5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

食のリテラシー

 野菜や果物をたくさん食べても大腸がんの予防にはつながらないというニュースが、おもしろおかしく報道されています。野菜・果物が苦手な私が喜ぶと思っている人が、周囲にたくさんいます。しかし、私の率直な感想は、うれしくもなんともない、です。そもそも、野菜や果物が大腸がん予防になるなどということを信用していなかったから、ということもあります。

 同じように、和風レインコート・サル男(蓑・モンチッチ)の出演するテレビ番組に代表される、これを食うとこうなる式の安易に健康と特定の食品とを因果関係でつなぐバラエティを普段から苦々しく思っていたことと、このニュースがどこかでつながるような気がして気が重いということも、素直にニュースを受け止められない理由の一つなのかもしれません。

 それはともかく、今回の調査結果は、1990年に全国の40~69歳の男女約9万人を対象に食事や喫煙などの生活習慣に関するアンケートを実施し、約10年間追跡したといいますから、いわゆる疫学的調査としての数は十分だと思います。で、この10年間に、705人が大腸がんになったというのですが、野菜でも果物でも、最もよく食べるグループと最も少ないグループとの間で、大腸がんの発生率に差はなかったというのが結論です。

 この調査と結論に関しては、いろいろ感ずることがあります。まず、アンケートで野菜や果物をたくさんとるか、あまりとらないかということを聞いたというところが、ちょっと不安です。たくさんとか、あまりとか、って素人が感じるままに答えるのと、実際に何グラム食べているかっていうのはずいぶん違わないかな、というのが最初に受けた感想です。

 そもそも、こんなアンケート調査で野菜や果物の摂取と大腸がんの関係を言い切ってしまうというところが納得できないところです。あまり食べていないと申告した人だって意外と食べているのではないか、特に10年間のスパンで見たらほとんど食べなかった人なんて、いるものでしょうか。それに、世の中にはいろいろな食べ物がありますので、野菜や果物を食べているという意識がなくても、かなりたくさん口にはいってしまうのが、今の日本の食環境ではないでしょうか。

 上に挙げた健康番組でもそうですが、野菜や果物、肉やキノコなどなど、あらゆる食品は別に特定の病気を予防するために食べているわけではないはずです。一番には、空腹を満足させるため、次にはおいしいと思いながら楽しむために食事と言うものがあるのではないでしょうか。そして、バランスの良い食生活をしないとからだの調子がおかしくなってくる可能性があるので、そういうことに注意しながら毎日の食事を考える。病気との関係は、考えたとしてもその後ではないかと思います。

 私はやっぱり、普段の食事はやはりおいしく食べて楽しみたいと思います。栄養になるからとか、病気にならないからとか言いながら無理をしてまで、いやいやでも食べなければならないのが食事だというのなら、完全栄養の合成食品にしてしまってはどうでしょう。

 野菜嫌いの私でも、野菜や果物に含まれるビタミン類や繊維質が足りないと体調が悪くなって、そういうものが欲しくなります。これには、食品と健康との科学的知識が必要かもしれません。でも、イヌやネコのように知識のない動物でも、体調によってはいろんなもの(たとえば草)なんかを食べたりもしますので、意外と「からだが要求する」ということもあるのかもしれません。もしも本当に、食事が原因で死ぬというようなバランスの悪いことを続けることができるのだとしたら、その時点ですでに脳がやられているような気もします。

 からだの調子を知覚することのできる感性と、どんな調子の時にはどのようなものを食べると良いのかという知識は必要だと思います。それが、食のリテラシーだと思います。
Commented by Dr. Jason at 2005-05-11 08:15 x
 年齢や地域によって,野菜や果物の「沢山」「あまり」が有意なほど違うことは,ある程度はっきりしてると思います.

 私の叔父は,「あまり」野菜を食べない食生活で,もろに,大腸がんになり,手術しました.年齢の近い妹である母親がみても,昔から,「あまり」野菜は食べていないらしい.
Commented by stochinai at 2005-05-11 13:24
 医学と生物学の違いのひとつは、医学では一例ずつが大きなインパクトを持つということかもしれません。そこでは、実際に見聞きしたエピソードと、科学的因果関係がしばしばごっちゃになります。
 叔父上の場合も、野菜を食べなかったことと大腸がんを発症したことの因果関係は、生物学的にはなんとも言えないとしても、医学的にはかなり大きな意味を与えられる可能性があると思います。

 そういうことがあるので、このたび疫学的調査をしたのでしょう。疫学的調査は統計処理が基本ですので、そこで「野菜は大腸がんと関係ない」と言われても、「いや、うちの叔父さんの例がある」という立場も残ってしまうのではないかと思います。
 いずれにせよ、大腸がんがどのように発症するのかがはっきりしない以上、野菜との関係は強くないと言われても、じゃあ何が関係あるのか教えて欲しいというのが人情というものではないでしょうか。
by stochinai | 2005-05-10 23:34 | つぶやき | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai