5号館を出て

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見事な営業

 ついに、あの本がミリオンセラーになったそうです。
J-CASTニュース「水嶋ヒロ「KAGEROU」発行100万部

 俳優の水嶋ヒロさんが齋藤智裕の名義で書いた小説「KAGEROU」(ポプラ社)が2010年12月30日、オリコンの週間ランキング(2011年1月3日付)の本部門で前週に続く首位を獲得した。推定累積売り上げ部数は54万8853部だという。なお、同小説の累計発行部数は12月28日、発売からわずか2週間ほどで大台の100万部に到達している。
 噂によると、この本は一般書籍のように返本できるタイプではなく、各書店が買い上げるというシステムなのだそうで、要するにポプラ社から出た時点で「売れた」ということが確定され、現時点でまだ55万部くらいしか読者が買っていないとしても、ほぼ100万部の売り上げがポプラ社にはいり、その分の印税が著者に入ると言ってよさそうです。
見事な営業_c0025115_2333055.jpg

KAGEROU

 見事な営業を見せていただいたというのが正直な感想です。

 税抜き1400円の本だと印税が一割だとすれば、140円の100万部で1億4千万円。ポプラ社の利益も10億円のレベルに達するのではないでしょうか。

 「第5回ポプラ社小説大賞」の賞金2000万円も、著者は辞退したので結局は「見せ金」程度にしか登場しなかったものの、たとえその2000万円が宣伝費だったとしても十二分に回収できました。またそれに付随して、「出来レース」や「持ちかけ応募」さらには、「ゴーストライター疑惑」など、次から次へと問題視報道が出れば出るほど、結果的にはあらゆる報道が小説の宣伝になってしまうという効果を生み、小説が発売されることになった時点では、社会的認知度はほぼ沸点に達していたと言えそうです。どういうふうに計算していいのかわかりませんが、日本のマスコミが総力を挙げてこの本の宣伝をしていたと考えると、その宣伝効果はおそらく数億円に及ぶことが想像され、その結果としてこのくらいの売れ行きになるというのは、費用対効果としてはある意味妥当なものなのかもしれません。

 しかし、その費用のほとんどを出版社が出していないというところが、今回の件が後世に語り継がれるようなすごい「営業」だったと感じます。

 私は現物を手にとってすらいないので、内容についてコメントできる立場にはありませんが、すでに読んだ方の感想をいろいろと見せていただくと、内容のすばらしさでこの先どんどんと読者が増えていくということはあまり期待できなさそうです。しかし、逆に1470円を払って購入したことで本気になって腹を立てて、詐欺罪で訴えるというような声も聞きません。

 つまり、そういう意味でも今回の出版は営業的に大成功だったと思われるのです。

 10数億円という金をだまし取ったとしたら、立派な犯罪になってしまうと思いますが、一人一人からはわずか1470円しか徴収しておらず、しかもその見返りになにはともあれ「話題の一品」を手に入れた購読者は、その旬の品物を所持したことである意味十分に満足している可能性があります。そうだとすると、詐欺どころか顧客を満足させた優秀な品物だったという可能性もあります。

 そう考えてみると、今回の「騒動」は現代社会の中で起こったきわめて順当なエピソードにすぎず、今後は同じような手はそうそう使えないとしても、たとえ見た目は「小説」というものを売るという形を取っていても、今回売れたのは「話題」であり、現時点ではその「話題」の値段として十分に釣り合うと購買者が判断した結果として売れていると考えると、非常に納得がいきます。

 ただし、この件で出版社と著者はいろいろなものを失ったことも事実でしょうから、彼らの将来ということを考えると、この短期的「成功」が「後悔」へとつながる可能性は高いと思います。一方、1470円を支払った読者は、そこそこの満足を得ただけで傷つくことはありませんので、今回の営業は「自爆テロ」的ではありましたが、まあ笑って許せるたぐいのものだったような気がします。

 ただ、半年もするとこの本はブックオフで105円でも売れないということになると確信しますが・・・。
Commented by うんこさん at 2010-12-31 01:10 x
今までの本の返本率とちがい、売れれば書店のもうけが大きく、返本すると今までより損するとかだったと思う
Commented by stochinai at 2010-12-31 09:54
 ということは、書店が困ったら大幅値引きで売りに出るという可能性もありますね。
Commented by winter-cosmos at 2010-12-31 10:57 x
こんにちは。

他の方の記事ですが。
http://d.hatena.ne.jp/bookseller56/20101116

私は、この本を図書館が何冊購入するか気になってます。
今のところ蔵書が3冊で、予約が750件入ってます。
作品としての価値はわかりませんが、「資料」としては確保する必要がありますものね。(^^;
Commented by stochinai at 2010-12-31 17:08
 上記ブログで詳しいことがわかりました。すでに、この業界はかなり複雑怪奇がまかり通っているという感じですね。電子書籍が云々よりもこの販売制度に問題があるという気がしてきました。

 今年一年ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
by stochinai | 2010-12-30 23:46 | つぶやき | Comments(4)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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