5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

【新刊】水月昭道「他力本願のすすめ」

 著書の謹呈を受けました。ありがとうございました。

 他力本願のすすめ (朝日新書) [新書]
【新刊】水月昭道「他力本願のすすめ」_c0025115_1761252.jpg


 今やすっかり有名になったポスドク経験者で僧侶でもある、水月昭道さんの新著です。水月さんは現在は、筑紫女学園というところで事務職員をなさっているそうです。

 今まで水月さんの出されたポスドク関係の本は、するどく大学や社会を糾弾するものばかりでした。

 高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書) [2007]

 アカデミア・サバイバル―「高学歴ワーキングプア」から抜け出す (中公新書ラクレ) [2009]

 ホームレス博士 派遣村・ブラック企業化する大学院 (光文社新書) [2010]

 今回の著書はそれらの攻撃的な姿勢と比べると驚くほど静かな、まさに僧侶としての水月さんの法話とでもいう一冊です。

 「まえがき」に内容が凝縮されているので、書いてあることをつまみ食いしたいのであれば、まえがきを読むだけで済んでしまうと言えなくもありません。


・・・異なる学校を渡り歩いてみて、ふと思ったことがある。
「学校とは本当に『自力』が好きなんだな」と。
 実際、そこでは毎日のように「頑張れ」「努力が大事」「夢を追いかける」という掛け声が、若い学生に対してかけられている。

 学校とは、ご存じのように、努力することの大切さを教える場である。
 だから勢い、「頑張りさえすれば”必ず”道が拓ける!」となってしまう。

半分ウソ、とわかっていても、学校には、どこまでも表向きの言葉を必要とするいう悲しい現実がある。

 だが、現実がそう甘いものでないことは、いい大人であれば誰だって知っている。

「なりたい自分」になれなかった、つまり、挫折や失敗に直面したときに、心を支えてくれる「考え方」が「頑張れ!」以外に全くないからではなかろうか。それどころか、場合によっては「自己責任」と追い詰められる。

 努力は大切だ。これは間違いない。ただそうだとしても、ひとつだけどうしても拭えない心配もあるではないか。
「万一、うまくいかなかった時には、どうすればいい?」
 どれほど頑張ってみたとしても、いつも必ずうまくいくとは限らないのが人生のつらいところだ。

「どうすれば、己は救われるのか」
 親鸞さんは、あらゆる手立てを使ってここを執拗に追求してみせた。
 比叡山での長く厳しい修行の果てに、ようやく導かれた一つの答は、「(自力を頼っての)修行だけでは、いつ救われるかわからない・・・・・・」だったから、ちょっと面白い。いや、興味深い・・・・・・。
 だがそれが、後の悟り---「他力(思想)」の発見に繋がっていく。


 というわけで、ポスドクの置かれた理不尽な状況を、力づくの「自己責任」ではなく、自然体で自分の置かれた状況を受け入れる「他力本願」という思想によって「乗り越える」ことができるのではないかという提言でもあります。

 「現実に負けたから宗教へ逃げるのか」という意見もありうると思いますが、宗教が人の命を救うこともできるということを語りかけてくれるアドバイスにもなっていると思います。

 「そういうことが書いてあるのね」と読まないでわかったような気になることもできますが、じっくりと読むことによって穏やかな心を得られるのだとしたら、十分に役に立つ「心の薬」になってくれるかもしれません。

 読んでみますか?
by stochinai | 2012-03-19 20:00 | ポスドク・博士 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai