5号館を出て

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未来につながる解決策を見つけられなかった我々

 理研RDBCDBのS氏のご冥福を心からお祈りいたします。

 日本の科学、特に生命科学・医学関連分野にとってはある意味で制度改革の最大のチャンスだったとも言える状況だっただけに、非情に残念です。ひとりRDBCDBだけではなく、文科省・厚労省、大学・研究所、特に医学・生命科学分野全体を根本からゆるがせる問題があちこちで火を吹き、日本中をゆさぶっていた中で、なぜか話題がRDBCDBだけに矮小化される気配に嫌なムードを感じていたところですが、その状況をさらに悪くさせることになることを、今強く危惧しています。

 ここから、いかにも日本らしい幕引きが始まるのではないかという恐れを無力感とともに抱いています。

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 罪を犯したものが、罪を償う前に消滅させられてしまうという「最悪の罰」を受けたことになってしまう今回のような事態に、我々日本人は非情に弱いと思います。

 外国からみると、日本人は自分たちの手に負えない問題を前にすると、誰かが「腹を切る」ことですべてをチャラにするという国民だと思われている節があるようですが、こういう事態を前にするとやはり我々はそういう国の一員なのかもしれないと思えてもきます。

 このままズルズルと問題を先延ばしにするということは、そういうことになるのだと思います。

 今、やるべきことはRDBCDBの研究を担っている実働部隊を除き、すべての管理職が引退し、下部構造をそのままに新しいRDBCDBに生まれ変わることしかないと思います。それと同時に、文科省・厚労省、全国の大学の研究教育体制、そして製薬や医学業界と大学、研究所のしがらみをすべてチャラにするところから作りなおさなければ、この国の教育・研究・医学体制はズブズブの腐敗を続けることになるでしょう。

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 だからといって、そんなことが簡単にできるとはまったく思ってはいません。多分、できないだろうと思っています。

 予算と人間を削られ続けた大学からは大学院生が逃げ出し、選択と集中ということで集中的に予算が投下された理研のようなところではこのような事態が吹き出し、文教族と言われる国会議員がたくさん出たような某W大学のようなところでは、博士偽装問題があっても絶対に我々は変わらないぞというような情けなさが香り、日本の教育、研究体制がガタガタになっていることは、内側にいる人間にはみんなわかっていることです。

 どうしますか。

 今回もまた、犠牲者の死に免じてすべてを忘れますか?
Commented by 鶏肋 at 2014-08-05 22:03 x
RDBはCDBのことでしょうか?

それはそうと、今回のエントリーには全く失望しています。
私は再生医療の分野ではありませんが、これだけの研究者を失ったことは日本にとっても大きな損失であると思います。

stochinaiさんにとってみれば、今回のSTAP騒動は「選択と集中」に対する革命の狼煙に見えて、その火が弱まることばかり懸念しているのでしょうが、それはあまりにも視野が狭いのではないでしょうか。

(文字数の関係でコメントを分割します)
Commented by 鶏肋 at 2014-08-05 22:04 x
私は科学者の使命はあくまでも「サイエンス」を広げることであり、それを進めることの出来る研究者はどの分野であろうと純粋に尊敬すべきであると考えています。STAP騒動も馬鹿な政策もどうでもいいんですよ。医療と基礎科学の違いはあれど、科学の知見を広げるために全ての研究者が努力をしているわけで、私のような研究者もどきでも研究費がなかろうと科学を少しでも押し広げるために足掻いています。「今回もまた、犠牲者の死に免じてすべてを忘れますか?」というのは革命者の物言いであっても、研究者の物言いではありませんね。

笹井さんの訃報の報道を見た時には非常に残念に感じました。その後で、「小保方さんを虐げる存在が報いを受けた」という感想を述べた学生と、このエントリーを見て、苛立たしさを感じたのが正直なところです。
Commented by stochinai at 2014-08-05 22:45
私にはSTAP細胞に心を奪われた時に彼は科学者から経営者あるいは管理者になったと感じられました。生涯一科学者として生きていけたのなら、STAPごときにだまされる方じゃないですよね。
Commented by stochinai at 2014-08-05 22:54
もうひとつ蛇足を付け加えると、Sさんは幕引きとか火消しとかを考えていたのではまったくないとも確信しています。ただ、自分がかかわっているとされるすべての無理難題を解決することができないことがはっきりしているのに、毎日のように無理難題が増えていく状況に置かれて、このまま生き続けることは死ぬよりもつらいと思ったのだろうということは「理解」できます。そういう意味では、いじめにあった小中高生の自殺と通じるものがあると感じています。
Commented by 鶏肋 at 2014-08-05 23:09 x
> 私にはSTAP細胞に心を奪われた時に彼は科学者から経営者あるいは管理者になったと感じられました。

そうでしょうか?「再生医療」を目的にしている研究者であれば、新しいブレイクスルーの可能性があれば、つい飛びついてしまうこともあると思います。
これは科学者の宿命であると思うのですが。

私としても、STAP細胞よりも、癌化との関連性で似たような現象があるのではないかと興味を持ちました。STAP細胞自体がほぼ存在しないとわかった今でも、刺激による初期化(多分、これをSTAP現象と呼ぼうとしていると思うのですが)があれば、癌幹細胞との関係で面白いと考えています。
Commented by stochinai at 2014-08-05 23:14
山中先生もそうですが、再生医療を目的にしている方は私には研究者というよりも「お医者さん」だというふうに見えます。それよりはプラナリアの幹細胞の研究を一所懸命やっている方がよほど研究者らしく見えるのは理学部人の偏見というものかもしれませんが・・・。
Commented by stochinai at 2014-08-05 23:15
さらに蛇足を重ねれば、もちろん「お医者さん」のほうが、「研究者」よりも世の中から求められる存在であることも間違いないと思っています。
Commented by alchemist at 2014-08-06 09:41 x
驚きました。
ご本人が3度ほど辞意を表明しておられたのを、放置していたという意味の報道も見かけました。5月下旬あたり、ほぼ存在はないということがハッキリした時点で何らかのキリをつけておけば、こういう事態は避けられたのではないでしょうか?組織の危機管理能力の問題のようにも見えます。
にしても、ちょっと似た状況で渦中のヒトになったバルチモア大先生、意気軒昂でした。民族文化の差を感じたりしてます。
Commented by ヒト音 at 2014-08-06 14:12 x
>新しいブレイクスルー
は捏造からは生まれませんよね。
by stochinai | 2014-08-05 19:39 | 科学一般 | Comments(9)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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