5号館を出て

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ウイルスは退化しているもののやはり生物だった

 私は持論として「ウイルスは生物」です。もちろん教科書にははっきりと「生物ではない」と書かれたものがまだまだ多いですから、試験に出た時には「ウイルスは生物ではないと考えられている」と書いておいたほうが無難なのですが、その「常識」を根底から覆すような論文が出ました。

Giant viruses coexisted with the cellular ancestors and represent a distinct supergroup along with superkingdoms Archaea, Bacteria and Eukarya

Arshan Nasir, Kyung Mo Kim and Gustavo Caetano-Anolles

BMC Evolutionary Biology 2012, 12:156 doi:10.1186/1471-2148-12-156
Published: 24 August 2012


 オープンアクセスの雑誌に載っていたのが1月ほど前のことで、私のところにもメールで新着論文案内が届いているはずだったのですが、このおとなしいタイトルのせいか私はすっかり見逃しておりました。直訳してみると「巨大ウイルスは細胞性の生物と共存していた時代があり、現存の生物である古細菌(アーキア)、細菌(バクテリア)そして各界の真核生物とははっきりと異なるサブグループを形成している」となりますが、センセーショナルなタイトルに変換すると「ウイルスはアーキア、バクテリア、そして真核生物と共通の祖先を持つひとつの大きな生物のグループ(界)を形成する」とでもなります。

 つまり、ウイルスが間違いなく我々と共通の生命の祖先から派生した生物であると宣言しているすごい論文なのです。

 それを見逃していた私の不明は恥じるしかないのですが、10日ほど前にそのすごさを解説した記事が出てようやく私の目も覚めました。

ScienceDaily
Science News ... from universities, journals, and other research organizations
Study of Giant Viruses Shakes Up Tree of Life


 こちらのタイトルは「巨大ウイルスの研究で系統樹が大揺れ」とでもいうもので、私でも充分に惹きつけられました。

 この研究は10年に満たない2003年から始まります。そのころは「ウイルスは生命を持たない」という常識を疑う人はほとんどいなかったのではないでしょうか。

 ヒトに感染して病気の原因になるアメーバに寄生する巨大なウイルスが発見されたのです。あまりにも巨大で光学顕微鏡でも見えるくらいだったので、最初は細菌だと思われていたようで、細菌に擬態 mimick しているので mimivirus ミミウイルスと名付けられました。
ウイルスは退化しているもののやはり生物だった_c0025115_18352519.jpg
SCIENCE VOL 299 28 MARCH 2003 2033

 上の写真のAの矢印のところにあるのがそのミミウイルスだそうですがよく見えません。Bは電子顕微鏡写真で左が小型の細菌で、右がミミウイルスですからまさに巨大です。大きさに比例して持っているDNAの量も多く、この図で青で示された自由生活性の原核生物についで3番目にあり、その後にある薄緑のバーは寄生性の原核生物です。原核生物も寄生生活によって遺伝子が減少します。
ウイルスは退化しているもののやはり生物だった_c0025115_18422624.jpg
 ESV以下、普通のウイルスの持っている遺伝子量と比べるとミミウイルスのもつDNA量が膨大であることがわかります。(Current Biology Vol 15 No 5 R168 DOI: 10.1016/j.cub.2005.02.042)

 このDNAに載っている遺伝子がまた不思議で、今まではどんなウイルスにも見つかっていなかった、DNAの修復に関係したもの、タンパク質の折り畳みに関係したもの、さらにはタンパク質の翻訳に使われる遺伝子までもがあることがわかりました。もちろん、こうした遺伝子は宿主の細胞から「盗んだ」可能性もあるのですが、近縁のウイルスが宿主とは関係なくよく似た遺伝子を持っていることもわかり共通祖先から受け継いだと考えても良いようです。

 さらに数年前には、このミミウイルスの仲間でさらに大型のママウイルスには、ウイルスに寄生するウイルス(ウイロファージ)というものまでがいることが発見され、ウイルスに寄生されるくらいなんだから、ひょっとするとこのミミウイルスは生命体(生物)なのではないかと主張する研究者も出始めました。

 というわけで今回の論文ですが、今までの研究者のように単純にDNAの塩基配列を比較するという方法ではなく、ウイルスや他の生物が共通に持つタンパク質の部分である「折れ曲がり folding」の立体構造を比較するという方法で系統関係を類推するということをやったところ、驚くべき結果が出たというわけです。
ウイルスは退化しているもののやはり生物だった_c0025115_1962710.jpg
 図の見方は私もよくわかりませんが、rootがウイルスのところにあり、そこからアーキアが分かれ、さらにバクテリアと真核生物が分かれてきたと見るのでしょうか。

 もちろん、長い寄生生活によって、ウイルスからはどんどん遺伝子が捨てられてしまっているので、よくわからなくなっているところがたくさんあるので、このあたりはまだまだ将来の研究によって変わってくる可能性は高いと思いますが、今回の研究の最大の成果は、ウイルスが他の生物と共通の祖先をもち、そこからひとつの生物グループとして独立して進化してきた可能性が高いことを示したことだと思います。

 私の直感としては、このストーリーつまりウイルスも生物の仲間であるということはもう逆戻りすることはなく、近い将来あらゆる生物の教科書が書き換えられるだろうと期待も含めて思っています。

 それにしても、タンパク質の部分の立体構造を比較して進化を探るなどというのは、コンピューターの進歩がなければできなかったことでしょうね。

 楽しい話だと思いました。
Commented by にゃんこ親父 at 2014-04-08 00:09 x
私も生物の話好きで最近よくネットで読んでます。
「生きてる」の定義はともかくDNA、RNAと生物との共通点があるにもかかわらず系統分類のドメインに出てこないのは納得いかないとつねづね思ってました。
生命の起源とその進化についてはまだまだ謎ばっかりです。
そのうちウィルスも生命進化の系統に組み込まれると私も思ってます。
Commented by stochinai at 2014-04-08 07:04
コメント、ありがとうございました。私も生物の世界はまだまだ謎ばかりだと感じています。
これからもよろしくお願いします。
by stochinai | 2012-09-25 19:31 | 生物学 | Comments(2)

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