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1億5千万年のサカナの進化を一枚の図で理解する

 PNASの7月30日号(July 30, 2013 vol. 110 no. 31)に眺めているだけでも楽しくなるサカナの進化系統図が出ています。
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 オープンアクセスになっていますので、誰でも全文を読めますし、pdfでダウンロードすることもできます。下のタイトルをクリックするとPNASの全文表示ページが開きます。
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 サカナの進化といってもサカナすべてというわけではないのですが、サカナの主要なグループである硬骨魚類の中でも主要なグループである英語では spiny-rayed fish と呼ばれるグループの進化の全貌です。日本語では棘鰭上目(きょくきじょうもく)と呼ばれるグループのお話です。ウィキペディアによれば、この仲間には「スズキ目やカサゴ目など13目267科2,422属が所属し、魚類全体の約半数にあたる14,797種が含まれる」のだそうです。この種数の多さはなんと現存の脊椎動物の3分の1を占めるというとても繁栄しているグループということになります。

 このグループはあまりにも大きいこともあり「分類体系は揺れている」のだそうで、「何らかの見直しが必要であるという認識は共有されている」ということで、この論文の研究がなされたということです。方法はもちろん遺伝子の比較です。520種のサカナのすべてに含まれる10個の遺伝子を比較し、その結果の中に37種の化石種をいれて系統樹を描きあげました。

 spiny-rayed fish は化石の研究でも、白亜紀の終わりの恐竜などの大絶滅期の後に 爆発的な種分化が起こったとされていたのですが、今回の分子生物学的解析でもそのことが示されています。

 上の円になった系統樹には、1億5千万年の spiny-rayed fish の進化の歴史が描かれていますが、現在に至る中間地点に近いところに引かれた点線の円が白亜紀と古第三紀のK/Pg境界です。これはユカタン半島に大隕石が落ちて地球の気候が変わり、大型爬虫類の絶滅のきっかけとなったといわれるところで、今回取り上げられたサカナの進化もそこを境に爆発的な放散進化を遂げたということがこの図からわかります。

 同じ論文の中にこの円状の系統樹を直角に開いた見やすい図に置き換えたような図もでています。
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 こちらにも、同じK/Pg境界の点線がありますので直感的に対応がつくと思います。

 どちらの系統図にも代表的なサカナの図が載っていますので、どんなサカナが古くからいて、フグはもっとも新しく出現してきたこともすぐに見て取れます。その下には化石のサカナがどの時代にどのくらいの多様性があったかを示しているのでしょうか。私もよくわかりせんが、見ているだけで楽しくなる「絵本のような論文」だと思います。

 オープンアクセスの時代になって、系統樹には文字だけではなく専門家でなくても直感的に理解できるような図が添えられることが多くなってきたと感じます。それは、我々のような専門外の生物学者さらには研究者ではない一般の方々の興味をかきたて、さらには彼らにはある程度の理解を促す素晴らしいメディアになっていることを感じます。

 恐竜たちが絶滅した頃、恐竜とは食う食われるなどという関係がほとんどなかったと考えられるサカナが爆発的に多様性を増していったという事実を知ると、その頃の地球はいったいどんな世界だったのかと想像するだけでも楽しくなりますし、その想像は専門家だけに独占させておくにはあまりにももったいないものであることが、こうした素人でも近づける論文になって世界に提供されることの意味は決して小さくないと思われます。

 こういう楽しい論文を目にすると、専門家と素人という壁だけでなく、年齢や国境も簡単に越えられる気がします。

 オープンアクセスの素晴らしさを十分に生かした論文を楽しんで眺めてください。

 そうでした、今日のタイトル「1億5千万年のサカナの進化を一枚の図で理解する」というのは、この論文の解説記事であるサイエンティフィック・アメリカンのブログ記事のタイトル

 150 Million Years of Fish Evolution in One Handy Figure
 By Jennifer Frazer August 29, 2013


 を訳したものです。
by stochinai | 2013-08-30 20:17 | 生物学 | Comments(0)

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