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死体の匂いを忌避するゼブラフィッシュが持つ嗅覚タンパク質

 私自身がいわゆるヒトの死体の腐臭を嗅いだ記憶が確かにあるわけではないのですが、どんな動物でも自分の仲間の死体の存在が感知されたら、その場から逃げようとする性質がなければ自分もまた同じ運命に至る可能性がありますから、非常に重要な感覚の一つであり、またその臭いから遠ざかろうとする行動パターンも進化の過程で獲得していることは想像に難くありません。

 11月11日にPNASオンライン版に登場した論文では、ゼブラフィッシュが死体から生成する臭いに対する特異的な嗅覚レセプタータンパク質を持っていることと、その臭いに対してはっきりとした忌避行動をとることを示しています。
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 カダベリン(Cadaverine:cadaverは死体という意味)はまさに死体から発せられる臭いの代表的なものでヒトもその臭いを過去に嗅いだ経験がなくともその臭いには強い忌避感を示すと言われている物質です。
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 Googleで検索すると検索しなくてもトップページに分子模型とともに出ています。

 このカダベリンの臭いをゼブラフィッシュにかがせると、彼らもそれを忌避する行動をとることがまず示されています。
死体の匂いを忌避するゼブラフィッシュが持つ嗅覚タンパク質_c0025115_1720650.jpg
 A,B,Fがサカナの遊泳軌跡を描いたものですが、オレンジ色の軌跡が何も入っていない水槽でのサカナの動きで、黒い色の軌跡がAとFではカダベリンを与えた時のものです。Bは餌の臭いを与えた時で、AやFとは逆に臭いの元に集まることがはっきりと示されています。

 死体の臭いのもうひとつの代表とされているプトレシンに対してもほとんど同じ忌避行動を示すようです。

 ゼブラフィッシュはカダベリンを含むアミンに非常に敏感に反応する嗅覚レセプタータンパク質(TAAR)の遺伝子をなんと112個も持っていることが知られているのですが、いずれのレセプターに対してもはっきりと対応する臭い分子が同定されてはいませんでした。

 今回、この論文では特定の臭いをかがせた時に活性化する嗅覚神経を可視化する方法(レポーター解析)を使って、カダベリンに対する嗅覚レセプターがこの112個のタンパク質の中でもTAAR13cと呼ばれるレセプタータンパク質であることを突き止めたのです。

 このタンパク質を発現している嗅覚神経は非常に数が少なく、ごく微量のカダベリンに対しても反応し、プトレシンに対する反応は極めて弱いことも明らかになり、カダベリンに対する特異性が非常に高いことも確かめられました。マウスやヒトでもカダベリンに対する忌避行動は知られていますが、この嗅覚タンパク質はまだ同定されていませんでしたので、今回の成功は非常に価値のあるものです。

 最近の論文の特徴としてグラフィック要約というのがあって、この論文にも載っています。これをみると一目瞭然ですね。
死体の匂いを忌避するゼブラフィッシュが持つ嗅覚タンパク質_c0025115_1745096.jpg
 また、例によって解説記事もBBCにありますので、この論文があまりにも遺伝子やタンパク質や神経の話でこんがらかるという方はそちらをお読みになると良いかもしれません。

 この写真が目印です。
死体の匂いを忌避するゼブラフィッシュが持つ嗅覚タンパク質_c0025115_174558100.jpg
 Rotting flesh receptor discovered in zebrafish

 肉を食べる動物の場合には、微量でもこの臭いを嗅ぎ分けることができるかどうかは、食中毒に対する防御という意味でも重要だと言われているようです。
by stochinai | 2013-11-14 17:53 | 生物学 | Comments(0)

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