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性選択:美しいオスだけではなく珍しいオスもモテる

 動物の世界にはオスはメスに選ばれないと子供を残せないという厳しい現実があります。この話を女子大ですると必ず「ヒトではイケメンのオスがメスを選んでいるからそうではない」という意見が出てくるのですが、ヒトでもメスは子供を産みたいと思ったら相手になってくれるオスを選びさえすれば、どちらかに不妊症の問題さえなければ、必ず自分の子供は作れます。ところがオスの場合には自分の精子を受け取って子供を産んでくれるメスが見つからない限り、自分の子孫は残せないのです。

 そこで、動物の世界ではメスに選ばれるためにオス同士が争ったり、オスがメスの好む形態に変化したりと、メスに選ばれるということを基準として起こる自然選択=性淘汰がしばしば見られます。孔雀などのトリやオスが派手な熱帯魚、オス同士が戦って一番強いオスがメスを総取りするゾウアザラシなどでは、メスをめぐる性淘汰が起こっていることが観察されています。

 この性淘汰では、孔雀の尾羽根やキンカチョウのくちばしの色など、メスがオスの「見た目」の派手さなどはっきりと優劣のつくものを基準として、ある意味で客観的なモノサシでオスが選ばれることが多いと思われてきました。ところが、本日付のNatureでオンライン公開された論文では、グッピーでは従来考えられていたような「美しい」という基準以外に「珍しい」という基準でメスがオスを選ぶ性淘汰が起こっていることが報告されています。

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 実験自体はきわめて簡単なもので、野生のグッピーが住む川でおおまかに見るとオスが2パターンの模様を持っているものがいる場所があって、旧来の性淘汰理論ではより美しい方がメスに選ばれることによって、そちらのパターンのオスだけになっていくことが予想されるところを選び、野生の環境のまま実験を行いました。

 そこにいたグッピーのオスがこちらです。
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 胴体の模様にはあまり違いはないのですが、右側の3匹は尾が派手です。一方、左側の3匹は尾が地味です。従来の性淘汰理論だと、右側の尾が派手なものがメスに選ばれて、こちらのパターンがどんどん増えていくことが予想されていたのですが、ここの川ではいつまでたってもどちらもバランス良く生き残ってきていることから、研究者はグッピーでは、メスが「派手なオス」を選ぶという従来型の性淘汰以外に、数の少ない「珍しいオス」を選ぶという性淘汰も働いているのではないかというのが実験の前提となった「仮説」です。

 そこで、川の中でグッピーがほとんど行き来できない閉ざされた流域を選び、そこでふたつの模様パターンを持ったオスとメスの数の比率を調整し、派手なオスが多いグループと、地味なオスが多いグループの集団を作り、それぞれの集団で生まれてくる子供がどちらの模様パターンになるか(つまり、どちらのオスの子が多く生まれたか)を検定してみたところ、非常におもしろい結果になったというわけです。

 こちらの解説記事の模式図を見れば、実験とその結果がひと目でわかります。
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 この記事の図がこちらです。
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 つまり、ここのグッピーでは派手なオスが多い集団ではメスが地味で珍しいオスを選んで子供を産み、逆に派手なオスが少ない集団ではメスが派手で珍しいオスを選んで子供を産む結果、派手なオスと地味なオスのバランスが保たれるような「性淘汰」が働いているというのです。

 まだまだ実験的に甘いところがある研究にも見えますが、メスがオスを選ぶ基準として「珍しさ」「希少性」が実験的に示された初めての例かもしれません。

 「なるほど~、だからヒトでも『変わり者』が意外とモテたりするのか」という話にすぐ持っていってはいけないのですが、動物の世界で希少性を示したオスの子供が残りやすいシステムがあるのだとすれば、それは「多様性」を残す仕組みとしてはなかなか良くできていると思われます。

 生物の世界はまだまだ奥深く、新しいことが次々と発見されてきますよ。
by stochinai | 2013-11-07 19:47 | 生物学 | Comments(0)

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