2011年 10月 19日
肉食動物でもベジタリアンを続ければ植物を分解できるようになる【追記】日本人の海苔分解腸内細菌
昨日発行になったPNASにパンダの腸内細菌がセルロースを分解しているという論文が載っていました(www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1017956108)。

ササ(タケ?)しか食べないであんな大きな体を維持しているのですから、おそらくセルロースを分解する能力はあるのだろうと推測されていたのですが、直接証明されたのは初めてのようです。

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そもそも、2009年にパンダの全ゲノムが解読された時から、彼らはセルロースを分解できる酵素の遺伝子は持っていないことが明らかになっていました。もちろん、ササと言ってもセルロースだけでできているわけではなく、中に含まれる細胞には、ごく少量のデンプンや脂肪やタンパク質が含まれていないわけではありません。遺伝子の解析からパンダは他のクマと同じように肉を食べて分解することができる酵素を持っていることもわかり、彼らはもともとは肉食もしていたことも示されていました。また、とてもおもしろいことに、彼らが肉をおいしいと感じる味覚受容体のタンパク質の機能を失っていることもわかり、肉を食べて分解できる能力はあるものの、肉をおいしいと思わないだろうとも言われていました。
パンダの糞の中にいる細菌のDNAを直接調べるという少々荒っぽい方法で、そこにいると推測される細菌を調べてみると、意外と少数種の細菌しかいないことと論文に書いてあります。

左が野生のパンダ(7匹)の糞、右が飼育されているパンダ(8匹)の糞の中にあったDNAから推測された細菌の種構成です。飼育されていると赤で示された細菌が増えて、黄色が減っているようですが、基本的にはそれほど大きく変わらなく、ササのセルロースを分解する細菌がたくさんいるそうです。
今年の2月に出たNew Scientistに出ていた「Going vegetarian is tough – even for the panda (パンダにとってもベジタリアンでいるのは結構つらい)」という記事に面白いことが書いてありました。
主に肉食生活をしていたパンダの祖先がササを食べ始めたのは700万年前くらいだったようです。そして200万年前くらいまでには肉食を止めたと考えられています。彼らが肉の味の感覚を失ったのは420万年前のことでしたが、その後しばらくはおいしいと思わなくとも200万年前くらいまでは肉食も続けていたようで、そのくらいベジタリアンだけで生きていくのはつらかったということかもしれません。
いま生きているジャイアントパンダには近縁種がいて、そのうちの一種は200万年前くらいに絶滅したピグミーパンダと呼ばれるもので、もう一種は10万年前くらいまでは生存していたようです。それらの化石の頭骨を調べてみると、200万年前のピグミーパンダはまだ完全に植物食には移行していなかったことがわかり、おそらくまだ肉食もしていたと考えられています。一方、10万年前くらいに滅びた近縁種のパンダの頭骨は現存のパンダとそっくりな形をしていて、すでに植物食への移行が完成していたと考えられます。
昨日出たNational Geographic Daily News 「How Do Giant Pandas Survive on Bamboo?」によると、パンダが草食を始めたのは、おそらくヒトを含めたほかの動物たちに生存域を高地へと追われ、食べるための動物が手に入らなくなったせいではないかということです。おまけに、パンダは1日に食べる9-14キログラムのササのうちたった20-30%しか分解消化していないのだそうで、あののろまな運動性はそのせいで獲得されたのかもしれないと書いてありました。
そう考えると、パンダは他の肉食動物との競争を避けて、のんびりとササを食べて生き延びてこられたのはかなりの幸運だったと言えそうです。
そういう平和志向の動物だから、世界中の動物園で愛されるのかもしれませんね。
【追記】 そういえば去年、Nature誌に日本人の腸内細菌には海苔の持つ多糖類を分解する酵素を持ったものがあるという論文が出てました。
Japanese Guts Are Adapted to Sushi
Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota: Nature 464, 908-912 (8 April 2010)


そもそも、2009年にパンダの全ゲノムが解読された時から、彼らはセルロースを分解できる酵素の遺伝子は持っていないことが明らかになっていました。もちろん、ササと言ってもセルロースだけでできているわけではなく、中に含まれる細胞には、ごく少量のデンプンや脂肪やタンパク質が含まれていないわけではありません。遺伝子の解析からパンダは他のクマと同じように肉を食べて分解することができる酵素を持っていることもわかり、彼らはもともとは肉食もしていたことも示されていました。また、とてもおもしろいことに、彼らが肉をおいしいと感じる味覚受容体のタンパク質の機能を失っていることもわかり、肉を食べて分解できる能力はあるものの、肉をおいしいと思わないだろうとも言われていました。
パンダの糞の中にいる細菌のDNAを直接調べるという少々荒っぽい方法で、そこにいると推測される細菌を調べてみると、意外と少数種の細菌しかいないことと論文に書いてあります。

今年の2月に出たNew Scientistに出ていた「Going vegetarian is tough – even for the panda (パンダにとってもベジタリアンでいるのは結構つらい)」という記事に面白いことが書いてありました。
主に肉食生活をしていたパンダの祖先がササを食べ始めたのは700万年前くらいだったようです。そして200万年前くらいまでには肉食を止めたと考えられています。彼らが肉の味の感覚を失ったのは420万年前のことでしたが、その後しばらくはおいしいと思わなくとも200万年前くらいまでは肉食も続けていたようで、そのくらいベジタリアンだけで生きていくのはつらかったということかもしれません。
いま生きているジャイアントパンダには近縁種がいて、そのうちの一種は200万年前くらいに絶滅したピグミーパンダと呼ばれるもので、もう一種は10万年前くらいまでは生存していたようです。それらの化石の頭骨を調べてみると、200万年前のピグミーパンダはまだ完全に植物食には移行していなかったことがわかり、おそらくまだ肉食もしていたと考えられています。一方、10万年前くらいに滅びた近縁種のパンダの頭骨は現存のパンダとそっくりな形をしていて、すでに植物食への移行が完成していたと考えられます。
昨日出たNational Geographic Daily News 「How Do Giant Pandas Survive on Bamboo?」によると、パンダが草食を始めたのは、おそらくヒトを含めたほかの動物たちに生存域を高地へと追われ、食べるための動物が手に入らなくなったせいではないかということです。おまけに、パンダは1日に食べる9-14キログラムのササのうちたった20-30%しか分解消化していないのだそうで、あののろまな運動性はそのせいで獲得されたのかもしれないと書いてありました。
そう考えると、パンダは他の肉食動物との競争を避けて、のんびりとササを食べて生き延びてこられたのはかなりの幸運だったと言えそうです。
そういう平和志向の動物だから、世界中の動物園で愛されるのかもしれませんね。
【追記】 そういえば去年、Nature誌に日本人の腸内細菌には海苔の持つ多糖類を分解する酵素を持ったものがあるという論文が出てました。
Japanese Guts Are Adapted to Sushi
Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota: Nature 464, 908-912 (8 April 2010)

前に何十年もチョコバーしか食ってないイギリス人の腸内から
チョコの栄養分だけで人間に必要なエネルギーを作る細菌が検出されたとか言う記事を見たような気がする
生き物ってすげーね
チョコの栄養分だけで人間に必要なエネルギーを作る細菌が検出されたとか言う記事を見たような気がする
生き物ってすげーね
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by stochinai
| 2011-10-19 19:43
| 生物学
|
Comments(3)