5号館を出て

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「本当の自分」神話からの脱却

 連休の後半に入っても相変わらずの低温と曇天・雨天の続く札幌です。それでもこの連休に目鼻を付けておかなければ、いつまでたっても春の庭を迎えることができませんので、霧雨の中に作業を強行しました。まだまだ花はおろか、緑も少ない庭ですが守護神のアライグマとガマガエルとピーターラビット家族に出てきてもらいました。
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 連休で曜日感覚がなくなりつつありますが、今日は土曜日。

 来週の土曜日(11日)には、CoSTEP9期生(?)の開講式が予定されています。毎年、CoSTEPの開講式には意外な著名人が登場することが多いのですが、今年は劇作家・演出家として国内外で活躍されている平田オリザさん(なんと大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授でもあります)の講演会が開かれます。
わかりあえないことから

日 時:  2013年5月11日(土) 13:00~14:30(開場12:30)
会 場:  北海道大学理学部 大講堂
講 師:  平田オリザ氏 (劇作家・演出家/大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)
参加費:  無料
定 員:  約250人
主 催:  北海道大学CoSTEP
 是非とも、その講演会を聞きに行きたいと思っているのですが、実を言うと私は演劇には疎く(というよりは、はっきり言って苦手で)、平田さんの演劇はおろか著作もほとんど読んだことがありませんでしたので、遅ればせながらも予習の意味も兼ねて最新刊と思われる新書版を読んでみました。

わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書) [新書]
平田 オリザ (著)
価格:¥ 777


 現在、家に新しい本を増やさない運動を展開中の私としては、これがKindleで出ていることで大いに喜びそちらに飛びつきました。

わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書) [Kindle版]
平田オリザ (著)
Kindle 価格: ¥ 630


 読み慣れない人の本といういうものは、なかなか読み進めないものだと思いながらも、最後の6・7・8章あたりまできて、ようやく著者の言いたかったことに気がつき、スイスイと読み終わることができました。

 特に最後の最後の部分で出てくる次の文章に納得させられました。
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 一方、この文章にはどこかで出会っている気がしました。

 こちらをご覧ください。
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 下手をすると「盗作」と思われかねないほど似た文章です。こちらは、数カ月前に読んだ次の本の中にあったものです。

私とは何か 「個人」から「分人」へ (講談社現代新書) [Kindle版]
平野啓一郎 (著)
紙の本の価格: ¥ 777
Kindle 価格: ¥ 630 (税込)


 こちらは、本の真ん中あたりに出てきていますが、やはりこの著書の中でもっとも重要な「結論」と位置づけられる重要なポイントです。

 著作としてはどちらも講談社現代新書で、平野さんの本は2012/9/14刊で、平田さんのものは2012/10/18ですから、お互いに独立に執筆して期せずして文章までもが双子の兄弟のような結論に到達したものと考えても良いと思います。

 平田さん
本当の自分なんてない。私たちは、社会における様々な役割を演じ、その演じている役割の総体が自己を形成している。

 平野さん
たった一つの「本当の自分」など存在しない。裏を返して言うならば、対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」である。
 ふたりとも見事に同じことを言っていると思います。そして、この二人の文章に出会ったことで、私が昔から言い続けてきた持論である「相手が変わったら、こちらの言うことが変わることは当たり前」ということを支持してくれているように思えて、深く同感しているところなのです。

 平野さんの「分人」、そして平田さんの「様々な役割」、そして私の言うところの「相手次第で変わる自分」。

 これを認めることで、我々はこの世の中でずいぶん生き易くなるばかりでなく、状況に応じて臨機応変に変わることができるこそ、ヒトという動物が社会性を持って生きることに適応するために獲得した素晴らしい進化形質だということを言ってもいいような気がしてきました。

 予習のつもりが少し先走ってしまったかもしれませんが、平田オリザさんの講演が私がいま考えていることの確認の儀式となるような予感もしているところです。

 楽しみです。
Commented by 花見月 at 2013-05-04 23:09 x
エドガー・H・シャインという方が書いた「人を助けるとはどういうことか」という本にも、同様のことが書かれていました。「文明社会におけるあらゆる関係の大部分が、年少期に演じるすべを身につける、台本どおりの役割に基づいている…その役割はあまりにも本能的であるため、意識すらしない場合が多い。…中略…日常生活の普通のプロセスは、このような状況定義の連続だ」
Commented by stochinai at 2013-05-05 22:14
 大人になって、自分がたくさんの役割を演じていることを自覚した時に「本当の自分」はどれだと悩み、往々にして「自分探しの旅」などに出かけてしまうことになるのでしょうね。野生の動物ですら、狩りをする非情な肉食獣と、仔を育てる慈しみ深い母を、難なく演じ分けているのを見ると、ヒトの多重人格性も進化とともに獲得された「形質」なのだろうと思えます。
by stochinai | 2013-05-04 23:00 | コミュニケーション | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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