5号館を出て

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現生人類が進化する前に起こっていた新生児の巨大化

 ヒトとサルを区別する大きな特徴のひとつが、大きな赤ちゃん(新生児)だと言われています。最近の日本人だと3キログラムくらいの赤ちゃんを産むケースが多いと思いますが、お母さんの体重が50キログラムにだったとすると、新生児の重さはだいたい母親の6%となります。チンパンジーではこれが3%くらいということで、ヒトとサルの特徴の違いだと言われています。

 ヒトとチンパンジーが種分化したのは500万年から700万年くらい前と言われています。この時には小さな赤ちゃんを産んでいたようですが、そこからヒト特有の大きな赤ちゃんを産むように進化したポイントがあまりはっきりしていませんでした。もちろん現生人類が属するホモ属が出現した時にはもう大きな赤ちゃんを産むようになっていたと考えられています。

 今朝、PHYSORG.comで「Human evolution and big babies」という短いニュースを読んだ時には、寝ぼけていたのか「ヒトの先祖が大きな赤ちゃんを産んでいた」という文章から、その後生まれる赤ちゃんがだんだんと小さくなってきたものと早とちりしてしまい、最初のtweetに対して訂正を出す羽目になりました(汗)。
  • 16:50  訂正します。逆でした。RT @5goukan: 正しくは、オーストラロピテクスはチンパンジー(3%)よりは現生人(5%)に近い母子体重比の大きな赤ちゃんを産んでいた。アルディピテクス出現の後でこの進化が起こったらしい。詳しくはPNAS論文で。 http://ow.ly/3yo1J

  • 09:47  PNAS論文 ヒトの祖先オーストラロピテクスは今のヒト(3%)よりはサル(5%)に近い母子体重比の大きな赤ちゃんを産んでいた。 In Brief: Human evolution and big babies http://ow.ly/3yo1J

 PHYSORG.comはこちらです。

In Brief: Human evolution and big babies

 ここにもちゃんと書いてあります。

human infants weigh approximately 6% of the mother's body mass, while chimpanzee neonates weigh closer to 3% of the mother's mass.

 原典であるPNASのオンライン早版では、タイトルを読むだけできちんとわかります。

A shift toward birthing relatively large infants early in human evolution(比較的大きな赤ちゃんを産むという変化は、ヒトの進化の早い段階で起こった)
Published online before print January 3, 2011, doi: 10.1073/pnas.1003865108 PNAS January 3, 2011


 要旨だけはどなたでも読めるはずですが、ニュースを流した責任上(?)、本文も読んでみました。

 最近の論文の特徴である補足資料もたくさんあるので、図と表を見るだけでもだいたいのところはわかります。まずはこのFig.S1をごらんください。胎児と母親の体重相関図です。
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 縦軸が胎児の体重、横軸が母親の体重です。それぞれを対数でプロットすると、比率が一定の場合には直線に乗ります。

 黒丸はオナガザル類、白丸はヒト科のチンパンジーやゴリラを指しますが、比率は変わらないことがわかります。灰色の菱形が我々現生人類で、あきらかに子どもが大きくなっており、サル類と平行な新しい直線が引けます。で、問題のオーストラロピテクス(アウストラロピテクス)はそのほとんどが現生人類に近いところにプロットされたというわけです。

 化石人類の重さを直接測定することはできませんので、特定の骨の大きさを比較して推測しています。その中の一つがこれで、大腿骨のある部分の幅で子どもの大きさの三乗根で割ったもののようです。
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 もちろん化石データは数が少ないのですが、もっとも古いアルディピテクスはチンパンジーと同じかそれよりも小さいくらいである一方、オーストラロピテクスは明らかにチンパンジーよりも大きな子どもを産んでいたということが推測されました。

 そういう測定結果をすべてまとめたこの図がわかりやすいと思います。新生児と母親の体重比率(%)です。
c0025115_19383115.jpg
 一番上の現生人類と化石ホモ属(灰色カラム7本)、続いてパラントロプスが2本、オーストラロピテクスが2本とここまですべてがほぼ6%の値になっていますが、それよりも原始的と考えられているアルディピテクスはチンパンジーやゴリラと同じ約3%の値を示しています。

 ということは、アルディピテクスからオーストラロピテクスへの進化の過程で新生児が大きくなるという特徴が獲得されたということになります。

 ここから先は「物語」になってしまうのですが、大きな赤ちゃんを産むためにはもはや樹上生活は無理なので、オーストラロピテクスは完全な地上生活者だったであろうとか、オーストラロピテクスの脳はまだそれほど大きくなくチンパンジーなみなので、そのことと赤ちゃんの肥大化とは関係がないだろうとか、いろいろと推測ができるわけです。

 そう考えると逆に、アルディピテクスは二足歩行ができる骨格は持っていたものの、ひょっとするとまだ樹上生活もかなりしていたのかもしれないなどと(論文には書いてありませんが)、想像をたくましくすることもでき、なかなかおもしろい論文だと思いました。

 それに、PNAS論文なのにJeremy M. DeSilvaさん単著というのもなかなかすごいです。
 
 最後に、ウィキペディアからオーストラロピテクスの頭骨の写真をお借りして貼り付けておきます。
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Commented by ヨシダヒロコ at 2011-01-06 12:18 x
5goukanさま、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
Commented by stochinai at 2011-01-06 15:01
 こちらこそ、よろしくお願いします。
by stochinai | 2011-01-05 19:56 | 生物学 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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