2005年 07月 28日
小学生のラボ訪問
今日は前から約束していた、小学生理科教室の皆さんのラボ訪問がありました。私たちが開発したアフリカツメガエルの純系であるJ系統の分譲をお願いしているワタナベ増殖さんのご紹介ということもあり、はるばる関西からサイエンスキャンプin北海道ということで来られる児童の皆さんにラボを見てもらうのです。
実際に関西から来られた子供さん達は、12名だったのですが同じキッズラボの帯広校のみなさん16名も一緒だったので、総勢28名だったのだと思います。それに、関西からの付き添いの先生2名、帯広からの先生2名(?)、お手伝いの学生さん(北大生?)が3名ほどだったように思います。それに、取材陣として科学技術コミュニケーター養成ユニットのNさんと同伴のゲストさんがいらっしゃったので、30数名の大行事となりました。
最初に夏休みも近いために空いていた学生実験室を借りて、私が「講義」をしました。市民セミナーという形の一般の方を相手にした講演はやったことがあるのですが、小学生を相手にした本格的な講義は初めてです。2日ほどかけて準備したものの、飽きられないためにどうするかということで、だいぶ悩みました。
しかし、相手の顔を見るまでは講義の最終バージョンはできあがらないという、いつものポリシーで現場に望むことになりました。やってみると、何とかなるものです。
講義の内容は、自己紹介(私のルーツである、岩手県花巻市をGoogleMapを使って日本全図から2万5000分の1まで拡大)から始まって、北海道大学、理学部、生物学科と進んだところで、「勉強と研究はどう違う?」という話をちょっと長くやりました。
そこで、サイエンスの世界には答が本に書いているものから、余りよくわかっていないもの、さらにはまだ誰も知らないところがあり、それが勉強と研究との違いで、高校までは勉強ばかりだけれども、大学が終わる頃からは研究がはじまるんだよ、というちょっと難しい話をしました。前に同じ話を高校生にしたことがあるのですが、ふ~んという感じで聞き流されてしまった記憶があります。ところが、意外なことに今日の小学生の数人はこの話をきちんと理解しただけではなく、けっこう印象に残ったらしく感想メモの中に書き残していってくれました。これには、ちょっとびっくりでした。
で、その後は我々の研究室で行っている研究の話をしました。導入は眞鍋かをりさんに登場してもらって(もちろん録画です)、サイエンスZEROの「脳を再生するミミズとオタマジャクシの話」です。横で見ていたNさんの話によると、パワーポイントの画面からビデオ画面に変わったとたんに、身体をゆらゆらとゆすっていた子供達もしゃきっとなってスクリーンに釘付けになっていたとのことです。子供には動画というのが、想像以上にインパクトがあるということでしょうか。
「再生って知ってますか」って聞いたら、「知ってる。知ってる。プラナリアだ」とか「ヒトデも再生するんでしょ」とか、さすがに理科教室の子供達はひと味違います。楽しくやりとりしながら話を進めることができました。
その後は、ミジンコとそれを食べるフサカの戦いの話です。フサカがいるとミジンコの背中にトゲが生える話をすると「それ知ってる。トリビアで見たもん」です。小学生とは言えさすがに関西人、ぐんぐん乗ってきます。それに比べると、帯広の子供達はおとなしかったことを今になって思い出しました。このミジンコの種名は何ていうんですか、などという専門的な質問まで出てきて「おー」と思う瞬間も。
実はここでも、うちの大学院生が撮影したビデオが子供達を引きつけました。トゲのないミジンコはあっさり食べられてしまうのに、同じ大きさのトゲのあるミジンコは捕まっても捕まっても飲み込まれることなく逃げるシーンには、真鍋さんのビデオと同様アンコールです。
最後にオタマジャクシとスペースシャトルの話をしましたが、さすがにちょっと疲れてきたのか、時事ネタであるにもかかわらず(実は旅行中で、彼らには時事ネタではなかったのかも知れません。今、気がつきました)ちょっと反応が鈍くなってきましたので、早々に話を切り上げて「それじゃあ、実験室を、見に行こう!」ということで、講義はお開き。
45分くらいかかるかな、と思って用意したネタでしたが時計を見てみると30分でした。まあ、小学生の緊張を維持するのはこんなものかもしれません。今時は、大学生でも45分持たせるのは大変です。
さて、その後は実験室探検。さすがに、子供達は理科教室で鍛えられているだけあって、ピペットマンまで知っていましたが、動物飼育室に入ると一転してみんな普通の子供達に戻って大騒ぎでした。すごいパワーとエネルギーで、圧倒されます。あらゆる動物をさわりたがるし、写真を撮りまくっていました。カエルが欲しいとか、プラナリアを持って帰りたいとか、先生を焦らせていました。そう言えば、たくさんの子が立派なデジカメを持参していて、それにもちょっと驚きでした。
とまだまだ思い出すことはたくさんあるのですが、少なくとも普通に見学に来る高校生などとは全然違うということが、今日の強い印象です。この子達の多くはおそらく「学力」の高い子に違いないのですが、学力の高い高校生の多くにはこのパワーとエネルギーを感じることはできません。中学・高校と進むうちに何かを捨てさせられてしまうのかもしれません。受験に押しつぶされそうになっている高校生ではなく、こういう恐れを知らない子供達にサイエンスをおもしろさを吹き込んでいくことができれば、日本は変わるかもしれないと感じました。
大変は大変でしたが、なかなか楽しい経験をさせてもらいました。キッズラボの方からは、もっと大規模にしてこれからも続けて行きたいという話がありましたが、そうなるともはやボランティア・ベースの私の手には負えません。TAを雇わせてもらって、もう少しシステマティックにやることを考えて行くことになるでしょう。
最後に書かなければならないことが、ひとつあります。
今日来てくれた子供達は間違いなくお金持ちで、家庭の教育意識も高い親に恵まれた子達です。しかし、日本の将来を考えるならば、お金に恵まれていない家庭の子達にも同じような機会を与えてやりたいと強く思いました。文科省の方々、全国の国立大学法人の方々、ひとつ本気で考えてみてくれませんか。
実際に関西から来られた子供さん達は、12名だったのですが同じキッズラボの帯広校のみなさん16名も一緒だったので、総勢28名だったのだと思います。それに、関西からの付き添いの先生2名、帯広からの先生2名(?)、お手伝いの学生さん(北大生?)が3名ほどだったように思います。それに、取材陣として科学技術コミュニケーター養成ユニットのNさんと同伴のゲストさんがいらっしゃったので、30数名の大行事となりました。
最初に夏休みも近いために空いていた学生実験室を借りて、私が「講義」をしました。市民セミナーという形の一般の方を相手にした講演はやったことがあるのですが、小学生を相手にした本格的な講義は初めてです。2日ほどかけて準備したものの、飽きられないためにどうするかということで、だいぶ悩みました。
しかし、相手の顔を見るまでは講義の最終バージョンはできあがらないという、いつものポリシーで現場に望むことになりました。やってみると、何とかなるものです。
講義の内容は、自己紹介(私のルーツである、岩手県花巻市をGoogleMapを使って日本全図から2万5000分の1まで拡大)から始まって、北海道大学、理学部、生物学科と進んだところで、「勉強と研究はどう違う?」という話をちょっと長くやりました。
そこで、サイエンスの世界には答が本に書いているものから、余りよくわかっていないもの、さらにはまだ誰も知らないところがあり、それが勉強と研究との違いで、高校までは勉強ばかりだけれども、大学が終わる頃からは研究がはじまるんだよ、というちょっと難しい話をしました。前に同じ話を高校生にしたことがあるのですが、ふ~んという感じで聞き流されてしまった記憶があります。ところが、意外なことに今日の小学生の数人はこの話をきちんと理解しただけではなく、けっこう印象に残ったらしく感想メモの中に書き残していってくれました。これには、ちょっとびっくりでした。
で、その後は我々の研究室で行っている研究の話をしました。導入は眞鍋かをりさんに登場してもらって(もちろん録画です)、サイエンスZEROの「脳を再生するミミズとオタマジャクシの話」です。横で見ていたNさんの話によると、パワーポイントの画面からビデオ画面に変わったとたんに、身体をゆらゆらとゆすっていた子供達もしゃきっとなってスクリーンに釘付けになっていたとのことです。子供には動画というのが、想像以上にインパクトがあるということでしょうか。
「再生って知ってますか」って聞いたら、「知ってる。知ってる。プラナリアだ」とか「ヒトデも再生するんでしょ」とか、さすがに理科教室の子供達はひと味違います。楽しくやりとりしながら話を進めることができました。
その後は、ミジンコとそれを食べるフサカの戦いの話です。フサカがいるとミジンコの背中にトゲが生える話をすると「それ知ってる。トリビアで見たもん」です。小学生とは言えさすがに関西人、ぐんぐん乗ってきます。それに比べると、帯広の子供達はおとなしかったことを今になって思い出しました。このミジンコの種名は何ていうんですか、などという専門的な質問まで出てきて「おー」と思う瞬間も。
実はここでも、うちの大学院生が撮影したビデオが子供達を引きつけました。トゲのないミジンコはあっさり食べられてしまうのに、同じ大きさのトゲのあるミジンコは捕まっても捕まっても飲み込まれることなく逃げるシーンには、真鍋さんのビデオと同様アンコールです。
最後にオタマジャクシとスペースシャトルの話をしましたが、さすがにちょっと疲れてきたのか、時事ネタであるにもかかわらず(実は旅行中で、彼らには時事ネタではなかったのかも知れません。今、気がつきました)ちょっと反応が鈍くなってきましたので、早々に話を切り上げて「それじゃあ、実験室を、見に行こう!」ということで、講義はお開き。
45分くらいかかるかな、と思って用意したネタでしたが時計を見てみると30分でした。まあ、小学生の緊張を維持するのはこんなものかもしれません。今時は、大学生でも45分持たせるのは大変です。
さて、その後は実験室探検。さすがに、子供達は理科教室で鍛えられているだけあって、ピペットマンまで知っていましたが、動物飼育室に入ると一転してみんな普通の子供達に戻って大騒ぎでした。すごいパワーとエネルギーで、圧倒されます。あらゆる動物をさわりたがるし、写真を撮りまくっていました。カエルが欲しいとか、プラナリアを持って帰りたいとか、先生を焦らせていました。そう言えば、たくさんの子が立派なデジカメを持参していて、それにもちょっと驚きでした。
とまだまだ思い出すことはたくさんあるのですが、少なくとも普通に見学に来る高校生などとは全然違うということが、今日の強い印象です。この子達の多くはおそらく「学力」の高い子に違いないのですが、学力の高い高校生の多くにはこのパワーとエネルギーを感じることはできません。中学・高校と進むうちに何かを捨てさせられてしまうのかもしれません。受験に押しつぶされそうになっている高校生ではなく、こういう恐れを知らない子供達にサイエンスをおもしろさを吹き込んでいくことができれば、日本は変わるかもしれないと感じました。
大変は大変でしたが、なかなか楽しい経験をさせてもらいました。キッズラボの方からは、もっと大規模にしてこれからも続けて行きたいという話がありましたが、そうなるともはやボランティア・ベースの私の手には負えません。TAを雇わせてもらって、もう少しシステマティックにやることを考えて行くことになるでしょう。
最後に書かなければならないことが、ひとつあります。
今日来てくれた子供達は間違いなくお金持ちで、家庭の教育意識も高い親に恵まれた子達です。しかし、日本の将来を考えるならば、お金に恵まれていない家庭の子達にも同じような機会を与えてやりたいと強く思いました。文科省の方々、全国の国立大学法人の方々、ひとつ本気で考えてみてくれませんか。

今日も、楽しませていただき、ありがとうございました。
先日の高校生と比較して、男の子のパワーの違いに
驚きましたね。男の子は中学でごろっと変わるようです。
お金持ちといえば、最後に会話した男の子
お父さんのご職業は「トヨタの副社長!」だそうです。
うちの子に、同じ教育はしてやれまへんわ。
先日の高校生と比較して、男の子のパワーの違いに
驚きましたね。男の子は中学でごろっと変わるようです。
お金持ちといえば、最後に会話した男の子
お父さんのご職業は「トヨタの副社長!」だそうです。
うちの子に、同じ教育はしてやれまへんわ。
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贅沢な企画ですがおもしろそうですね。ピアノや水泳教室のような形で理科教室があるんですか?お金持ちからはしっかりお金をいただいて、こういう企画を大学の事業の一環として定期的に行い研究費を補うのもいいですね?需要はありそうです。
教育投資の歩留まりということを考えた時、個々の親御さんの「投資」はそれほど回収率が高いものだとはとても思えません。それでも、できればやるのが親心というものだと思いますので、今後も確実に需要が見込まれる分野の一つだと思います。
ひるがえって、日本あるいは世界的視野で歩留まりを考えた場合は、多くの子供に同様の刺激を与えた場合、そのうちのある数は確実に「もの」になってくれますので、やはりこうしたことをやる場合には国家規模でやったほうが回収率が良いという気がします。
教育というものが受益者負担になってはいけないことの理由の一つはそれだと思います。
どうでしょうか。
ひるがえって、日本あるいは世界的視野で歩留まりを考えた場合は、多くの子供に同様の刺激を与えた場合、そのうちのある数は確実に「もの」になってくれますので、やはりこうしたことをやる場合には国家規模でやったほうが回収率が良いという気がします。
教育というものが受益者負担になってはいけないことの理由の一つはそれだと思います。
どうでしょうか。

30年ほど前の小学時代に、区が主催の理科教室に参加していました。週一回ほどいろいろな学校から希望者が集まって実験もどきを先生の指導の元に行っていました。自分の調べたいことをやるのが基本で、私は植物の気孔に興味があったので顕微鏡で観察記録をつけていた記憶があります。それがきっかけで研究を仕事とするようになりました。当時は公立小学校でしたが理科教室への参加は無料でしたので、親に気兼ねすることなく大好きな顕微鏡を好きなだけ使うことが出来て良い経験になっています。いまは実験塾のようなものがあるそうですが、お金もかかりますね。それが払える家庭の子供だけに手に入れられるものというのがどんどん増えていくのは希望より無気力を育てることになると思います。

私は東大の公開講座によく行きます。無料の素晴らしい講座があるのです。年に数回公募してやる単発の無料講座と、ビジネスとしてやる連続した講座との2本建てでやればいいと思います。なんでもそうですが、受益者負担の方が真剣みとありがたみが増すものなので、負担できないが熱意または能力のある人たちのための救済手段を組み合わせると、tochinaiさんのおっしゃる広い意味での歩留まりとのバランスが良くなるように思いますが、いかがでしょう。
無料で見られるすばらしい講義があります。放送大学です。スカパーの受信セットだけあればいい。
講義している教員の面子たるや、日本のアカデミズムの粋を集めているといっても過言ではないです。東大や京大でもかなわないレベルの教師陣を誇ります。
これとうまくコラボレーションして大学教育をすれば、確実にレベルアップするはずなんですが、放送大学の単位を認めようって大学はまだ少ないですね。試験にノート持込可、教科書読んでもいい、単に座ってるだけで出席点になって単位がもらえるというような普通の大学よりはずっと単位認定は厳しいんですけどね。
講義している教員の面子たるや、日本のアカデミズムの粋を集めているといっても過言ではないです。東大や京大でもかなわないレベルの教師陣を誇ります。
これとうまくコラボレーションして大学教育をすれば、確実にレベルアップするはずなんですが、放送大学の単位を認めようって大学はまだ少ないですね。試験にノート持込可、教科書読んでもいい、単に座ってるだけで出席点になって単位がもらえるというような普通の大学よりはずっと単位認定は厳しいんですけどね。
中にはアカデミズムの粋ではない例外もいて、私も1時間だけ担当したことがあります。
>これとうまくコラボレーションして大学教育をすれば
大賛成です。特に全学教育など、大人数教育の場合はビデオで繰り返し見られる放送大学は効果的です。そこから試験をしますと言えば、彼らは一所懸命勉強します。今年、講義で使ったパワーポイントを公開したのですが、驚くほどのアクセスがあり彼らがこんなに復習をしてくれるのか、と感動しました。
ただしinoue0さんもそう思われているに違いない理由で、放送大学の単位を利用しようというと「猛烈な反対」に遭いそうな気はします。私は賛成なんですけどね、、、、。
>これとうまくコラボレーションして大学教育をすれば
大賛成です。特に全学教育など、大人数教育の場合はビデオで繰り返し見られる放送大学は効果的です。そこから試験をしますと言えば、彼らは一所懸命勉強します。今年、講義で使ったパワーポイントを公開したのですが、驚くほどのアクセスがあり彼らがこんなに復習をしてくれるのか、と感動しました。
ただしinoue0さんもそう思われているに違いない理由で、放送大学の単位を利用しようというと「猛烈な反対」に遭いそうな気はします。私は賛成なんですけどね、、、、。
by stochinai
| 2005-07-28 20:51
| 教育
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