2012年 10月 08日
ノーベル医学生理学賞【追記】ノーベル財団の図
夕方に突然、臨時ニュースが入りました。今年の生理学または医学分野のノーベル賞(日本ではなぜか「ノーベル医学生理学賞」と呼ばれています)が、イギリスのジョン・ガードンと日本の山中伸弥さんに与えられることに決まったそうです。
受賞理由は "for the discovery that mature cells can be reprogrammed to become pluripotent" ということですが、訳すると「成熟(分化)した細胞が再プログラムされて多能性を持った細胞になりうることの発見」となり、山中さんの発見には適切ですが、分化した細胞の核を移植して完全なオタマジャクシを発生させたガードンの研究はもっと幅広い意味を持っているものです。
実はこの二人は2009年にも「ラスカー賞」を共同受賞していたので、ある意味ではノー・サプライズのノーベル賞でした。その時の授賞理由は For discoveries concerning nuclear reprogramming, the process that instructs specialized adult cells to form early stem cells — creating the potential to become any type of mature cell for experimental or therapeutic purposes. でした。こちらを訳すると、「分化した成体の細胞に初期胚の幹細胞へと戻るプロセスを指示する核の再プログラムに関する発見に対して賞を与える」となっており、その後に「このようにしてできた幹細胞は、実験や治療に利用可能などのような細胞にでも分化できるものである」と追記されています。
ガードンの行ったカエルの核移植実験は、高校の教科書にも書いてありますが、ガードンよりもはるか昔にブリッグスとキングという研究者が成功されていたことも忘れてはならないことでしょう。ラスカー賞の発表サイトには核移植実験の図が提示されていますが、残念ながらこれは哺乳類の図になっていて、ガードンのやったカエルとはちょっと違うようです。
そしてこちらが山中さんのiPS細胞の実験です。ここではiPS細胞を別の初期胚に移植することで、iPS細胞から生殖細胞が作られ、その生殖細胞からiPS細胞由来のネズミができたという実験の解説図になっています。
いずれにしても、それほど大きく誤解しているというわけではなく、基本的にはどちらの研究も大人のからだを作っているすべての細胞が持っている核には一個体の生物(カエルであれ、ネズミであれ、ヒツジであれ、ヒトであれ)を作ることのできるすべての遺伝子セット(ゲノム)が保持されているので、適切な処理によってまた最初から新しい個体を作らせることが可能であるということを示したという意味で大発見なのです。
【追記】数々の動物のクローン作成につながったガードンのカエルの核移植実験と、山中さんのiPS細胞実験、そして今後期待されるiPS細胞を使った「再生医療」を示した簡潔でわかりやすい図がノーベル財団から出されました(ぜのぱすさん、ありがとうございました。)
もちろん、応用への道のりはまだまだ遠く、さらにはクローン動物が想像以上に簡単に作られてしまうことが示されている以上、それに対する我々人類の倫理的対応という意味でも越えなければならない課題をたくさん作ってくれた大発見でもあるわけです。
これらの技術が簡単に応用可能になる時、その技術を使うべきかどうか、あるいはどう使うべきなのか、それを決めるのはもはや生物学者だけに任せておいて良いことではなく、すべての人類が全員で考えるべき宿題なのです。
完全なる人災も含めて、「想定外」という言葉で言い表されるような惨事が起こらないとも言えない可能性をはらんだ技術であるということを、ここでもう一度確認しておく必要があると思います。
実はこの二人は2009年にも「ラスカー賞」を共同受賞していたので、ある意味ではノー・サプライズのノーベル賞でした。その時の授賞理由は For discoveries concerning nuclear reprogramming, the process that instructs specialized adult cells to form early stem cells — creating the potential to become any type of mature cell for experimental or therapeutic purposes. でした。こちらを訳すると、「分化した成体の細胞に初期胚の幹細胞へと戻るプロセスを指示する核の再プログラムに関する発見に対して賞を与える」となっており、その後に「このようにしてできた幹細胞は、実験や治療に利用可能などのような細胞にでも分化できるものである」と追記されています。
ガードンの行ったカエルの核移植実験は、高校の教科書にも書いてありますが、ガードンよりもはるか昔にブリッグスとキングという研究者が成功されていたことも忘れてはならないことでしょう。ラスカー賞の発表サイトには核移植実験の図が提示されていますが、残念ながらこれは哺乳類の図になっていて、ガードンのやったカエルとはちょっと違うようです。
【追記】数々の動物のクローン作成につながったガードンのカエルの核移植実験と、山中さんのiPS細胞実験、そして今後期待されるiPS細胞を使った「再生医療」を示した簡潔でわかりやすい図がノーベル財団から出されました(ぜのぱすさん、ありがとうございました。)
もちろん、応用への道のりはまだまだ遠く、さらにはクローン動物が想像以上に簡単に作られてしまうことが示されている以上、それに対する我々人類の倫理的対応という意味でも越えなければならない課題をたくさん作ってくれた大発見でもあるわけです。
これらの技術が簡単に応用可能になる時、その技術を使うべきかどうか、あるいはどう使うべきなのか、それを決めるのはもはや生物学者だけに任せておいて良いことではなく、すべての人類が全員で考えるべき宿題なのです。
完全なる人災も含めて、「想定外」という言葉で言い表されるような惨事が起こらないとも言えない可能性をはらんだ技術であるということを、ここでもう一度確認しておく必要があると思います。
by stochinai
| 2012-10-08 21:12
| 生物学
|
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