5号館を出て

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マリンペスト

 「素敵な宇宙船地球号」という番組を見ました。

 タスマニアの海では、貨物船のバラストに運ばれて日本から移入されたマヒトデやワカメが大繁殖しているとのことです。

 海の害毒生物ということで、マリンペストと呼ばれています。

 皮肉なことにヒトデは、現地で日本人が経営しているホタテの養殖産業を壊滅的に破壊してしまったということでした。ホタテが日本から持ち込まれたものかどうかは聞き逃しましたが、マヒトデは日本産のものが移入されたものに間違いないようです。

 外国の地で、日本人と日本のヒトデが戦っていると聞くと、いろんな意味で複雑な思いがしました。

 さらに、タスマニアの海で日本に輸出するためとして大量のロブスターが捕獲された結果、ロブスターを天敵とするバフンウニが大量に増えて現地の海藻を壊滅的に食べてしまったそうです。そこに、ヒトデと同じように日本原産のワカメが大繁殖しているのだそうです。

 赤道を挟んで反対側にあるタスマニアの自然や産業に、日本という国がとても大きな影響を与え続けているということは初めて知りましたが、彼の地はもはや環境的にも産業的にも日本と密接につながっている地域になってしまったようです。

 いったん増えすぎてしまったヒトデは撲滅するのはとても無理ということで、ホタテの養殖から撤退すると日本の業者は言っていました。そして、今度はムール貝の繁殖にチャレンジするということです。次はまた違う外敵を殖やしそうな悪い予感がしました。

 ワカメに関しては、その根元の部分(メカブですね)に薬効成分があることを現地の研究者も認識しており、害藻から一転して薬藻になる可能性が出てきました。

 番組では出てきませんでしたが、増えすぎたウニも日本に輸出すれば良いのではないかと思いました。

 この番組を見ていて、人間の活動による世界中の動物・植物相の変化を止めることは、もはや不可能だと思いました。

 そのような拡散をできるだけ防ぐことを目指すことも、無駄だから止めた方が良いとまでは思いませんが、入ってしまった移入生物に関してはもとに戻すなどということを考えるよりは、もはやそこに居るものとして研究することと、できるならばそれらを積極的に利用することを考えるという方向を模索するのが建設的かもしれないと、ちょっと敗北的ではありますが、現実的なことを思わせられた番組でした。
Commented by 花見月 at 2005-06-13 11:12 x
「素敵な宇宙船地球号」というタイトルが
皮肉な感じの内容ですね。
以前、海洋モニタリングの業績でジャパンプライズを受賞した
博士を取材しましたが、海洋域では、陸地とは違って、
様々な環境条件を把握するのが難しいとのこと。
そんなわけでなおさらのこと、勝手に進行してしまう変化に
手を加えて改変するのは難しいそうです。

その年のジャパンプライズのもう一人の受賞者は陸域の
狭い環境での生物関係のモニタリングに業績があった人でした。

お二人の話を聞いて思ったのは、「これまでの学問的な自然環境の捉え方は、人間の活動をコントロールできると勝手に仮定して、考えられてきた。しかし、実際は人間の活動もまた、人間には手を加えられない
ファクターである」ということでした。

stochinaiさんの現実的な見方が、今後主流にならざるをえない
と思います。
Commented by stochinai at 2005-06-13 12:30
>人間の活動もまた、人間には手を加えられない
 そうなんですよね。
 だから、人の善意に期待したルールは必ず破綻するのです。リスク管理とは善意に期待しない対応策ということになるかもしれません。
by stochinai | 2005-06-12 23:55 | 生物学 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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