が主に担っている基礎科学は、数十年後、数百年後の我が国の繁栄を、いや地球規模の課題に直面する人類の繁栄を支える基盤なのです。大学運営費交付金のこれ以上削減をすることは、正しい判断とは考えられません。国立大学法人32大学理学部長会議は、政策決定者の冷静で賢明なる判断をここに求めます。
 今度は国民への呼びかけにはなっていません。「政策決定者」つまり民主党政権に向けたものになっています。

 文章の内容は前回と同じく、「普通の国民」には理解や共感を得るにはどうだろうかというものであることはまったく変わっていませんが、国民への呼びかけではなく政府への抗議文ということならば、文章の内容や表現方法はこれで良いのかもしれません。しかし、政府はたかだか32の国立大学法人理学部長会議の決定などに聞く耳をもつでしょうか。多分、無視されることになるでしょう。

 誰が考えても無視されることが見え見えであるにもかかわらず、一片の声明を政府に提出し、コピーを大学のホームページに貼り付けておくだけしかしないとすれば、国民にも大学の危機感はその程度かと見透かされてしまうでしょう。

 政治家でもない市民が政府を動かそうと思ったら、大衆的盛り上がりを持った運動が必要だということは、民主主義の基本中の基本だと思います。

 戦後60年間、自民党政権下で市民として直接行動することは悪であるかのような教育が行われた結果、我々は民主主義を実践する方法を知らないということだという気もします。小学校の頃から、たとえ他人とは違っていても自分の主張を強く押し出すとイジメにあうということも良く聞く話です。

 理学部長会議の声明を見ていると、50歳台60歳台の成人でもその多くが「民主主義の方法」を知らないと感じてしまいます。

 今の民主党政権は、市民が自分の意見を通すために政治運動することを奨励する民主主義教育をしてくれているでしょうか。もし、それを今始めたとして、そういう政権が50年続いたとしても、日本に民主主義が定着するまでにあと半世紀かかることになります。

 もはや、我々は出口の見えないところにまで追い込まれているような気もします。
Commented by wky at 2010-07-13 12:45 x
不思議な声明だな、と思いました。なぜ「理学長会議」が投票前の7/10にこのような声明を出す必要があったのでしょうか?というより、こんな組織があったんですね。恥ずかしながら知りませんでした。それにしても「学部学生の授業料で年間23万円上昇」で煽る、のはちょっと安易な論法だな、と思ってしまいます。元々もっと授業料の高い、私学のことなどは頭の中にはないのでしょうか。
Commented by ななし at 2010-07-14 00:28 x
おそらく皆が違和感を感じるのは、大学運営金を減らすなと、科学の重要性の見地から発言している部分だと思います。

そもそも、大学に運営交付金の請求権はないです。一方、授業や教育に対価を求める権利はあります。ここでは、授業料を上げるという方が健全だと思います。これで、どうしても大学教育を受けたいと言う、国民の声が高まれば、国が大学進学を補助するような動きもあるかと思います。

また、基礎科学の重要性にも言及していますが、大学に一番に求められるのは人材育成で、研究成果は二の次です。研究成果をあげますからお金をくださいでは、今の競争的資金のように、政府のやりたい研究、すぐに成果の上がること、となってしまいますし、大学だけが研究する場所でもありません。

むしろ、大学が有言実行しなくてはならないのは、優れた人材の輩出です。これが社会で(むろん大学でも)活躍すれば、まさに「人類の繁栄を生み出す基盤」となるでしょう。大学は知を生み出す仕組みを教えるところであり、これを主張してほしいと思います。
Commented by stochinai at 2010-07-14 11:42
 いずれにせよ、市民からの強力なサポートなしに政府や文科省の意向はあっさり貫徹されるのが今の日本の大学です。

 学内からすら支持がないことに関しては、こちらをご覧ください。

twitter: 大学を苦境に追いこむ、自ら作った身分制度-水月昭道 「大学側の危機感は、政府にも国民にもあまり伝わらない」「若手の研究者や教育者・・内部の声とどう付き合っていくのかを表明することが、(大学の)苦境打開には、遠いように見えて実は近道」 blog http://ow.ly/2b4fN
by stochinai | 2010-07-12 20:51 | 大学・高等教育 | Comments(3)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai