2005年 05月 02日
引用は正確に(読売オンラインに苦言)
読売オンラインでまた、日本人の科学常識を笑いものにするような記事が載っています。文科省発のニュースというような書き方になっているのですが、例によって内容や文章のどこまでが誰の責任になるものなのかがよくわかりませんので、読む方としても何をどのように判断して良いのかが困る記事です。
特に「国際比較の共通質問」というものが、答えに悩むような設問が目立ち、どうも怪しげだったので出典を探してみました。なんとか見つかったのが文部科学省附属の科学技術政策研究所が発行している政策研ニュースのNo.160(2002 2)というもののようです。
その中に「科学技術に関する意識調査-2001年2~3月調査-」というレポートがあり、表1がまさに、読売が引用している【科学常識チェック、〇か×か】のようです。ところが、その引用の仕方が正確ではないのです。まず、原典を画像ファイルで示します。

続いて読売の「引用」の一部です。
〈1〉地球の中心部は非常に高温
正しくは、「地球の中心部は非常に高温である」
〈2〉すべての放射能は人工的に作られた
「すべての放射能は人工的に作られたものである」
〈3〉我々が呼吸に使う酸素は植物から作られた
「我々が呼吸に使う酸素は植物が作ったものである」
〈4〉赤ちゃんが男の子になるか女の子になるかを決めるのは父親の遺伝子
「男か女になるかを決めるのは父親の遺伝子である」
〈5〉レーザーは音波を集中することで得られる
正しく引用
〈6〉電子の大きさは原子よりも小さい
「電子の大きさは原子の大きさよりも小さい」
〈7〉抗生物質はバクテリア同様ウイルスも殺す
正しく引用
〈8〉大陸は何万年もかけて移動しており、これからも移動するだろう
「大陸は何万年もかけて移動し続けている」
〈9〉現在の人類は、原始的な動物種から進化した
「現在の人類は原始的動物種から進化したものだ」
〈10〉ごく初期の人類は、恐竜と同時代に生きていた
「ごく初期の人類は恐竜と同時代に生きていた」
〈11〉放射能に汚染された牛乳は沸騰させれば安全
「放射能に汚染された牛乳は沸騰させれば安全だ」
語尾や助詞、句点などがちょっとだけ違うだけのものが多いのですが、そのことでずいぶんと原文と異なるニュアンスになってしまってものがあります。特に(3)、(4)あたりはかなり黒に近い灰色だと思います。植物「が」作ったか、植物「から」作ったかは、全然意味が違います。また、ヒトの性がとりあえず遺伝子によって決められるのは受精の瞬間であり、その後赤ちゃんが本当の意味で男になるか女になるかは遺伝子以外の様々な要因によって揺らぐことガ知られていますから、赤ちゃんと書き足したことでとんでもない誤解を招きかねません。
#ヒトにはX染色体とY染色体という「性染色体」があり、基本的には女性はXX、男性はXYを持っています。つまり、Y染色体があれば男になり、なければ女になるというわけです。つまり、男性を決める遺伝子は男にしかないY染色体に載っているということになっています。
報道記事を読む我々は、その改編されたものを基準に場合によっては文科省を批判することになるかもしれません。わかりやすくなるようにと良かれと思ってやった記者の「親心」は理解できなくもないですが、いやしくも科学リテラシーを問うという記事なのですから、その引用には科学的信頼性が必要だと思います。
気をつけてもらいたいことと、今後科学関連の記事には専門家の査読を受けることを期待したいと思います。
「日本の正答率は54%で13位。1位スウェーデンの73%、5位アメリカの63%などに比べ『常識の無さ』が目立っている」と書いている、記者の方の常識に問題があったら笑えませんよね。
追記:抗生物質に関しては、古典的な定義としては(7)を間違いとして良いのですが、最近どんどん使われるようになっている抗ウイルス剤なども抗生物質と呼ばれることがありますので、問題としては不適当だと思います(もちろん、これは読売さんの責任ではありません)。ちなみにウィキペディア(Wikipedia)では「今日では『微生物の産生物に由来する化学療法剤』が広義には抗生物質と呼ばれている。言い換えると、抗生物質は微生物の産生物に由来する抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤そして抗腫瘍剤であり、その大半が抗菌剤である」と書いてあるので、こういう定義もあり得るようです。
特に「国際比較の共通質問」というものが、答えに悩むような設問が目立ち、どうも怪しげだったので出典を探してみました。なんとか見つかったのが文部科学省附属の科学技術政策研究所が発行している政策研ニュースのNo.160(2002 2)というもののようです。
その中に「科学技術に関する意識調査-2001年2~3月調査-」というレポートがあり、表1がまさに、読売が引用している【科学常識チェック、〇か×か】のようです。ところが、その引用の仕方が正確ではないのです。まず、原典を画像ファイルで示します。

続いて読売の「引用」の一部です。
〈1〉地球の中心部は非常に高温
正しくは、「地球の中心部は非常に高温である」
〈2〉すべての放射能は人工的に作られた
「すべての放射能は人工的に作られたものである」
〈3〉我々が呼吸に使う酸素は植物から作られた
「我々が呼吸に使う酸素は植物が作ったものである」
〈4〉赤ちゃんが男の子になるか女の子になるかを決めるのは父親の遺伝子
「男か女になるかを決めるのは父親の遺伝子である」
〈5〉レーザーは音波を集中することで得られる
正しく引用
〈6〉電子の大きさは原子よりも小さい
「電子の大きさは原子の大きさよりも小さい」
〈7〉抗生物質はバクテリア同様ウイルスも殺す
正しく引用
〈8〉大陸は何万年もかけて移動しており、これからも移動するだろう
「大陸は何万年もかけて移動し続けている」
〈9〉現在の人類は、原始的な動物種から進化した
「現在の人類は原始的動物種から進化したものだ」
〈10〉ごく初期の人類は、恐竜と同時代に生きていた
「ごく初期の人類は恐竜と同時代に生きていた」
〈11〉放射能に汚染された牛乳は沸騰させれば安全
「放射能に汚染された牛乳は沸騰させれば安全だ」
語尾や助詞、句点などがちょっとだけ違うだけのものが多いのですが、そのことでずいぶんと原文と異なるニュアンスになってしまってものがあります。特に(3)、(4)あたりはかなり黒に近い灰色だと思います。植物「が」作ったか、植物「から」作ったかは、全然意味が違います。また、ヒトの性がとりあえず遺伝子によって決められるのは受精の瞬間であり、その後赤ちゃんが本当の意味で男になるか女になるかは遺伝子以外の様々な要因によって揺らぐことガ知られていますから、赤ちゃんと書き足したことでとんでもない誤解を招きかねません。
#ヒトにはX染色体とY染色体という「性染色体」があり、基本的には女性はXX、男性はXYを持っています。つまり、Y染色体があれば男になり、なければ女になるというわけです。つまり、男性を決める遺伝子は男にしかないY染色体に載っているということになっています。
報道記事を読む我々は、その改編されたものを基準に場合によっては文科省を批判することになるかもしれません。わかりやすくなるようにと良かれと思ってやった記者の「親心」は理解できなくもないですが、いやしくも科学リテラシーを問うという記事なのですから、その引用には科学的信頼性が必要だと思います。
気をつけてもらいたいことと、今後科学関連の記事には専門家の査読を受けることを期待したいと思います。
「日本の正答率は54%で13位。1位スウェーデンの73%、5位アメリカの63%などに比べ『常識の無さ』が目立っている」と書いている、記者の方の常識に問題があったら笑えませんよね。
追記:抗生物質に関しては、古典的な定義としては(7)を間違いとして良いのですが、最近どんどん使われるようになっている抗ウイルス剤なども抗生物質と呼ばれることがありますので、問題としては不適当だと思います(もちろん、これは読売さんの責任ではありません)。ちなみにウィキペディア(Wikipedia)では「今日では『微生物の産生物に由来する化学療法剤』が広義には抗生物質と呼ばれている。言い換えると、抗生物質は微生物の産生物に由来する抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤そして抗腫瘍剤であり、その大半が抗菌剤である」と書いてあるので、こういう定義もあり得るようです。

ここに掲載される前にこのニュースを見て思ったのですが、ここで出てくる「放射能」という言葉は正しいのでしょうか?「放射性物質」とかなのかなぁと思いました。でも文科省やニュースで普通に取り上げられているところを見ると私が間違っているのでしょうか…。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD
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TBどうもです。7番は分からなかったので、Wikipediaを覗いてみました。
Wikipediaの定義の詳細までは読みませんでしたが。(笑)
讀賣の記事ですが、こう言ってはなんですが、今回の改変くらいだと、讀賣にしては大したこと無い方でしょう。
私は、讀賣新聞は新聞を名乗る週刊誌だと思っています。見出しを読んだだけだと、記事内容と正反対の内容を連想するほどです。
新聞社としての主義以前の問題であり、よく比べられる産経新聞の方がずっとマシです。
そう思ってみていますので、最近は、讀賣のタイトルで誤魔化されることはかなり無くなりました。
Wikipediaの定義の詳細までは読みませんでしたが。(笑)
讀賣の記事ですが、こう言ってはなんですが、今回の改変くらいだと、讀賣にしては大したこと無い方でしょう。
私は、讀賣新聞は新聞を名乗る週刊誌だと思っています。見出しを読んだだけだと、記事内容と正反対の内容を連想するほどです。
新聞社としての主義以前の問題であり、よく比べられる産経新聞の方がずっとマシです。
そう思ってみていますので、最近は、讀賣のタイトルで誤魔化されることはかなり無くなりました。
Junyさんの指摘も正しいと思います。ただ、問題では慣用的に使われている言葉を用いたのだろうと思います。訳者の問題でしょうか。
放射能という言葉は「古い」用語ですが、社会的に広まってしまっているので慣用語としては新聞などでは捨てがたいのだと思います。radioactivityの訳なのでしょうが、実体ではなく現象から何かの存在が推測される**能というテクニカルタームは最近の科学からはどんどん追放されているようです。
私も読売や産経が何を書こうがスルーする気持ちはあるのですが、せっかくのネタだったので取り上げさせていただいたというところです。
ご指摘ありがとうございます。
科学的な常識も日本語の知識もなかったのは、読売の記者だった可能性が高いわけですね。
学術機関でなくて良かったと思うのと同時に、新聞記事を信じた?私が浅はかでした。
やはりソースにあたるのが、科学の基本ですね。
科学的な常識も日本語の知識もなかったのは、読売の記者だった可能性が高いわけですね。
学術機関でなくて良かったと思うのと同時に、新聞記事を信じた?私が浅はかでした。
やはりソースにあたるのが、科学の基本ですね。

「光と音はどちらが早いか」ってのは、速いかですよね。
問題を作っている側もこれじゃなと思いました。
問題を作っている側もこれじゃなと思いました。

kiyoaki.nemotoさんコメントありがとうございました。
問題をもう一度見直してみましたが、知識がある人ほど悩むのではなかろうかと思ってきました。「あげあし」とも言われるかもしれませんが、「非常に高温」とか「ごく初期」とか…。まあ一般的常識(?)にあわせるんでしょうね。
それよりも2択問題で正答率54%っていうのがショックです。
問題をもう一度見直してみましたが、知識がある人ほど悩むのではなかろうかと思ってきました。「あげあし」とも言われるかもしれませんが、「非常に高温」とか「ごく初期」とか…。まあ一般的常識(?)にあわせるんでしょうね。
それよりも2択問題で正答率54%っていうのがショックです。

英文がありました。細かいところが異なっている気がします。
http://www.saasta.ac.za/scicom/pcst7/masamichi.pdf
1) *The center of the earth is very hot. (True)
2) *All radioactivities are man-made. (False)
3) *The oxygen we breathe comes from plants. (True)
4) *It is the father's gene that decides whether the baby is a boy or a girl. (True)
5) *Lasers work by focusing sound waves. (False)
6) *Electrons are smaller than atoms. (True)
7) *Antibiotics kill viruses as well as bacteria. (False)
8) *The continents have been moving for millions of years and will continue to move. (True)
9)* Human beings, as we know them today, have developed from earlier species of animals. (True)
10) *The earliest humans lived at the same time as the dinosaurs. (False)
11) *Radioactive milk can be made safe by boiling it. (False)
http://www.saasta.ac.za/scicom/pcst7/masamichi.pdf
1) *The center of the earth is very hot. (True)
2) *All radioactivities are man-made. (False)
3) *The oxygen we breathe comes from plants. (True)
4) *It is the father's gene that decides whether the baby is a boy or a girl. (True)
5) *Lasers work by focusing sound waves. (False)
6) *Electrons are smaller than atoms. (True)
7) *Antibiotics kill viruses as well as bacteria. (False)
8) *The continents have been moving for millions of years and will continue to move. (True)
9)* Human beings, as we know them today, have developed from earlier species of animals. (True)
10) *The earliest humans lived at the same time as the dinosaurs. (False)
11) *Radioactive milk can be made safe by boiling it. (False)

科学を正確に記述するのは、難しいことです。
正確な知識より、むしろ問われるのは、正確な国語の運用能力です。
そして、例えば医学の知識などでは、「正確」であることより、
多くの人にとって、「一般的に知っておくべき知識」があるように思います。
例えば、抗生物質についてですが、医者が、抗ウイルス剤や
抗腫瘍剤も含めての話まで、3分診療の中でしてくれるわけもありません。
その場合、子どもからお年寄りまで知っておいたほうがいいのは、
「ウィルスに抗生物質は効かない」ということで、
「風邪なのに抗生物質は必要なのでしょうか」と
医師にたずねられることが大事だと思います。
そこまで考えると、知っておくべき「常識」を決めるのは難しいですね。
正確な知識より、むしろ問われるのは、正確な国語の運用能力です。
そして、例えば医学の知識などでは、「正確」であることより、
多くの人にとって、「一般的に知っておくべき知識」があるように思います。
例えば、抗生物質についてですが、医者が、抗ウイルス剤や
抗腫瘍剤も含めての話まで、3分診療の中でしてくれるわけもありません。
その場合、子どもからお年寄りまで知っておいたほうがいいのは、
「ウィルスに抗生物質は効かない」ということで、
「風邪なのに抗生物質は必要なのでしょうか」と
医師にたずねられることが大事だと思います。
そこまで考えると、知っておくべき「常識」を決めるのは難しいですね。

花見月さん、一応確認します。
風邪に抗生物質を処方するのは、細菌による炎症症状(鼻炎や咽頭炎)などの緩和のためで、根治療法としての風邪薬はないですよね。
インフルエンザはウィルス感染なので風邪で処方する抗生物質は効かないんだよ、ということでよろしかったですか?
風邪に抗生物質を処方するのは、細菌による炎症症状(鼻炎や咽頭炎)などの緩和のためで、根治療法としての風邪薬はないですよね。
インフルエンザはウィルス感染なので風邪で処方する抗生物質は効かないんだよ、ということでよろしかったですか?

>風邪に抗生物質を処方するのは、細菌による炎症症状
(鼻炎や咽頭炎)などの緩和のため
おっしゃるとおりです。日本では、二次的な細菌感染の予防のためにも抗生物質が処方されています。(状況は少しずつ変わっていますが)
>インフルエンザはウィルス感染なので風邪で処方する抗生物質は効かない
一般的にかぜ症候群と診断される病気の原因も、多くはウィルス性です。
インフルエンザの場合にも、二次的な細菌による炎症症状の緩和のためであれば、抗生物質は効くといえるのではないでしょうか。
(鼻炎や咽頭炎)などの緩和のため
おっしゃるとおりです。日本では、二次的な細菌感染の予防のためにも抗生物質が処方されています。(状況は少しずつ変わっていますが)
>インフルエンザはウィルス感染なので風邪で処方する抗生物質は効かない
一般的にかぜ症候群と診断される病気の原因も、多くはウィルス性です。
インフルエンザの場合にも、二次的な細菌による炎症症状の緩和のためであれば、抗生物質は効くといえるのではないでしょうか。

ある方がブログでこの質問について考察されていたので、自分のブログで回答してみました。
こちらで英語の質問を拝見いたしましたが、ネットで話題にされている日本語の質問は英文を意訳しているのではないかと思いました。
英語の質問に答えた際の理由づけと日本語とでは、全く違ってくるというようなことを自分のブログにコメントしました。
トラックバックがアタシのブログから出来ないようなので、こちらのブログを参照にしたということを直接自分のブログのコメント欄に書きました。
こちらで英語の質問を拝見いたしましたが、ネットで話題にされている日本語の質問は英文を意訳しているのではないかと思いました。
英語の質問に答えた際の理由づけと日本語とでは、全く違ってくるというようなことを自分のブログにコメントしました。
トラックバックがアタシのブログから出来ないようなので、こちらのブログを参照にしたということを直接自分のブログのコメント欄に書きました。

私もこの記事はあまり良くないと思いましたが、
読売の記者の科学的知識はともかく、決して記者による改変ではないので冤罪は気の毒です。
一応文科省のサイトに記事中の文章どおりの設問が載っています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/siryo/04122701/002/001.pdf
大元の調査での質問から文科省内で資料のコピーを重ねるうちにどこかで改変が起こったのではないでしょうか?
読売の記者の科学的知識はともかく、決して記者による改変ではないので冤罪は気の毒です。
一応文科省のサイトに記事中の文章どおりの設問が載っています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/siryo/04122701/002/001.pdf
大元の調査での質問から文科省内で資料のコピーを重ねるうちにどこかで改変が起こったのではないでしょうか?

by stochinai
| 2005-05-02 21:38
| 教育
|
Comments(15)