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シロクマとヒグマの分岐は考えられていたよりずっと古かった

 今日のサイエンスの表紙は水面に映る自分を眺めるナルシス・シロクマです。
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 というわけで、今日発行されたScienceには、シロクマ(ホッキョクグマ polar bear)の進化についての論文が載っています。

Science 20 April 2012:
Vol. 336 no. 6079 pp. 344-347
DOI: 10.1126/science.1216424
REPORT
Nuclear Genomic Sequences Reveal that Polar Bears Are an Old and Distinct Bear Lineage
Frank Hailer, Verena E. Kutschera, Björn M. Hallström, Denise Klassert, Steven R. Fain, Jennifer A. Leonard, Ulfur Arnason, Axel Janke


 中身は意外とわかりやすいもので、ミトコンドリアの遺伝子で調べた結果から、これまではシロクマとブラウン・ベア brown bear(ヒグマ)は11万年から17万年前に種として分化したと考えられていただけではなく、系統樹でみるとシロクマはブラウン・ベアの枝の中にはいってしまうとされてきました。
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 ミトコンドリアの遺伝子は卵を通じて遺伝しますので、母系の系統しか知ることができません。そこで、今回の論文ではミトコンドリアではなく核の中にある遺伝子を比較してみたところ、シロクマとブラウン・ベアの分岐は34万年から93万年(約60万年)前に起こったという結果が得られたということです。
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 Scienceの論文も随分とフレンドリーな図を使うようになったものだというのはさておき、この系統図を見るとシロクマはブラウン・ベアの一系統などではなく、もともと別の系統として種分化していたことが示されています。

 だったらミトコンドリアの遺伝子で得られていた結果はどういうことなのかという疑問が生じますが、それについてはシロクマとブラウン・ベアの「交雑」が起こったことと、交雑が起こった前後にもともとのシロクマ集団が絶滅したことが原因だったのではないかと考察しています。
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 現在、絶滅が危惧されているシロクマの遺伝的多様性があまり高くないことも、このもともとの集団の絶滅と、交雑した個体だけが生き残ったというシナリオを考えると説明できるとしているようです。

 こういう論文には一般ジャーナズムも食いつきが良いもので、BBCNews(科学・環境)でも取り上げられていました。

DNA reveals polar bear's ancient origins
By Helen Briggs
BBC News


 さすがに、こちらの記事にはかわいい写真も添えられています。
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 60万年前から生きてきたのだとすると、シロクマは今よりも暖かい地球環境を何回か乗り越えてきたということが推測されます。今くらいの温暖化には負けないで生き延びて欲しいものです。
by stochinai | 2012-04-20 20:44 | 生物学 | Comments(0)

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