5号館を出て

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PeerJ 発進

 オープンアクセス科学雑誌の真打かと期待されていた(というか私が煽った?)PeerJがついに論文を刊行し始めました。日本時間の今日13日(欧米時間だと昨日12日)、ウェブ上には30編の生物学・医学関連の論文が並びました。

 科学雑誌というのは内容さえしっかりしていればいいのかというと、生物や医学といった「形」が重要な学問分野では、その「見た目」がかなり大事だと私は思っています。そういう意味でもPeerJのトップページの第一印象は悪くないと思います。
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 PLoS ONE にインスパイアされたと言っているだけあって、科学的にきちんと書かれた論文ならばどんどん載せていくというポリシーを持っているとのことですが、そうは言ってもやはり話題になるような論文を載せていくことは読んでくれる人が増えることを意味しますし、読んでくれる人や話題になることが多い雑誌だと投稿する人が増えるという良い循環をうむものですから、そこのところを意識していないはずはありません。

 トップページの最初に出ている骨の図が今回のリリースの目玉と考えられている論文でしょう。

Why sauropods had long necks; and why giraffes have short necks
なぜ竜脚類恐竜の首は長いのか; そしてなぜキリンの首は短いのか


 という意味深なタイトルで我々の興味を引きつけます。古典的な学術雑誌ならばおそらくこういうタイトルの付け方はせずに「竜脚類恐竜の首がキリンの首よりはるか長いことの解剖学的解析」というようなものになったことでしょう。

 こうしたことからも、この雑誌がガチガチの科学論文専門誌というよりは、無料で購読できることからおそらくたくさんいるであろう非専門家の読者をも想定していることがわかります。新しい時代の科学専門誌の方向としては完全に正しいと、私は思います。

 さて、この論文ですが図もお硬くありません。
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 竜脚類以外の化石や現存のキリンやダチョウの首を化石爬虫類やヒトの首と並べてみます。これでも結構長いと感じるものですが、この図を縮小して竜脚類恐竜の首と並べた図もあります。
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 ひと目でその長さを実感できます。

 とてつもなく長いことがよくわかります。

 では、そんなに長い構造を物理的に可能にしている解剖学的根拠はなんでしょう。著者たちは、それが空気の入ったスペースのたくさんある骨と、筋肉の間にもたくさん分布する空気の袋(気嚢)だと考えています。

 ダチョウと首長恐竜の首の断面図を比較してみましょう。
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 一番左がダチョウの首のCTスキャン断面図で、真ん中は従来考えられていた首長恐竜の首の断面図です。灰色の部分が柔らかい筋肉や脂肪や皮膚で黒い部分が空気の袋部分です。ダチョウは生きているものなのでこれが真実の姿ですが、真ん中のものは「想像図」でこんなに細い骨の周りに筋肉などがこんなに厚くついていたら、とてもあの長い首を支えることはできないといいます。一番右が著者たちが考える正しい竜脚類恐竜の首の断面図で、骨の中にもそのまわりの軟組織にもたくさんの空気が含まれており、ダチョウよりもずっと比重のかるい首となっています。

 なるほど、ですね。

 これと比べるとキリンの首は、見るからにあまりにも太く、あまりにも重く、そして普通に短く感じられるから不思議です。

 専門家が書く論文がこれほどわかりやすく説得力があるものだと、「科学コミュニケーター」はいらないかもしれないと感じさせられる、次世代の論文だと思いました。

 もちろん、中にはしっかりと専門的なデータもたくさんあって、専門家の要求にも十分応えるものになっています。

 英語や専門用語の壁はありますが、絵や写真を眺めているだけでも楽しめる、新しい専門誌は全世界の人に無料で公開されているオープン・アクセス誌です。
by stochinai | 2013-02-13 19:55 | 生物学 | Comments(0)

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