5号館を出て

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原発に賛成でも反対でも

 今回の福島原発の事故を受けて、原発をどうするかという議論が、国内のみならず世界中で盛んになっています。ドイツのように一気に原発反対に世論が動いたと言われている国もありますが、当事国である日本ではちょっと意外ですが、原発反対に国論が大きく振れたとまでは動いていないと報道されています。

 原子力発電が扱いにくい技術であることは、賛成派も反対派も共通した認識があるようですが、もっとも大きな議論の焦点になっているのはどうもその「経済性」であるようで、今までは原子力によって作られた電気が「圧倒的に安い」ということと、化石燃料のように発電によって大量の二酸化炭素を放出しないところが強調されてきており、少なくとも今回の事故が起こるまでは、原発は「安くてクリーン」な発電方式ということが半ば「常識」として敷衍していたという気がします。少なくとも日本ではそうだったと思います。小さな事故があったり、ちょっと大きな事故があっても運転を休止することでそれほどの大規模な放射性物質汚染が起こってこなかったという「実績」がある意味で評価されてきたということだとも思います。

 おまけに世界的な地球温暖化キャンペーンで、少なくとも「二酸化炭素を出さない発電」ということで、原子力発電は力を得つつあったとも言えるでしょう。更に、原発の地元には政府からいろいろな補助金が出たり、電力会社からさまざまな優待制度があったようで、もちろんたくさんの雇用も生み出すということともあいまって地元では反対運動はしにくいという話もよく聞くところでした。

 原発事故以後も原子力発電の経済的優位性と原発と直接の因果関係を持った死者を出さないという意味での安全性を強調して、強い論陣を張っている方がたくさんいらっしゃいますが、その中の有力な理論家のひとりだった池田信夫さんが、一転して弱気ともいえるtweetを出してきたのをご覧になったでしょうか。
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 池田さんはいままで一貫して、今回のような事故を起こってもただちに人がたくさん死んでいるわけではないので、被害は大きくないという判断をしていたのですが、原発事故による賠償金の請求ということを考えて、愕然としたのだと思います。

 原発反対派が原発による発電のコストは、事故が起こった時の保証などもコストに入れることを主張してきたのですが、日本で大規模な賠償訴訟が起こるような事故が起こったことがなかった今までは、それをコストに入れる必要はないという推進派の立場に押されていたと思うのですが、今回実際に大事故が起こり、その直接の被害者(放射線そのものによる被害者)だけではなく、むしろそれ以外の「農産物の風評被害や避難による所得補償」を考えた時に、その賠償額が天文学的数字になることを理解したのだと思います。この後、水産物の被害および風評被害が起こってくることは確実ですし、地震の被害が少なかったにもかかわらず強制的に移転させられる人々の補償などもとうぜん東電の責任で支払われるべきものです。それが原発による発電のコストに入れるということになると、原発の電気はどこまで高価なものになるかわからないということになります。

 というわけで、さすがの強気の池田先生も、もう「原子力はだめかも」しらんね、という境地に達したのだと拝察されます。

 今回の事故で明らかになった風評被害の特徴は、国内よりも国際的に広範囲にあることないこと混ぜ合わされた「噂」が流れていることではないでしょうか。たとえその多くが誤解だとしても、日本の農水産物のみならず、工業製品までも放射線量の測定がされるという状況は、競争相手にとっては願ってもない日本の失点であり、場合によっては積極的にその状況を利用しようとしているかもしれません。

 実際の放射性物質の拡散はどうあれ、日本国内からの外国人の脱出および、ほぼ壊滅したと言われる外国からの観光客の訪問を考えると、今回の事故はとてつもない大きな経済被害を日本全体に及ぼしています。今は、少しずつ戻ってきつつあるとはいえ、北海道や沖縄への外国人観光客までもがほとんどすべてキャンセルされたという事態に対しても、東京電力に対する訴訟を起こすに足る十分な理由になると思います。

 この上さらにTPPなどで農水産物なども国際市場で戦わなくなければならなくなったらどうでしょう。小さな島国における原発事故は、日本全体の産業に対する回復不能の影響を及ぼします。このような状況を考えると、外国との貿易や観光を主な産業とする国にとって、もはや原子力発電を止めるという方向に進むしか選択肢はないのではないかと思います。

 たとえば、農業・畜産・水産・観光が大きな産業となっている北海道のことを考えてみます。たとえ、死者が出ることのない大きなものではなかったとしても、もしも泊発電所で大規模な放射性物質の放出を伴う事故が起こったと仮定してみてください。その翌日から、北海道のすべての産業は国際的鎖国状態に置かれることは間違いないと確信します。

 日本では、今はすでにたくさんの原子力発電所を動かしていますから、明日にでもすべてを廃炉ということを言っても現実的ではありません。現在よりも、さらに安全に運転しつつ、徐々に縮小していくとともに、地球生態系の中で持続可能・リサイクル可能な発電へと転換していくために、原子力発電所の改善や新しい発電方式の開発のための研究が必要とされています。

 池田信夫さんのおっしゃる通り、「実際の(というよりは放射線による直接の)被害をはるかに超える賠償を要求されるという特殊性」のある原子力発電は、人間社会の在り方、人々の行動を考えると、原発に賛成とか反対とかを越えて、やはり「だめ」なのだということを今回の事故の教訓とすべきではないでしょうか。
Commented by kitanomizube at 2011-04-25 02:29
こんばんは、ご無沙汰しております。
今回の事故の後、一般的な常識を備えた方々と話をする機会があったのですが(自分たちの周りではない人という意味)「使用済みの核燃料でさえも、冷やし続けないと大変なことになるなんて知らなかった」という感想がありました。つまり使用済み核燃料や放射性廃棄物の半永久的な管理・・このコストは現在の原発による電力料金に加算されていない・・ということも一般の人の認識には無かったですよね。原発の電気は安い・・というのは事故が無くても虚構だと言うことですよね。そういうことが明らかになった事故だったと思います。
Commented by 手詰まり at 2011-04-25 07:21 x
原発から40kmのところに住んでいます。政府は危険ではないと指定していますが、事故の時には自主避難をしました。市内の火力発電所も津波被害を受けていますが、秋には発電できるような話です。原発は手に負えなくなるのでダメだと、いうしかないと思います。
Commented by stochinai at 2011-04-25 20:56
 kitanomizubeさん。おっしゃるとおりだと思うのですが、なぜか選挙をするたびに、原発推進あるいは賛成派の首長や議員がどんどん当選していますね。

 「手詰まり」さん。私は原発から80kmのところにいますが、いったんことが起こったら同じ状況だと思います。国が何をしてくれるか待っていても埒があかないひどい国だと思いますが、自分の命は自分で守るしかないと覚悟を決めましょう。お気をつけてお暮らしください。
Commented by kitanomizube at 2011-04-26 05:58
おはようございます
昨日の私のエントリーに書いたのですが、福島前知事の佐藤さんが言うように、原発で潤うという錯覚を信じている人が多いのでしょうね。実際は双葉町のように、なんと財政再建団体になってしまうと言う現実。これは知りませんでしたし、原発推進派を当選させてしまう地域の人は、まだ知らないのでしょうね・・あるいは、すでに麻薬中毒になっているのかもしれません。
Commented by stochinai at 2011-04-26 07:49
 その「錯覚」の神通力が、原発事故が起こった地元以外ではほとんど消えなかったのだとしたら、日本の病はかなり深刻ということですよね。
Commented by あすてろいど at 2011-04-27 16:24 x
南ドイツ新聞記者のインタビューにU.ベックが答えた記事を読みました(3月14日)。最後の方で、「リスクのある技術を補償するのを助けるオルターナティブな技術と市場を生み出すことが重要だ。・・・日本は、エネルギー技術において意図的に核技術へと決断した。・・・」とあったので、外の目でも、日本=核社会とやはり思われていたのだなあと。
http://www.sueddeutsche.de/kultur/risikoforscher-ulrich-beck-ein-strategisch-inszenierter-irrtum-1.1071655
Commented by ebi at 2011-04-28 00:41 x
正直言いまして、池田氏が一定の境地に達したとは思えませんが、
(そして、”有力な理論家”にしてはかなり破綻した文章を書く方だと思うのですが)、

それはさておき、間違えた知識を前提にして物事を論じるのは(池田氏の下記blog参照下さい)、大きなミスリードを引き起こすと思いますので、生物学専攻の大学教員の方々には啓蒙活動に励んでいただきたいと心より願う次第です。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51702528.html
Commented by stochinai at 2011-04-28 07:20
 あすてろいどさん。IAEAは前から日本の原発が、原爆製造に流用されることを懸念して監視を続けています。世界はいろんな意味で日本を疑いの目で見ていたようですが、今後は「技術レベルの低下した先進国」という意味で北朝鮮並みの扱いに変わるかもしれません。

 ebiさん。彼はこのtweetで、一時的に弱気になったものの相変わらずのようですね。「経済学者」としては、よく「放射線生物学」を勉強していると思いますが、生物学の基礎がわかっていないので、いろんな本などを読んで都合の良いところを寄せ集めた「理論」を操作して、明快に断言するところが受けているのかもしれません。微力ながら努力を続けなければ、と思っています。
by stochinai | 2011-04-24 23:03 | 医療・健康 | Comments(8)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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