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類人猿の脳回路に記憶として刻まれたヘビの恐怖

 我々は知識としてヘビには毒を持つものがあることを知っているのでヘビを見ると思わず恐怖を感じてしまうのかと思っていましたが、昔からニホンザルやチンパンジーなどの類人猿もヘビを怖がることが知られているとのことです。
類人猿の脳回路に記憶として刻まれたヘビの恐怖_c0025115_2029680.jpg
 このヘビの写真は、下の論文の解説記事(Snakes On the Brain: Are Primates Hard-Wired to Recognize Snakes?)からの引用です。

 この写真の記事のもととなる興味深い論文が、10月28日付のPNASオンラインに載りました。
類人猿の脳回路に記憶として刻まれたヘビの恐怖_c0025115_20333912.jpg
 上に述べたヘビの写真の出ている記事を読んでいただくと良いかもしれませんが、原著の論文に書かれている内容もそれほど難しいものではありません。

 生まれてからずっとオリの中で飼育されて、一度もヘビを見たことのない成体のニホンザルに、コンピューターディスプレイに映されたヘビ、サルの顔、サルの手や無関係な図の映像を見せた時に、脳の中で神経細胞がどのように反応するかを記録したものです。
類人猿の脳回路に記憶として刻まれたヘビの恐怖_c0025115_20395413.jpg
 この図の上から、それぞれの映像を見た時に、反応した細胞の数(A)、細胞の反応の強さ(B)、そして反応するまでの速さを示したもので、いずれの場合もヘビの写真を見た時に、もっとも多くの細胞が、もっとも強く、そして最も早く反応したという結果です。

 写真をいろいろなパターンに変えても、ヘビには強く、他のものにはそれほどでもない反応が起こったことが一目瞭然です。
類人猿の脳回路に記憶として刻まれたヘビの恐怖_c0025115_20395687.jpg
 解説記事によれば、類人猿の祖先となる現存の哺乳類とそれを食べるくらい大きなヘビが進化したのが1億年くらい前、そして毒ヘビが進化してきたのが6000万年くらい前だということで、類人猿が進化してきたときにはすでに恐ろしい敵としてのヘビがあちこちにいたようです。

 というわけでヘビに対する警戒心が、類人猿の脳の神経回路にハードウェアとして刻み込まれるくらいの脅威と時間的余裕があったということなのかもしれません。

 ちなみに、この研究の中心となったのが富山大学のグループだったので、被験者としてのサルがニホンザルだったようです。

 ヒトにはヘビを恐れる他にクモが恐いというクモ恐怖症というものがあると知られていますが、それも類人猿の脳に回路としてハード的に組み込まれていたりするのでしょうか?

 心理学や行動学と進化学が結びつくと、いろいろとおもしろい研究が生まれるものだと思います。
Commented by さなえ at 2013-10-30 07:07 x
この祖先説は以前からいわれていますが、釈然としません。というのはカナダにいたとき子供たちが蛇が好きなのに驚いた経験があるからです。蛇を怖がらないどころか蛇は人気者でした。動物園でも蛇の前は黒山の人だかりでしたし、みんな平気で蛇を触ってかわいがっていました。大人からの刷り込みがないと蛇を怖がらないのかと目から鱗だと思ったのですが。どうしてなんでしょうね。蛇を怖がらない遺伝子ってあるのか、毒蛇のいない地域では蛇を怖がる遺伝子がなくなったのか。人間の場合は大人の刷り込みの効果なのか。猿が実験者の顔色を読んだのかw。面白いです。
Commented by stochinai at 2013-10-30 11:23
 実はタイトルにはちょっと「誇張」があって、今回の結果は「恐怖心」が引き起こされるかどうかまでは言っていないようです。ただ、ヘビを見た時にサルの脳が素早く強く、大規模に反応するということだけが証明されたというべきところだと思います。おそらくヒトでも、ヘビに対して脳がそのように反応するのだろうと思いますが、その後の学習でヘビを好きになった場合には、ヘビを見た瞬間に素早く大規模に「好き」だという興奮が起こるのではないかと推測されます。あるいは、ヘビに慣れてくるとこうした脳の「原始的な」反応はだんだんと薄れていき、ヒトの顔を見た時と同じように「淡々と」した反応になる可能性もあると思います。
 脳の反応性はどんどん変わるところがおもしろいところであり、また研究が難しいところでもあるのでしょうね。
 コメント、ありがとうございました。
by stochinai | 2013-10-29 20:54 | 生物学 | Comments(2)

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