5号館を出て

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甘みを捨てた肉食獣たち

 ネコがどうも甘いものに引かれないということは1970年代の行動学的研究から知られていたことなのだそうですが、我が家にいる一匹のネコはハチミツのかかったヨーグルトとか、アイスクリームとか甘いものが好きみたいに思えます。
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 そういうものを食べた後で、満足して眠る武蔵丸です。

 もう一匹のネコはまったく甘いものには興味を示さないのですが、海苔には狂ったように襲いかかってきます。
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 まあ、ヒトにも甘党や辛党があるよう、ネコもそんなものなのではないかと思っていたら、いやいや「ネコは甘さを感じることができないのだ」という記事が出ていました。 (「甘党よ。サヨウナラ」)
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 実はすでに2005年頃に出た論文に、ネコでは甘みを感じるレセプタータンパク質遺伝子が壊れてしまっているため、そもそも甘みを感じることができないはずだということがわかったと書かれています。

Pseudogenization of a Sweet-Receptor Gene Accounts for Cats' Indifference toward Sugar (PLoS Genet, 1(e3):0027-35, 2005)

 同じ研究者たちが、この度いろいろな肉食の哺乳類(イヌ・ネコ科)の動物を調べたところ、なんとそのうちの7種の動物がネコと同じように甘みを感じるレセプタータンパク質遺伝子が壊れてしまっていることが示されました。
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 いろいろな動物の遺伝子を調べただけなので、中身はとてもわかりやすい論文です。

Published online before print March 12, 2012, doi: 10.1073/pnas.1118360109
PNAS March 12, 2012


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 これで赤い星で示されているところに遺伝子変異がはいって機能を失っているようです。

 一番最初のイヌ(甘いものが好きです)ではまったく正常ですが、その下のアシカ、オットセイ、アザラシ、右側にいるアジアカワウソ、ブチハイエナ、フォッサ、ジャコウネコの仲間ではすべて、遺伝子が壊れています。

 調べたものの中で、正常な甘み遺伝子をもっているものと、壊れているものを系統樹の上で示すとこのようになります。
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 上側の枝にネコ科、下側の枝にイヌ科がいますが、基本的に肉食獣あるいはかつて肉食獣だったもの(パンダなど)です、その中で一番上のネコをはじめダイヤマーク(灰色が昔の論文の結果、赤が今回の論文の結果)のついているものが、甘みレセプターがダメになっている動物です。

 これらの動物の多くは肉食であるだけではなく、獲物をまるのみにしてしまうという共通点があり、味わうことなく獲物を飲み込んでしまうという捕食パターンが味わう遺伝子の変異を起こす原因(あるいは変異が起こっても起こらなくても関係無いので変異を持った個体もそうでない個体と同様に生き続ける)になっていると考えられ、オットセイでは甘みだけではなく同じ遺伝子グループの旨み遺伝子までもが壊れてしまっているとのことです。

 この図にはありませんが、まったく別のグループの哺乳類であるハンドウイルカでもオットセイと同じように甘み・旨みレセプター遺伝子が全部ダメになっており、肉食丸呑み系の動物では他にも食べ物を味わうためのレセプター遺伝子がダメになっているものがありそうです。

 どっちが原因か結果かはわかりませんが、口の中に食べ物を入れた時に味がしなかったら丸呑みしたくなる気持ちはわかるような気がします。

 動物園や水族館でイルカやオットセイがサカナを丸呑みにしている理由がわかったような気がします。また、うちのネコたちが食べ物をよく噛まずに丸呑みにしてしまっていることもよくわかりました。

 味わうことを忘れると、味わうための遺伝子があってもなくても関係ないということですね。いいのか、悪いのか・・・。
by stochinai | 2012-03-15 19:54 | 生物学 | Comments(0)

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