5号館を出て

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なぜヒトは放射線を知覚できないのか

 原子炉や原子爆弾から出てくる放射線が恐ろしいと感じる大きな理由のひとつが、我々が持っている五感を駆使してもそうしたものをほとんど感じることができないということだと思います。ヒトが感じることのできないものは他にもいろいろあるのですが、場合によっては即死するほどの強いパワーで被曝したときですら、すぐには熱さや痛さすら感じないというところが、放射線の恐ろしさだと思えます。放射線といっても音や光を含め、テレビやラジオ、携帯電話や無線LANの電波なども基本的には同じような「電磁波」なのですが、その電磁波が持つ周波数が高くなってくると大きなエネルギーを持ってヒトを傷つけるようなことをするものになります。

 「自然の摂理から環境を考える」というブログにわかりやすい図がありましたのでお借りします。
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 周波数の短いところは「音波」で、ちょっと長いものは携帯電話やテレビ・ラジオで使われているいわゆる電波です。それよりも短いところに熱として感じることができる赤外線があり、さらに短くなると眼で視覚として感じることのできる可視光線がきて、さらに短くなるとこんどは肌などに害を与え、時として皮膚がんを引き起こす原因になる紫外線が出てきます。

 このあたりからヒトに害を与える電磁波になってくるのですが、紫外線などは日焼け止めクリームなどでもかんたんに防ぐことができるのでそれほど恐ろしくありません。いわゆる電離放射線として危険といわれるアルファ線やベータ線も紙やアルミ箔などで遮断することができるので、体内に入らないように注意して、外にあるものに対してはきちんと対応すればそれほど恐ろしいものではありません。

 ところが、さらに高いエネルギーを持った電磁波であるX線やガンマ線になってくると、いろんなものを軽々と突き抜けてくるので防御のしようがないという怖さがあります。原子爆弾や原発事故で臨界状態が恐ろしいのはこうした電磁波が大量に飛び出してくるからということもあります(ソース)。
なぜヒトは放射線を知覚できないのか_c0025115_19352596.jpg
 ところで、ヒトや他の動物は長い進化の歴史の中で、いろいろな害を持った対象を知覚するという能力を獲得してきています。さわると火傷をする熱に対しては、かなり敏感な熱に対する感覚をもっており、熱いと感じる前に手を引っ込める反射という能力さえも進化してきています。

 ところが、皮膚がんの原因になる紫外線や、場合によっては即死することもあるといわれるガンマ線、X線やもっともおそろしい中性子線を感じる能力を持っていないのはどうしてなのでしょう。

 それは、おそらく地球上にはそうした致死性の電磁波を自然に生じるものがほとんど存在せず、我々が進化してきた数億年の間にそうしたものによって生命の危険にされされた祖先というものがいなかったからなのだと、私は考えています。もしも、地球のあちこちにX線や中性子線が発生するポイントがあるとしたら、そこに近づいた我々の祖先はどんどん死んでしまいますから、そこに近づかずに済む、つまりそこに危険な電磁波があるということを知覚できる性質を持ったものが生き残る確率が高くなります。ということは、我々にも電磁波を知覚できる性質が進化してきた可能性もあると考えられます。

 ところが我々はそうした致死性の電磁波を見たり、感じたりすることができないということは、我々が進化してきた数千万年の間に地球にはそうした危険はなかったからです。

 ここ100年くらいの間に人工的に大量に作られた危険物に対して、生物としてのヒトがまったく対応できないのは生物進化を考えるとなんの不思議もありません。動物としてのヒトには見えない恐怖に対処するためには、そうした害毒を生む時に同時に生み出さざるを得なかった数々の測定器に頼らざるを得ないというのは、まさに自業自得と言わざるを得ない状況だと思えます。

 文化・文明の素晴らしさは、それが生み出す恐ろしさと対になってやってくるもののようです。
Commented by コジ at 2011-04-20 01:01 x
スルーしようかと思ったのですが、同じ研究者として指摘せずにはいられませんでした。
(多分、承知の上で書いているとは思うのですが)、音波と電磁波を同列に扱うのは物理学的にはナンセンスではないでしょうか。前者は介在物質(空気や水)中を伝わる粗密波で、後者は実体の存在しない波ですから(なので、真空中では音は伝わらないが、光や電波は伝わる)。
それから、実体のあるアルファ線(粒子)、ベータ線(粒子)の方が、電磁波のガンマ線よりもエネルギーは大きいです。ほぼ光速で微粒子がぶつかってくることになるので。粒子であるが故に物理的に遮蔽できるというだけで、体内で放出されたらダメージは大きくなります。
Commented by stochinai at 2011-04-20 06:54
 ご指摘ありがとうございます。音に関しては確かにちょっと言い過ぎの感はあると自分でも思っていたのですが、お借りした図に書いてあったので言及してしまいました。物理学的な性質という意味ではおっしゃる通りだと思いますが、ここでの趣旨は「生物としてのヒトの知覚の進化」を論じているということでお許し願えると幸いです。
Commented by 素人のアホな質問 at 2011-04-21 21:21 x
「致死性の」モノってトリカブトやフグの毒とか一酸化炭素とか、昔から自然界にいろいろあるような気がするのですが、こういうモノって知覚できるのでしょうか?
Commented by stochinai at 2011-04-21 23:20
 一酸化炭素は知覚できないようですが、硫化水素とかあるいはさまざまな植物や動物の「毒」に関しては嗅覚や味覚で死を避ける能力を持っている例はたくさん知られています。フグの毒やさまざまな毒草の毒を解毒する能力を持った動物もたくさん知られています。結局のところ、知覚できない致死性物質が大量にあるところでは動物は絶滅しますから、長い時間をかければそういうものを避けることができる能力あるいはそういうものを「解毒」する能力を進化させたものだけが生き残るという結果になるのだと思います。
by stochinai | 2011-04-19 20:28 | 生物学 | Comments(4)