5号館を出て

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短時間睡眠遺伝子

 気分を変える意味でも久々に生物ネタで、一席お伺いいたします。

 共同通信が配信している「睡眠時間、遺伝子が操る ハエで発見、人に恩恵も」の元記事は例によって、Natureの4月28日号に出ている論文です。

 「一日に必要な睡眠時間を決めるのに重要とみられる遺伝子を、米ウィスコンシン大のチームがショウジョウバエで見つけ」たというのが、ほぼ記事の全文です。

Nature 434, 1087-1092 (28 April 2005)
 Reduced sleep in Drosophila Shaker mutants
  シェーカーという遺伝子の突然変異がショウジョウバエの睡眠時間を短くした

 人の平均睡眠時間は7-8時間であり、睡眠不足はさまざまな活動のパフォーマンスを低下させるのが普通なのに、人によっては(ナポレオンなど?)3-4時間の睡眠でも全然平気といいます。しかも、どうもそれはそういう家系があると言われていて、遺伝するのではないかとも考えられているとのことです。(余談ですが、うちの家系は、全然違います。8時間でも足りないかも知れません。)

 遺伝の実験でよく使われるキイロショウジョウバエもヒトと同じくらいの睡眠時間が必要だということなので、それを使って短時間でも大丈夫という突然変異を持ったハエを探してみたところ、だいたい普通の3分の1(3-4時間)でも、正常のハエと同じくらいの活動性をもった系統が発見されたそうです。その突然変異は「ミニ睡眠」と呼ばれて、睡眠が短くなる以外は、普通のハエに比べて目立った差がないそうです。

 そのハエのどの遺伝子に突然変異が起こっているかを調べてみたところ、昔から体が震える突然変異を起こすことが知られていたシェーカーShakerという遺伝子の中のDNAが一カ所だけ突然変異を起こしているだけだということがわかりました。この遺伝子は実は細胞膜にあるカリウムイオンを運ぶチャンネルといわれるタンパク質の設計図であることが知られていて、それが働かなくなるともちろん重大なことになるのですが、「ミニ睡眠」変異で起こった遺伝子の突然変異はそのタンパク質の機能をほとんど損なうことなく、睡眠だけが短くても良いハエになってしまったとのことです。

 そして、もう一つのおまけとしてこのタンパク質はハエでも、ヒトでも、ネズミでも、ウミウシでも、クラゲでも、イヌでも、カエルでもほとんど同じものがあって、同じ働きをしていることと、「ミニ睡眠」突然変異で変化する場所が、あらゆる動物のタンパク質の中の同じところに同じアミノ酸として保存されているというのです。

 これが何を意味するかというと、ヒトやマウスで遺伝子操作をしてやることで、「ミニ睡眠」変異と同じ変化を起こしてやると、睡眠が短くても大丈夫になる可能性があるということを示唆しているということです。睡眠不足が、交通事故をはじめとする様々なトラブルの原因となっている現代人にとっては、ちょっと興味の引かれる話だということになるのでしょう。

 ところが新聞記事では故意にかうっかりからかはわかりませんが、論文の中で書かれている非常に重要な点が書かれていませんでした。

 この睡眠時間が短くても大丈夫なハエは、なんと短命だったのです。

 お後がよろしいようで、、、、。
Commented by ぢゅにあ at 2005-05-02 06:07 x
睡眠って謎に満ちてるな、と思います。
生命維持に必要な睡眠が短くなるのだから
これを補うシステムがなければ当然、短命ってことでしょうか?
平均より寝すぎるハエは長生きってことはないんですか?
利益には代償がつきものって、ハエさんも例外ではないのですね。
Commented by stochinai at 2005-05-02 19:40
 似たような話で、長寿になるハエの突然変異が発見されていますが、そっちは生殖能力が低下していたという話だったと記憶しています。
 生殖能力の低下と長寿は、かなり一般的な話のようです。長寿でも意味がないということになりますね。
by stochinai | 2005-04-30 17:30 | 生物学 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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