5号館を出て

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ツクシを見て思い出すワニの何度でも生え変わる歯

 ここ数日は、あちこちでたくさんのツクシを見ました。ツクシは意外と写真が撮りにくいのですが、なんとか撮った一枚です。
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 私はツクシを食べる趣味がないので、どんなにたくさん出てきてもうれしくはないのですが、今日出たPNASにツクシの頭によく似たワニの歯はどうして何度でも生えるのか(80本の歯がそれぞれ50回以上、事実上生きている限り無限に)という論文が出ていたのを思い出しました(PNAS)。
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 ゾウの歯も一生生え変わり続けるようで(コメント欄をごらんください、これは私の誤解のようです)、実はヒトやチンパンジーのように乳歯から永久歯へと1回だけ生え変わるという歯のほうが脊椎動物の中ではマイナーな存在のようです。

 そのワニの歯ですが、マイクロCTスキャンで見ると歯槽骨の中から生えている雰囲気は確かにヒトの歯とよく似ています。
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 こちらがヒトの歯が生え変わる時の模式図です。
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 そして、こちらがワニの歯です。
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 ヒトの乳歯が永久歯に生え変わる時と同じ入れ替わりが常に起こっていると考えれば、ヒトだって乳歯の生え変わりを何回でも起こせないことはないかもしれないと、ちょっとは思えてきます。

 そして、何度でも生え変わるワニの歯と一回だけのヒトの歯を差別化しているのが、ひょっとしたら図の中にピンクで描かれている dental lamina というものの差なのだとしたら、ヒトの歯の dental lamina をなんとか回復させてやることができたら、永久歯の生え変わりも夢ではないかもしれない、というような論文のようです。

 まあ、この論文はその「差」がどういうものかを記載しているだけで、それを回復させてやったり、ましてやもう一度歯を生え変わらせたりという実験をしているわけではないので、「まだまだ」という気はしますがヒトの歯を再生させるヒントをワニに求めるというあたりを、動物学者としての私は気に入っております。

 まずは、いろんな能力を持った動物を発見し、その能力を解析していくうちに、どこがどういうふうにヒトと違うのかを知ることはとても興味深い研究になると思います。

 ただその先が、私の興味は「どうしてヒトでは歯が一回しか生え変わらなくなったのか」が主なもので、「ヒトの歯を何回でも生え変わらせたい」とならないところが、「役に立たない研究者」と言われる所以なんでしょうね(笑)。
Commented by CJ at 2013-05-16 08:44 x
乳歯-永久歯の二段構えになったのは哺乳類進化の段階であり、これは咀嚼をするために歯列を固定する必要があったから、とされています。このために、哺乳類の寿命が永久歯の摩耗に決定されてしまう、という問題が生じてしまい、寿命をのばす様々な方法が考案されました。ゾウの歯もその1手法であります。ゾウの歯は水平交換、というやつで、永久歯が交換するというもので、交換回数も決まっています。
Commented by stochinai at 2013-05-16 19:22
 解説ありがとうございました。ゾウの6回というのは、寿命が限られているからかと誤解しておりました。確かに何回も生えてきたとしても、乱ぐい歯では使い物にならないことになりかねません。どうも、ヒトに適用しようという「再生医療」なるものは常にそういうトンチンカンと背中合わせになりそうな危惧を感じております。
by stochinai | 2013-05-15 20:12 | 生物学 | Comments(2)

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