5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

Campus Visit (空しい広報活動)

 大学の広報活動の一環として、高校生の大学訪問(Campus visit)という制度があるらしく、今日は頼まれて4名の高校生に研究室をお見せしました。

 午後1時20分頃、理学部旧館(博物館)の正面玄関まで迎えに出て欲しいという依頼があったので、出かけてみると高校生が何人かたむろして、守衛さんと押し問答をしています。守衛さんは高校生が来るなどということはいっさい知らされていないらしく、高校生の質問に「で、誰、何先生に会いに来たの」などと質問をしています。高校生達も、こちらの受け入れ態勢などは全然知らないらしく、まったく話が通じていない感じです。

 博物館の入り口に生徒さん達を迎えに行く途中で、たまたま理学部の窓口になっているはずの教務係長のTさんにお会いしたので、話はきちんと進んでいるのだと思って、高校生に「岐阜のT高校の生徒さん達ですか。理学部訪問ですよね」と訊くと、そうですということだったので守衛さんに事情を説明して、一件落着。

 ところが、予定の1時半になっても教務係長が現れず、生物と同じく受け入れを頼まれている物理の先生が、係長を呼びに行ってくださるということなのでお願いして、待っていましたがミイラ取りがミイラになったみたいで、ふたりともなかなか来ません。

 なんだか、悪い予感のする始まりでした。

 しらばくすると、係長さんと物理の先生が高校生に渡す資料を持って登場。係長さんからは「特に何も決まっていないので、適当にお願いします」とのことで、生徒さん達を任されてしまいました。

 う~ん、これはかなりいい加減だぞ、と思いながらも生物科学科でもう一人受け入れを頼まれているN先生と二人で、4名の生徒さんをつれて、研究室へと戻りました。

 途中、歩きながらいろいろと訊いてみました。

 「今日の予定はどうなってるの。この後、何時までにどこに行けばいいの。」

 「たぶん、来る前に集まったところに行けばいいんだと思いますが、何時かは訊いていません」

 高校側も、かなりいい加減と見えます。

 「君たちの高校から北大を受ける人ってどのくらいいるの」

 「全然いないと思います。今までも、北大に来た人がいるとは聞いたことがありません」

 「君たちは、北大に興味があるの」

 「特に、そういうこともないんですけど、、、」

 「北大を受けようとか思ってないの」

 「思っていません」

 おいおい、いったい君たちは何をしに来たんだい。

 「何か訊きたいこととかある。入試のこととか、AOのこととか、、、」

 「別にありません」

 「生物とか好きなの」

 「特にそういうこともありません」

 研究室を案内しても、特に強い興味を示すわけでもなく、いろんな動物を見せたり、実験の話をしてあげても、なんだか反応がにぶいのです。夏に行われる高校生の体験入学の生徒さん達とのエライ違いに、こちらもだんだんとエネルギーを失って行きます。

 どうも、いろいろと話を聞いて推測してみるに(私の勝手な想像も多いのですが)、この岐阜県のT高校では、北海道の修学旅行に来たものの自由行動をさせて問題が起こるよりは、大学の見学でもさせておけば、とりあえず事故も起こらないだろうし、あわよくばそこで何か刺激を受けて大学への情熱でもいてくれれば儲けもの、というような程度の軽い気持ちで彼らを送り込んで来たことは、ほぼ間違いないと思われました。

 体の良い、手抜きですね。

 それでなければ、これほどの予備知識も情熱もない高校生を、引率する先生もなしに理学部へ送り込んでくるなどという無責任なことはできないと思いました。

 こういう時代ですから、大学としては広報活動という名のサービスをすることで文科省の覚えを良くしておきたいという気持ちも強いですから、高校から要望があればなかなか断れないのだと思います。

 しかし、大学側も特に一所懸命やる気もないし(我々に丸投げです)、高校側もなんの準備もしてこないという状況の中、間に立って実際に何かをやらされる我々がたまったものではありません。

 これでは高校生にも大学にも何にも良いことがないと思いました。

 どうせやるんならもっとしっかりとやりたいし、そうでないならやめませんか > 学長

 こんなことをやっている間も、もっともっと意味のある生産的教育研究活動が阻害されているということはわかりますよね。

 結局、教務のT係長だって通常業務だけでもメチャメチャ忙しい上に、こんなことにまでつきあわされてかなわんと思っておられるに違いないと思います。私たちも、充実感のないサービス業務をさせられては徒労感しか残りません。結局、喜んだのは生徒達から解放された修学旅行引率の先生達と、大学の広報担当だけじゃないんでしょうか。これを、大学の業績として認めるなんぞということだと、文科省の監督責任も問われかねません。

 困ったものです。

追記:トラックバックをしていただいた「医学教育のひろば」さんによると、気持ち悪いくらい同じことが東大でも行われているようです。そうすると、そういうことをさせている原因はその上の文科省あたりにあると推測するのが「科学的推論」ということになりますか。
Commented by 花見月 at 2005-05-23 21:51 x
残念だー!
専門的な経験と知識をたくさん蓄えている大学の研究者に
勤務時間中に幼稚園児のお守りのような時間つぶしをさせるなんて、
残念です。
わざわざ岐阜から北海道にやってきて、
特に関心もないことに時間を使って帰る高校生も残念です。

高校生には、事前に勉強をさせて、訪問する施設に自分で
訪問の主旨とお願いの手紙を送らせてから来るぐらいでないと、
ただぼんやり来たって何の意味もありませんね。
Commented by kiyoaki.nemoto at 2005-05-23 23:06
そんな良い制度が出来たんですね!
全く無駄にも使えちゃうんですねぇ。いやはや・・・。
Commented by stochinai at 2005-05-24 17:40
 まったくです。うまく運用されればすばらしい制度だと私も思うのですが、企画も責任も全然見あたりませんので、いろんなものの無駄遣いになってしまっています。
 何よりも無駄になっているのが、大学を指させている人的資源であるという自覚が経営陣にあるかどうか、、、、。
Commented by inoue0 at 2005-05-31 18:24
トラックバックしておきました。
東大でも「体験学習」の被害にあっているようです。
研究者以外に大学の研究室なんか見せても、見ておもしろいことなんて何もないし、専門外の人に話を聞かせても理解できるわけがないんです。私が哲学科のゼミナールを見ても寝てしまうようなものですね。
Commented by stochinai at 2005-05-31 20:43
 そうなんですよ。生徒さんが自主的に「是非見てみたい」というのなら、実りも多いことが多いのですが、高校側が「大学でも見せたら、うちの生徒も少しはやる気が出るかも知れない」などという安易な気持ちだと、絶対に失敗しますね。我々も大被害なわけです。長い目で見ると、大学も文科省も日本としても損失なんですけど、とりあえずは大学は文科省に対するアリバイ作りに成功するということになります。
 こういう仕組みの「行事」って、実はものすごく多いのではないかと思います。こうしたものこそリストラしなければならないはずなのに、リストラの名の下に増えているんですから、、、、、、ため息です。
Commented by inoue0 at 2005-06-01 17:47
 北大でも東大でも進路振り分けがあるし、ない大学であっても、どのコースを選ぶか、どの講座に所属するかについては、懇切丁寧なオリエンテーションが必要でしょう。また、オリエンテーションそのものが、大学に入って虚脱している人に、やる気を出させる可能性もあるわけです。
 だとしたら、大学教員がまずやるべきは、すでに大学に入った1年生向けのオリエンテーションであり、入学予定すらない外部への広報活動は、二の次ではないかと思います。
Commented by stochinai at 2005-06-01 23:33
  inoue0さん、たくさんのコメントおよびTBありがとうございます。この件についても、私は基本的にinoue0さんの意見に賛成します。
 ただし、「オリエンテーション」が新入生勧誘のための嘘八百つき放題という現状もなんとかしなくてはならないと思っています。どうも、研究者というものは自分の研究が成就することが絶対の善だと思っている人が多いようで、学生をだますことをなんとも思っていない人が多いのも困ったことだと思っています。
 いろいろとつぶさなくてはならない相手が多くて、なかなか大変なのです。
Commented by inoue0 at 2005-06-02 15:01
 私が話を引用した東大大学院教授は、新設薬科大学がウソをついて学生を勧誘したあげく、就職先の用意もできず、卒業生が職にあぶれることを憂慮しています。現在だって、薬学部卒業生の半分以上は薬剤師の職には就いていないのです。
 そうした新設薬科大学で就職して禄を食んでいるのは東大の卒業生だったりするわけですが、立場上、口が裂けても、「君らが卒業するころには薬剤師はあふれていて、就職先はないよ」とは言えないんです。
Commented by stochinai at 2005-06-03 00:07
 それは、実はどこにでもある話なのだと思います。今時の学生は先生にだまされないようなリテラシーも身につける必要があるのだと思います。やっている方には、ほとんど罪悪感がないことも多く、場合によっては詐欺罪で告発するとかしないと、直らないやつもいるのです。日本はだまされる方も悪いという文化があるので、なかなか改まりませんね。
by stochinai | 2005-05-23 20:54 | 大学・高等教育 | Comments(9)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai